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12-19:金と銀の演武 下

「やっと抜いてくれたね……少しは本気になってきてくれたかな?」

「さっきからずっと本気だよ! ソフィア、すごく強くなってるんだもん!」


 嘘偽りない賛辞を送ったつもりだったのだが、少女の氷のマスクはあからさまに不機嫌そうな物へと変貌する――感情を抑えているようで結構顔に出るタイプな所も可愛い所だと思っていたのだが、今の雰囲気はただひたすらに怖かった。


「……そうやって、いつも人をおちょくっているところ、気に食わないって思ってた」

「お、おちょくってなんか……」

「いいえ、ナナコは自分の強さにかまけて、人を見下している所がある。今だって、まだ本気を出さなくても、私をいなせると思ってる。だから、ギリギリまで剣を抜かなかったし、今もそうやってへらへらしてるんだ。

 それに、これだけ言っても……ナナコは自分が悪かったって言って態度を改めないことも分かってる……」


 切り出しは厳しい物だったが、ソフィアの口調は最後にどこか諦めたような、物悲しい調子へと変わっていった。今なら、話を聞いてくれるかも――そう思った瞬間、ソフィアはまた冷たい表情を浮かべてこちらを見てくる。


「……T3はどうしたの?」

「あの人は……私を逃すために、ヘイムダルに残って……」

「……それで、結局世界は荒廃した。T3は無駄死にだったんだ」


 一瞬、何を言われているのか理解が追いつかなかった。第一に、世界存続しているのはT3がヘイムダルの最下層でアランの映像を流し続けてくれたからであり、決して無駄ではなかったということ。第二に、結構きついことを言う子ではあったが、仲間の頑張りを無駄と言う子ではなかったはずだ――だからこそ、最初何を言っているのか分からなかったのだと思う。


「T3さんは死んでないよ。きっと、どこかで生きている」

「それなら、どうしてあの人はチェン・ジュンダーにも、ファラ・アシモフにも加担せず……もっと言えば、どうしてナナコとも合流せずにいるの?」

「それは……」

「答えは簡単、T3は死んでいるから……もしくは、もはや動けないほどの大怪我を負っているか、どちらかだよ」

「……止めて、ソフィア。私、怒るよ」


 自分のことを言われる分には我慢もできるが、人のことを言われると我慢できない。というよりも、彼女の指摘を認めたくないという感情が怒りに変わっているのかもしれない。実際はソフィアの言う通り、一年以上の期間があったのだし、彼が無事であるなら最低限、噂の流れているアシモフの元に合流はしているようにも思う――自分がそうしたように。


 つまり、ソフィアの指摘は自分も心の奥底では一つの可能性として考えていたことであり、同時に認めたくないことだった。行き場のない思考が感情へと変わり、剣を握る手に自然と力が籠る。


 そもそも、こちらの事情も知らないで色々と一方的に決めつけて、いい加減我慢の限界だ。力で言うことを聞かせろと言うのなら――。


「ソフィア! いい加減にしなさい!」


 一触即発の空気は、自分とソフィアの間に割り込んできた機械の鳥の影響で霧散した。暫定グロリア・アシモフは一度こちらを見て頷き、羽をはばたかせてソフィアの方へと振り返った。


「そうやって周りに当たり散らしたって、何も変わらないわ」

「グロリアだって、以前は周りに当たっていたじゃない」

「だからこそ、目に余るのよ……ソフィアだって分かってるんでしょう? あの子はアナタとの約束を反故にするような子じゃないって。信用しているからこそ、もう少しどうにかして欲しかったって想いが爆発して、訳の分からない勝負に持ち込んだんでしょうけど……。

 ちなみに、そんなことは無いとは言わせないわよ。アナタの思考は私には筒抜けなんだから。それに……」


 グロリアはそこで言葉を切って、壁の下へと視線を向けた。その先には、いつの間にか多くの人が集まっており、中にはソフィアの名をあげている人たちもいた。


「見ての通り、人が集まってきてる。そろそろ退かないと、アナタのママが来るわよ」

「そっちこそ、アシモフさんに会いたくないくせに」

「えぇ、その通り。だから戻るわよ」


 ソフィアは一度こちらを悲しそうな眼で見て、小さく頭を振り――グロリアに対して頷き返すと、再び背中に氷炎の翼をはためかせて夜の闇へと飛び立っていった。見えなくなるまでその姿を見送り、剣を背中に戻して下へと飛び降りると、すぐにジャンヌが駆け寄ってきた。


「お疲れ様、セブンス。変な因縁をつけられて災難だったわね」

「いいえ、ソフィアの気持ち、分かりますし……まず最初に、街を守ってくれたソフィアに、お礼を言うべきでした」


 言いながら、彼女が飛び立っていった北東の方角をもう一度見る。事態が様々に変化していったせいで言いそびれてしまったが、第一にソフィアが来てくれなければもっと被害が拡大していたはずなのだ。


 それなら、最初にすべきは感謝だったはずなのに。自分は結局礼も言わないまま、アランが再起の時を待っていることもキチンと伝えられなかった。しかし、彼女が生きていたことを知れただけでも大きなプラスだ――そう思いながら、ひとまずジャンヌと共に宿へと戻ることにしたのだった。

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