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12-34:レムの説得 中

「実際、べスターさんは私がクローンと連絡を取るために利用していた通信機をジャックしていた可能性は高いです。私はべスターさんの声を認識できませんでしたが、アランさんは戦闘時に頻繁に彼の名を呼んでいました。恐らく彼はブラッドベリとの戦闘中にクローンの肉体に取り付き、そして光の巨人に突撃した時に海に落ち、共に境界へと足を踏み入れていたのでしょう。

 貴方の言う通り、アラン・スミスの名を挙げるだけなら、ジャンヌが白昼夢を見たとでも言うことは可能ですが……見ず知らずの人名を挙げ、それが私たち共有の人物の名であるなど、どれほど天文学的な数値を突き詰めれば一致するのでしょうか?」

「まぁ、あり得ないでしょうね。本当に彼女がその名を口にしたのなら、恐らく現世うつしよ幽世かくりよの境界で、ジャンヌはアラン・スミスとべスターと出会ったのでしょう」

「えぇ……つまり、原初の虎の復活は、彼自身の……兄さん自身の願いであると共に、エディ・べスターの願いでもあるのです」

「……仮にアラン・スミスを復活させるとして、それが海に囚われた魂の解放とどうつながるのですか?」

「アランさんは、実際にジャンヌさんを解放して見せました。ならば、彼を復活させて、その時の状況を細かく聞き出せば、再現も可能かと思われます」

「成程……それで、貴女は兄を蘇らせるため、私たちを焚きつけて海と月の塔を攻略しようという算段な訳ですね」


 チェンはそこで扇子を閉じ、皮肉気に口元を吊り上げて笑った。何とか説得できそうだったのに、不穏な雰囲気な気がする。チェンはアシモフの予想通り、アランを蘇らせることに関して消極的なのかもしれない。


 こうなったら、どう説得するのが良いだろうか。頭の切れない自分では良いアイディアが思い浮かばないが、きっとレムなら――そう思って机上の女神を見つめると、彼女は予想外にあっけらかんと「はい、その通りです」と言い放った。


「ですが、どのみち海と月の塔の攻略は必須かと思います。もし月へのエレベーターを使えるのなら、課題が解決しきっていないノーチラス号に頼らずとも、オールディスの月に乗り込むこともできますし……」

「いいえ、それは不可能です。星右京が残っている限り、仮に海と月の塔のコントロールを貴女が奪い返したとしても、月からハッキングによりエレベーターは停止させられるでしょう」


 レムの言い分はガンガンに否定されてしまっている。話せば話すほど粗を探されて、協力を取り付けるのが難しくなりそうだ。そんな風にそわそわしていると、機械の鳥の奥に座っているグロリアがチェンの方へ向き直った。

「チェン、私とソフィアは晴子の言うことに賭けてみたいわ」

「アナタ達はそうでしょうね」

「何よ、そもそも海と月の塔を攻略すれば、この星のモノリスを奪い返すことだってできるじゃない」

「そうですね。だから、私もレムの意見に乗るつもりです」

「それじゃあなんで質問攻めにして晴子をいじめているのよ?」

「様々な可能性を洗い出すためですよ。それに、ここに居る者たちは皆、アラン・スミスに帰ってきてほしいという感情が強いでしょう? ですから、こうやって憎まれ役を買いながら、一度情報を整理しているのです」


 なるほど、そういうことだったのか。扇子を仕舞ったのは、もうレムと化かし合いをする必要が無くなったからだったのかもしれない。チェンは広い袖に両手を通し、背もたれに身を預けて深々と頷いた。


「レム、貴女の目的は分かりました。そして、それに協力することもやぶさかではありません……結局、再び手を組み、海と月の塔を攻略することが望ましいと言えるでしょう。ですが、もっとも根本的な問題が解決していませんよ」

「えぇと、それは何でしょうか?」

「戦力ですよ、セブンス」


 こちらの質問に対しチェンは一度こちらを見て、またすぐにレムの方へと向き直った。


「ヘイムダルの決戦の時には私の本体とグロリア、ソフィアが居なかったわけですが、代わりにアラン・スミスにホークウィンド、アズラエルを失っています。T3と合流していない今、以前よりも少ない戦力で事にあたらなければなりません。

 さらに、ヘイムダル防衛に成功した星右京、リーゼロッテ・ハインライン、ダニエル・ゴードン、ローザ・オールディスは全員健在……その上に強化された第五世代型までいるのです。ハッキリ言って、勝算はゼロに近い」

「無理を承知でヘイムダルへ突貫したのは貴方ですよね?」

「以前は戦力の温存も考えていましたからね。ノーチラス号の構想もありましたし、ここの秘密基地もまだ使えた……ですが、もう絶対に次はありません。次の勝負は、真に宇宙の命運を決する戦いになります。

 断っておきますが、レムがモノリスのコントロールを取り戻し、アラン・スミスを蘇らせるという計画に反対するわけではありません。ですが……海と月の塔を攻略するのなら、戦力を増強するか、勝てるだけの奇策を用いるか、はたまたその両方が必要になるでしょう。

 同時に、あまり悠長に構えていることもできません。最近のレヴァルへの襲撃頻度を見るに、右京らも本腰を入れて黄金症の進行を進めようとしているように思います。こちらから攻勢に出るには一手も二手も足りませんが……ちなみに、貴女やアシモフの方で、何か策はありますか?」

「結論から言えば、アナタが頷けるような策はありませんね。私とアシモフが合流したのはつい先日です。私はアガタやクラウディアと仲間を探していただけですし、アシモフはひとまず人々を集め、レヴァルの地下通路や城塞を利用して防衛に専念することをしていただけですから」

「でしょうね……とはいえ、こうやって戦力が徐々に集まってきていること自体は僥倖ですし、悪いことばかりでもありません。ひとまず、右京らから守るため、アシモフにはこちらへ来ていただくか、防衛のための戦力をあちらに送るか、どちらかが必要になるかと思いますが」

「アシモフがレヴァルを離れれば人々の士気が下がり、そこから一気に黄金症が進行しかねません。そうなれば、一度アナタ達にもレヴァルへ合流していただき、防衛体制を整える必要があるでしょう」

「そうですね……ですが、まだこちらもノーチラス号の調整が終わっていません。海と月の塔を制圧するのに必要ないということは承知の上ですが、ノーチラス号も立派な戦力です……この場に捨ておくことは出来ません。

 そうなれば、一度アシモフを防衛できるだけの戦力をそちらへ送るのが良いでしょうね。その間にこちらは調整を終わらせ、そちらはアシモフ抜きでもレヴァルを防衛できるだけの体制を整えてくるのが良いでしょう。

 しかし、送れる戦力となると……」


 チェンはそこで言葉を切り、ソフィアとグロリアの方を交互に見つめた。ソフィアたちが来てくれるのならば心強いことこの上ないのだが――自分以外の人々は何か思うところがあるのか、神妙な表情を浮かべている。


 そう言えば、グロリアは母であるファラ・アシモフのことを攻撃するほど憎んでいた。それで、グロリアが嫌がると思っているのかも――しかし、それは杞憂だったようであり、ホログラムの女性は首を横に振った。

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