12-16:死を運ぶ鳥 上
潜伏地点から襲撃を受けている城塞都市までの距離を移動するには――以前行軍したい際には三日以上かかった道のりだが――空を飛んで直線距離を移動すれば数分の距離だった。実際、飛翔の速度は音速を超えているのだから、到着が早いのも当たり前か。
そして遠景に城塞が見えたタイミングで減速を始めるとともに、耳につけている通信機から男の声が聞こえ始めた。
『今回の目的は新型の実力を測りつつ、貴女の実戦テストを兼ねています。あくまでも偵察がメインであり、殲滅やファラ・アシモフたちとの合流を目的としているわけではありません。今はまだ、我々の潜伏場所を割られるわけにはいきませんから、慎重に行動してください』
「了解です……とはいえ、結果として殲滅してしまった、なら問題ありませんよね?」
『そうですねぇ……あまりに歯ごたえが無いようならそれでも構いませんが、あまり派手に動き回って七柱共に警戒されるのも本意では……』
「接敵しますので、通信を切りますよ」
強引に通信を切り、減速したまま移動を続け、魔術杖のシフトレバーを引き、広範囲に霜を降らせる魔術を編む。新型は完全迷彩を搭載していないという情報だが、本当だという確証はない。自分は第五世代型アンドロイドの完全迷彩を見抜くことは出来ないが、物理的に居場所を割り出すことが出来る――これはそのための布石だ。
チェン・ジュンダーとしてはレヴァルがどうなったところで知ったことではないのだろうが、自分としてはあの場所には複雑な感情がある。自分がかつて司令官として勤めた街であり、世話になった人も多い街だ。
もちろん、その多くは黄金症により物言わぬ彫刻と化しているだろうし――今、あの街を取り仕切っている者の一人に自分の母が居る。あの人と会いたくないという部分もあるし、何より自分の至上の目的は七柱の創造神達を滅ぼすことである。
そういった諸々の事情を鑑みて、自分がすべきことは可能な限りの敵を殲滅し、早々に離脱することだろう。強力な魔術を編むために空中で制止すると、自分の肩に乗っている機械仕掛けの鳥の嘴が動き始めた。
「……アナタのやりたいことに協力するわよ、ソフィア」
以前に二重思考をやろうとして、無理やり分割した思考領域の半分を彼女に明け渡したのであり、別に意思疎通は脳内でも出来るのだが――何ならその方が早いまであるのだが、緊急の場合を除いて意思疎通は口頭でやり取りしようという決まりになっている。彼女曰く、可能な限り思考や人格がまじりあうリスクを避けるためというのが目的であるらしい。
こちらとしては自分のことなどどうなっても構わないから、より高速に、迅速に動ける方が良いと思っているのだが――強情なグロリア・アシモフは、頑としてこちらの意見を取り入れてくれないのだ。
「あのね、思考は筒抜けなんだから、もう少し言葉を選びなさい? アナタがあまりにも危なっかしいから、色々と気を使ってあげてるっていうのに」
「そういう気遣い、不要だよ。元より私は、戦うために生まれた兵器なんだから……ともかく、力を貸してグロリア。世界に破滅をもたらす悪しき神々に、永遠とも呼べる夜の死を運んでやるんだ」
「えぇ……小夜啼鳥【ナイチンゲイル】の初陣ね!」
そう言いながら、機械仕掛けの鳥は羽ばたき、杖の先端へと留まった。この一年の間で、自分は飛行の制御と接近戦の訓練、それに補助魔法や回復魔法の習得をしており――これらはチェン・ジュンダーより指導されており、生身でADAMs並の速度で飛行できるのも補助魔法による肉体強化による――グロリアは自分から魔術の扱いを施されており、個別に魔術を扱うことを可能にしている。
しかし、強力な魔術を撃つときには、このように二人で魔術を編むことにしている。単純に演算が早くなるのもあるが、グロリア・アシモフの持つ炎熱の力を魔術に込めることで、既存の魔術を協力にすることが出来るからだ。




