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12-17:死を運ぶ鳥 下

「第六魔術弾装填……いくよ、魔術杖ノーホープ」

「なによその名前、気取りすぎじゃない?」

「グロリアスケインは止めてって言ったのはグロリアだよ」

「当たり前でしょう。自分の名前が入っている杖を振り回されるなんてむず痒いじゃない」


 実際、元々杖の銘に彼女の名があったことは全くの偶然であるのだが――しかし、このように一つの器を共有することになった今としては、数奇な運命を感じるのは確かだ。同時に、今の自分には栄光などというものは全く縁遠い物であり、希望などない、という銘は今の自分にとって相応しいように思える。


「……細かい文句は後で聞くから、今は力を貸して!」

「それに関してはやぶさかじゃないわ!」


 自分が編んだ五つの陣が一つに合わさり、巨大な炎の術式が目の前に浮かび上がる。そして最後の構成要素は、自分の苦手とする炎の要素――それは魂の同居人に演算を任せており、彼女の編んだ炎の陣は杖の先端に浮き出ている。


「行けるわよソフィア!」

「構成、帯電、放電、磁力、拡散、追跡……そして炎! 駆けよ! 飛蝗ひこうを穿つ火雷ほのいかづち! 災禍の炎雷弾【ディザスター・ボルト】!」


 魔法陣を杖の先端でたたくと、そこから一斉に熱線が打ち出される。ディザスター・ボルトはファランクス・ボルトにグロリアの炎が合わさった熱線であり、追尾性の高さをそのままに、威力の低さを補った新しい魔術だ。


 百を超える熱線が闇夜を舞い、空を飛ぶ新型たちの身体を正確に打ち抜いていく。自分はそこまで眼が良い訳ではないので――あくまでもアラン・スミスなどと比べたらの話であり、一般的な視力は備えているが――確実なことは言えないが、今の魔術は強化された第五世代型アンドロイドにも確かに通用した手ごたえはあった。


「……グロリア、状況を確認をお願い」

「鳥って夜目は効かないのよ」

「それってそんなに誇らしい感じで言うことでもないと思うけど……」

「冗談よ。でも、もう少し寄ってくれた方がありがたいわね」


 機械の鳥が杖の先端から外れて肩へと戻り、城塞都市へ飛行して接近する。先ほどまで飛んでいた機影は見えなくなっているし、浮遊していた者たちは全て撃ち落とせたようだ。地上ではまだ戦闘が続いているようだが、そちらに関しては地上の部隊が活躍しており、ほとんど決着はついているようだった。


「新型相手に実力試しに来たけれど、肩慣らしにもならなかったわね」

「そうだね。それじゃあ、帰投を……」

「……ソフィア!」


 潜伏地点へと戻ろうと城塞に背を向けた瞬間、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。接近したと言っても城塞の外から中を見ていたのであり、向こうからはこちらのシルエットはギリギリ見えても、誰かまで判別するのは難しいはずなのだが――振り返って声のしたほうを見ると、銀髪の少女が屋根を飛び乗りながら移動し、最終的にはこちらからも視認できる距離である城壁の上に立った。


「ソフィア! やっぱりソフィアだ! 良かった、無事だったんだね!」


 少女は相変わらず能天気な様子であり、満面の笑みを浮かべながらこちらを見上げている。


「良かった、あの子も生きていたのね。でも、今は彼女たちと合流するには早いわ。戻るわよ、ソフィ……」

「……肩慣らしにちょうどいい相手が現れたね」

「あ? 何言ってるの、早く帰投を……」


 シフトレバーを引いて魔術を編み、杖の先端に厚く鋭い氷の刃を生成し、自分はそのまま城壁へと急接近して銀髪の少女へと切りかかった。当てるつもりでいったのだが――剣の勇者のクローンは危険を察知したのか、顔を引きつらせながらもこちらのなで斬りを寸でで躱せて見せた。


「ちょ、ソフィア、なんで!?」

「剣を……ミストルテインを構えなさい、ナナコ」


 本気で相手の命を取ろうとまで思っているわけではない。今の自分なら回復魔法も使えるし、致命傷さえ与えなければ怪我をさせても問題ない。一度は降した相手だが、逆に一度は降されているので、これまでの戦績は一勝一敗――この勝負で白黒はっきりつけることもできる。


「止めなさい、ソフィア! 早く戻るわよ!」


 肩に乗っている相方から怒声が漏れた。もちろん、これが単純に自分の我儘から来る暴挙だというのは十二分に自覚している。ここに来たのは偵察のためであり、すぐに引き返すべきだというのも分かっている。


 しかし――。


「接近戦における鍛錬の成果を試すには、ナナコ以上の相手はいないよ。それに……約束を守ってくれなかったあの子のことを、私は絶対に許さないんだから!」


 彼女が生きていたことの喜ばしさよりも、彼女が自分との約束を守ってくれなかった事に対する怒りが勝り――左腕の主の忠告を無視し、自分は困惑した表情を浮かべているナナコに向けて氷の刃の切っ先を突きつけた。

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