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12-25:アーク・レイを目指して 下

「賛成しないというだけで、反対もしないと思うわ。むしろ、彼が復活して合流してくれるのなら心強いと判断するでしょう。ただ、確実に蘇えらせられるかも分からないアラン・スミスのために無為に戦力を割くことは出来ないと考えるでしょうね」

「そんな……実際にアランさんはジャンヌさんを救ってきてくれたんですよ?」

「ジャンヌ・アウィケンナ・ネストリウスが嘘をついていると思っているわけではありません。黄金症を克服してきたのだから、それ相応の奇跡があったというのは間違いないでしょう……それが原初の虎の導きと言うのなら、妙に納得もできるというものです。

 しかし、肉体を修復すれば復活できるというのは、あくまでもアラン・スミスやレムの仮説であり、実際に復活できると断言できるものではありません。もちろん、以前と比べて確度は上がったと言えますし、私もチャレンジしてみる価値はあると思うくらいには思えるようになりましたけれどね」


 アシモフはそこで言葉を切り、ソファーに座る全員を見回してから、最後にレムを見据えながら「とはいえ」と切り出す。


「貴女達はどうしても、彼の復活を優先してしまいそうな節がある……それではチェンは動かせないでしょう。それに、これは個人的な意見ではありますが、私はアラン・スミスを復活させることに関しては複雑な思いがあります」

「え、どうしてですか!?」

「感情を抜きにしても……もちろん、夫を殺され、娘を連れ出されたということはありますが……それらを抜きしても、この世界で起こった此度の騒乱は、この社会を作り上げた私たち旧世界の生き残りと、この星に生まれた子供達が決着をつけるべきことと思うのです。

 一応断っておくと、原初の虎の復活に反対しているわけではありませんよ。確かに彼自身が復活を望んでいるのは分かりましたし、元々ACOの者ではあります。ある意味では旧世界の生き残りの一人と言えるかもしれません。

 また、彼は右京や晴子、キーツにハインラインとDAPA幹部と密接な関係があったのは分かります。そう言う意味では、彼はこの戦いに関連性の深い人物と言えますし、復活すれば心強い味方になることは間違いありません。

 更に、現状では防戦一方どころか圧倒的に不利な状況……覆せるだけの力を持つ者が必要なのも確かです。

 ただ……彼は旧世界で亡くなっていた人物です。アラン・スミスという本来いなかったはずの英傑に依拠しているようでは、我々は真に独立した存在とは言えない気がする……そんな気がするのですよ」


 言っていることは抽象的で、自分としては腑に落ちない部分もあるのだが、アシモフの言わんとするところも何となくは理解できる。一言で言えば、アラン・スミスはイレギュラーな存在であり、彼を戦いに介入させることが一万年の争いに決着をつけるのに相応しくないのかもしれない、そういうことが言いたいのだろう。


 ただ、自分が腑に落ちないのは、恐らくアシモフと自分とではアラン・スミスという人物の置かれている状況に関して意見の相違があるからだろう。アシモフはアラン・スミスを死んだ人間と想っているのに対し、自分は生きていると想っているから、意見の違いが出るに違いない。


 もっと単純に、自分はあの人に帰って来てほしいと思う――それはきっとソフィアも同じなはず。確かにアランに戻ってきてもらうために多大な犠牲を払うことは違うかもしれないが、真っ向から諦めてしまうのも違うように思う。


 もっとも、アシモフ自身が言ったように、彼女はアラン・スミスに対して恨みにも似た部分があるから仕方がないのだろうが――ともかく、アシモフは自分の方からレムの方へと向き直って、穏かな調子で話を続ける。


「私の意見を抜きにしても、チェンも無為に戦力を割いてアラン・スミスを蘇らせることには同意しないでしょう。アラン・スミスのことは交渉材料の一つとして、何故彼らが合流しないかを聞き出し、再度協力できるように上手く調整してきて欲しいわ」

「そうね。了解よ」


 先ほどまで太々しい態度だったレムは、アシモフの真面目な雰囲気に合わせるように身を縮めて頷いた。レムも昨日はアランを復讐の道具に扱っているような節もあったが――アランは彼女の兄であるらしいし、ある意味では自分やティア、ソフィアとはまた別のベクトルで、レムも強く兄に帰ってきてほしいと思っているに違いない。


 話が一段落したタイミングで、ティアが小さく手を上げながらアシモフの方を仰ぎ見た。


「アシモフ、ボクもアガタたちに着いて行って行くよ。交渉には役に立たないだろうけれど……ソフィアちゃんを説得するなら、少しは役に立つと思うんからさ」

「そうね。敵に新型が出てきている以上、本当はこれ以上戦力を割きたくないのが本音だけれど……」

「申し訳ないけど、ダメと言われても行くつもりだよ。もちろん、レヴァルの状況は分かっているつもりだけれど……それ以上に、ボクはアナタ達を利用してでも、アラン君を連れ戻したいんだからね」

「えぇ、貴女がそう思っているのは分かっているし、無理にここに引き止めるつもりもないわ。

 確かに、貴女はソフィアとも長いし、チェンを説得できなくても、貴女が周囲を味方につけられるかもしれない……先日の戦闘力を見る感じだと、チェンはソフィアを当てにしているでしょうし、彼女がこちらに着くとなれば無下にはできないでしょう」

「それじゃあ、話は決まりだ。行こう、皆」

「はい、行きましょう!」


 ティアが立ち上がるのに合わせて自分も返事をし、次の旅の準備をするために立ち上がる――のだが、部屋を出る前にふと一つ疑問が生じたので、扉の前で振り返って執務を始めているアシモフの方を見る。


「そういえば、なんでアシモフさんはゲンブさんが魔王城に居るって分かったんですか?」

「それは……女の勘ってヤツよ」

「はい……? えぇっと、ともかくマリオンさんも、ソフィアのことは任せておいてください!」


 どこか悪戯気な表情を浮かべて微笑むアシモフに対し、マリオン・オーウェルはどこか物憂げな様子で頷き返すのみだった。

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