12-24:アーク・レイを目指して 上
新型の襲撃から一晩が経ち、改めて自分は今後の作戦を練るためにファラ・アシモフの執務室へと呼ばれた。奥の大きな机にはアシモフが、その隣には書記としてマリオン・オーウェルが――ソフィアのお母さんらしい、確かに綺麗で仕事が出来る感じはよく似ている――おり、自分とティア、アガタがソファーにかけて、応接机の上にレムが鎮座しているという形だった。
「……チェン・ジュンダーは、移民船アーク・レイの近くにいる、ということですか?」
「えぇ、恐らくは」
レムの質問に対して、アシモフは何か確認に満ちた様子で頷き返した。
「月を攻めるのに宇宙船が必要というのは頷けますが……アレはこの星に渡って来てから三千年の間、魔族の根城として活用されていたのです。特にメンテナンスなどもしてないないし……もう一度飛べるようにするくらいなら、一から作り直したほうが早いほどだと思いますよ」
「チェンも同じように考えているでしょう……何もアーク・レイをそのまま復元する必要もありません。チェンは一時期、ブラッドベリと共に魔王城に潜伏していました。こう言った時のことを想定して、まだ使えるパーツなどを見繕っていたのかもしれません……彼だけの力ではなかったでしょうが、ACO残党も独自にモノリスを解析してピークォド号を完成させているのですから、チェンにもある程度宇宙船に関する知識もあるでしょう」
「成程、使える一部のパーツのみを流用し、宇宙船を再設計しようということですか。それなら、まだもう少し現実的ですね」
「ともかく、次の目的地はそのアーク・レイがある場所ですね!」
自分が周りを見ながらそう言うと、アシモフは渋い顔をしながら首を傾げた。
「え、アレ? 違うんですか?」
「少し慎重になる必要はあると言えるでしょうね。私たちがまたぞろとアーク・レイを目指していけば、右京達にチェンの潜伏場所を教えてしまうリスクもあり得ますから。もちろん、聡い彼のことです、私たちが気付いたのと同様に、今回のソフィア・オーウェルの出現でチェンの居所に目星をつけたかもしれません」
「そもそも、チェンの潜伏場所が魔王城であると決まった訳ではありませんわ。暗黒大陸のどこかに居ることは間違いないでしょうけれどね」
アシモフとアガタの言葉を聞くと、確かに確実にそこにゲンブたちが居るという前提では動かない方が良さそうだ。とは言っても、何かしら行動しなければ前進もしないのではないか――そう思っていると、ティアがアシモフの方へと向かって「それなら」と声をあげた。
「少人数で魔王城まで行くのはどうだろう?」
「そうですね……レヴァル防衛のためにあまり戦力を割けないという問題もありますし、それが良いとは思います。道中で第五世代型と遭遇する可能性は低いでしょうが、代わりに大型の魔獣を相手に立ちまわれる人員となると……」
アシモフはそこで言葉を切って、自分の方を見つめてきた。
「ナナコ、お願いできるかしら?」
「お任せください!」
「即答はありがたいのだけれど……もう一度ソフィアと会うことになると思うわ。それでも大丈夫?」
「はい! むしろ、もう一度ちゃんと話したいですから!」
戦闘に割って入ってきたグロリアの言葉を信じるなら、ソフィアにも色々と複雑な心境があるということは分かっている。昨日は怒りに流されて思わず手を上げそうになってしまったが、それでもキチンともう一度話をしたいと思う。
もっと言えば、アランが戻ってくることを話せば、あの子は必ずもう一度自分たちと共に戦ってくれるはずだ。そうでなくとも、アランが戻ってくる可能性があるということは、ソフィアに理解してもらいたい――彼女がこの一年間で見違えるように強くなったのは、結局のところアランのことを想ってのことなのだから。
そう決意を新たにしていると、横からレムが「後は」とアシモフを見ながら話を切り出し始める。
「チェンの協力を取り付けられる交渉役が必要ね。こちらの活動は知っているはずなのに合流してこないと言うことは、彼は独自路線で七柱達と戦うつもりなのでしょう」
「アガタ、レム。貴女達にその交渉役を任せたいわ」
「えぇ、私たちが適任でしょう。実際、今の私は戦力としては大きく役に立つわけでありませんしね」
言葉とは裏腹に、レムは腰に手を当てながら胸を突き出し、どこか得意げな調子でそう言った。多分、あまり暗い雰囲気にならないように気を使っておどけてくれているのだと思うが――自分より遥かに付き合いの長いはずのアシモフは、眉間をつまんで呆れたような調子で話し出す。
「本気で戦力にならないと思っているのなら、もう少し申し訳なさそうにしなさいな……ですが、交渉に関しては少々慎重に行ってください。恐らく、アラン・スミスを蘇らせるということに関して、チェン・ジュンダーは賛成しないでしょうから」
「え、なんでですか!?」
予想外の言葉に思わず大きな声をあげてしまう。すると、アシモフは自分の方へ向き直って小さく首を横に振った。




