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12-30:チェンとの再会 上

「まだ我々の居場所を教える気は無かったのですが、ナイチンゲイルが想像以上の大暴れをしてしまったので居場所が割れてしまいましたね……ともかく、お待ちしておりましたよ」

「えっ……まさかその声、ゲンブさん!?」


 思わず反射でそう叫んでしまうが――何というか、見慣れていたのが可愛いお人形だったので、なんだか男性から聞きなれた声が聞こえるのは違和感があった。


「あぁ、そう言えばこの姿を見せたことはありませんでしたね……改めまして、ゲンブことチェン・ジュンダーでございます。以後お見知りおきを、セブンス」

「ほへぇ……いや、何というか、想像してた感じと全然違ったと言いますか……」

「もしかして、女装趣味があるとでも思っていましたか?」

「い、いえいえ! まさかそんなことはぁ……」


 女装趣味があるとまで思っていた訳ではないが、あたらずといえども遠からずであり、思わずぎくりとしてしまった。スラっと長い背に、しかし引き締まった体躯を見ると、女性的な要素はほとんどないのだが――しかし冷静に見てみれば何となく人形が放っていた独特の色香のようなものは共通しており、なんだかこの声がこの人のものであると言うのも違和感もないような気がする。


 そんな風に思っていると、レムが自分の顔の隣にまで飛んできて、何やら難しい表情をしながら男性の方を眺めていた。


「正直、私も意外でした。以前にアナタは私に対して、変わらぬ姿と言いましたが……ホログラムの私と違って、アナタこそ一万年前とほとんど変わっていないです。どんな手段を使ったんですか?」

「祖国に伝わる強力なアンチエイジングをしているんですよ」

「まぁ、素敵。DAPAのデータベースにすら無いその方法、是非とも伺いたいですわ……サイボーグな訳ではないんですよね?」

「えぇ、実際の所、特別に何かをしているわけではありません。ただ、生来より気を練って身体を健康に保っており、長い戦いに備えて宇宙船建設段階で冷凍睡眠に入ったおかけだと思います。肉体年齢的には四十五歳って所でしょうか」

「なるほど、気というもののメカニズムはDAPA側では終ぞ解明はされたなかったですが、そういったものが確かに存在するのは認めざるを得ませんね……しかし、四十五でそれは羨ましい……」


 何がどう羨ましいのかはよく分からなかったが、ともかくゲンブことチェンに――シモンなどもそうだが、人形でなく人の姿をしている彼のことはみなチェンと呼んでいるので、自分もそれにあやかることにする――腰かけるように促され、狭い会議室の中で簡素な椅子に各々腰かけた。


「しかし、こうやってアナタ達と合流できたのは怪我の功名ですね」

「あら、アナタは私たちの居場所など分かっていて、敢えて合流していなかったんじゃないですか?」

「概ねその通りなのですが……いずれかは互いの要望を上手く折衝して合流するつもりではいましたし、何よりセブンスが見つかりましたからね。

 セブンスに関しては取り付けている発信機を確認できる機材はピークォド号に格納していましたから、どこに居るか見当もつきませんでした。私はヘイムダルでの状況はアルジャーノンに遠隔操作用のチップを破壊するまでしか把握していませんでしたので、最悪の場合も考えていたのですが……」


 レムとチェンが会話を進めているが、自分としては少々上の空だった。先日のソフィアに加えて、チェンにシモン、テレサの安否は確認できたわけだが、あと一人だけ生存が確認できていない人がいる。もしかするとここに居るかもと思って期待をしていたのだが――確認のため、二人の会話に割り込むことにする。


「ゲンブさん、あの、T3さんは……?」

「いいえ、彼とも連絡は取れていません。私も、T3とは連絡を取りたいと思っていたのですが……どうやら彼の通信機もヘイムダルの一件で故障してしまったようなのです。その様子では、そちらとも合流していないようですね」

「はい、そうなんです」

「それなら、最悪の場合を想定して行動せざるを得ないでしょうが……まぁ、しぶとい彼のことです。貴女が生きているのなら、彼も間違いなく生きているでしょう」


 そう言うチェンの声色はあっけらかんとしたモノだったが、逆を言えば彼もT3の生存を信じて疑っていないという証左でもある。まだ実際に姿を見れていないから安心はできないものの、チェンの様子に少し不安が和らぎ――もう一つの懸念事項について質問してみることにする。

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