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12-32:チェンとの再会 下

「……そう言えば、チェンさんはアランさんとレムさんが兄妹だって知らなかったんですか?」

「えぇ、つい先日……おっと、一年前までは知りませんでした。私はアラン・スミスに直接会ったことはありませんでしたし、その死後に彼の情報はACO内で破棄されてしまいましたから。

 また、伊藤晴子……レムの本体に関しては、アーク社において情報統制アルゴリズムで頭角を現わし初めた所までは認識していましたが、旧世界が終わるまではDAPAの主要人物ではありませんでしたから、細かく情報を追ってはいませんでした。

 それに、グロリアとべスターも守秘義務をしっかり守っていましたから、私は伊藤晴子と原初の虎の関係性を、彼女の口から聞くまでは知らなかったのです」

「えぇっと、べスターさんって誰でしょう?」

「原初の虎の生みの親にして、ヤニ臭くお人好しな私の旧友です」


 また新しい情報が色々出てきたせいで頭が混乱してしまうが。ひとまずチェンはべスターという人とは仲が良かったことは分かった。今、チェンは昔を懐かしむ様な柔らかい表情を浮かべているから間違いないだろう。


 元々何を考えているか分からない人であったが、こうやって表情が見えるとぐっと身近に感じられる。人形姿も可愛くて惜しいなぁと思う部分もあるが、それ以上に顔が見えることの安心感が勝るか――などと思っているうちに、ゲンブが咳ばらいを一つして周囲を見回した。


「さて、感動の再会も済んだところですし、話を進めましょうか。私の方も予め謝っておけば、貴方達がレヴァルに集結していることは認知していました。その上で、私は貴方達を囮としていました……ノーチラス号が完成するまでの間のね」

「謝る必要はありませんよ。しかし、既にノーチラス号は概ね完成しているんですよね? むしろ、完成するのには協力したほうがスムーズだと思いますが」

「えぇ、そうですね。そういう意味でも、そろそろ貴方達にアプローチを掛けようと思っていたところです。とくに、ファラ・アシモフがやられてしまうことは避けなければなりませんから」


 誰もやられないのが一番だが、チェンが敢えてアシモフの名を挙げたことはなんだか気に掛かる。


「チェンさん、それってどういうことですか?」

「一言で言えば、敵のやりたいことを妨害するためですね。貴女も戦っている時、相手の苦手な間合いを維持したりするでしょう?」

「なるほど、そういうことですね! ……アレ? 細かいことは全然分かっていないような……?」


 凄く分かりやすいたとえに一瞬納得しかけたものの、自分の疑問が何一つ解消されていないことに気付いて首をかしげていると、チェンは表情を笑い声を――眼や眉はほとんど動いていないので、あれは作り笑いだ――あげた。


「ははは、貴女は相変わらずからかいがいがありますねぇ……つまり、敵の狙いがファラ・アシモフの命だってことです。

 彼女はこの一年間で、残っている第六世代たちを纏め上げて一大集団を形成しました。逆を言えば、今レヴァルに集っている人々は、彼女を御旗に纏まっているのです。もし、その御旗を失ってしまえば……」

「……人々の心に絶望が落ち、黄金症が一気に広がってしまうということでしょうか」

「その通りです。だから、彼らは執拗にレヴァルを襲っているのだと私は考えます。そして、敵も戦力を増強させ、その頻度は上がってきている……」


 チェンが言葉を続けている間に、レムが宙で少し前へと進む。


「それでは、早急に協力していただける、ということでよろしいでしょうか?」

「そうしたいのは山々なのですが……如何せん、ノーチラス号の調整がまだ完成していませんから、私とシモンはここから動くことはできません。それに……アナタ方は我々と合流して何を為すつもりですか?」

「私たちは、人々の黄金症を治すことを目的としています」

「……ほぅ? 何か進展があったのですか?」


 すぐにアラン・スミスという名を出さなかったのは、彼女なりにアシモフの助言を実行した形だろうか。確かに黄金症を治せれば海の魂が解放され、七柱の宿願を挫くことができる――チェンもそう思ったのだろう、瞼を僅かに吊り上げ、興味深そうにレムの方を眺めている。


「えぇ、たった一つの症例ですが、黄金症から戻ってきた者が居るのです」

「それはどのようにして寛解したのです? 何かしら貴方がたが実行した施策が功を奏した結果であり、再現性のあるものなのですか?」

「細かいことはまだ分かっていないのですが、鍵は分かっています……アラン・スミスです」

「アラン・スミスですって? 彼は光の巨人に突撃して……」

「……アランさんって、どういうことなんですか!?」


 扉が乱暴に開け放たれる音と、急に乱入してきたソフィアによって、チェンの言葉は遮られた。ソフィアは隣の部屋どころか、どうやら扉のすぐ近くで聞き耳を立てており、アランの名が出たことで思わず乱入してきたのだと思われる。


「……おやおや、思わず岩戸を開けてしまったようですね、レム」


 チェンは扉の方を見ながらシニカルに笑い、ソフィアはバツが悪そうに俯いてしまっている――自分が先日アランのことを言おうとした時には聞く耳を持ってくれなかったのに、レムが名を出したら食らいつくのも少々納得できないものの、ひとまずソフィアもチェンに促され、ようやっと会議の席についてくれたのだった。

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