12-31:チェンとの再会 中
「それで、立て続けにすいません。ソフィアはここに居るはずですよね?」
「……あの子なら、隣の部屋にいるわよ」
ゲンブに代わり、扉の向こうから声が聞こえた。背後の扉が開かれると、カラスと同じくらいのサイズの機械の鳥が室内へと入ってきて、器用にかぎ爪で扉を閉めてテーブルの上に止まってこちらを見た。
「ただ、アナタと顔を合わせるのが気まずいみたいだから、ちょっとそっとしておいてあげてくれないかしら?」
「き、機械の鳥が喋った!?」
「あのねぇ、先日普通に喋っているところを見せていたでしょう? それに、人形が喋ってたんだから、まだ機械が喋る方が真っ当でしょうよ」
言われてみれば全くその通りではあるのだが、先日は緊迫した場面での邂逅だったのでそこまで違和感もなかったし、機械という割には声のトーンはまさしく人のそれだ。そう言った諸々の違和感が――先ほどは人形が生身であることに、今度は本来生身であった者が機械であると正反対な状況な訳だが――自分が驚いてしまった要因な気もする。
「ただ、こうした方が会話もしやすいかもしれないわね」
機械の鳥が机の端まで移動して、空いている席の方を見つめると、そこに一人の女性が姿を現した。恐らく、鳥の目から照射される光によってホログラムが作られているのだろう、黒いくせ毛に気の強そうな瞳の女性であり、長い手足を綺麗に組み、微笑みを浮かべながらこちらを見てきている。
同じく机上にいるレムが現れた女性の方を向いて綺麗な姿勢で深々とお辞儀をしてみせた。
「グロリア。久しぶりですね」
「えぇ、久しぶりね晴子。まさかお互いにこんな風になるだなんて思いもよらなかったけれど」
「それで……アナタは私のことを憎んでいますか?」
質問するレムの表情は、どこか痛々しいものだった。グロリアの方も、直ぐに返答をすることはせず、何だか重々しい雰囲気を纏っている。なんだか、この二人の間には、自分があずかり知らない深い関係性がある――そんな風に思われた。
しばしの間、部屋の中に沈黙が訪れ――グロリアと呼ばれたホログラムの女性はレムを無感情な目でしばらく見つめ、しかし最終的には観念したように大きなため息を吐いた。
「私の怒りの対象は、DAPAに与した者全員に向けられている。そういう意味では、アナタも例外では無いのだけれど……アナタはオリジナルのアランが倒れるまではDAPAの関係者ではなかったからね。
それに、同じく右京の奴を倒してやりたいと思っているんでしょう? それなら、協力することはやぶさかではないわ」
「そうですか……でも、謝罪はさせてください。私は何も知らなかったとは言えども、兄を奪った組織に与して、知らずの内に敵対してしまっていたのですから」
「ちなみに、アナタは私たちがACOに居ることは知っていたの?」
「真相を知ったのはDAPAのデータベースに直結した時……つまり、私がこの星に辿り着いた後です。アナタ達の正体は、右京によって伏せられていましたから。
彼は私を病院に迎えに来てくれた時、養っていけるだけの新しい職場に転職したとだけ伝えて……アナタとべスターさんのことは気にかかってましたけれど、当面の間は私もリハビリに手一杯でしたし、満足に動けるようになってからはDAPAで働くだけの猛勉強をしているうちに、次第に二人のことを次第に気にしなくなっていっていました」
「成程ね……ま、堅苦しいのは無しで良いわ。以前と同じように話して頂戴」
「えぇ、分かったわ、グロリア」
先ほどまで重々しかった雰囲気が、会話を進めていくうちに氷解してきたようだ。どちらかと言えば、レム側が申し訳なく思っており、グロリア側が思ったほど気にしていなかったが故に、和解が進んだということになるのだろう。
そもそも、二人のいざこざの原因は何だったのか? レムがアランの妹であるものの、右京と共にDAPAに属し、グロリアは旧世界においてアランに救われたということは聞いている。多分、その辺りが話がややこしい事の要因なのだろうが――。




