12-14:氷炎の翼 上
ミストルテインを背負って階段を飛び降りると、一階に居た人々の内で戦える者は外へと飛び出した後のようだった。自分もスイングドアから外へと飛び出すと、辺りには火の手が周っており、既にそこらじゅうで戦闘が始まっていた。
冒険者風の者たちが戦火を交えているのは、魔獣でも魔族でもアンドロイドでもない、見たこともない新手の人型だ――正確に言えばだいアンドロイドの一種なのだろうが、第五世代型のように姿を隠しておらず、また完全な機械ではなく有機物と融合をしているような姿をしている。
「アイツらは!?」
「まだ、レムリア大陸の方では出ていなかったのかな……アイツらは改良型の第五世代型アンドロイド。完全迷彩の代わりに、戦闘力を増大させているんだ」
「なるほど、難しいことは分かりませんが……ともかく敵と言うことですね!」
横に並んで説明してくれたティアを残して自分は前進を始め、背から剣を引き抜いて、倒れている人にトドメを刺そうとしている新型の元へと駆けつける。そしてそのまま剣を振り抜き、一体を仕留めることに成功するが――すぐに自分を複数体が取り囲み、武器を構えて一斉に襲い掛かってきた。
視認できるようになったが故に戦いやすくなったとも言えるが、確かにティアが言っていたように性能は向上しているように感じられる。今までなら、二、三体ほど同時に相手にするなど訳ないものだったのだが――。
「くっ……やる!」
実際、今までなら力負けすることは無かったのに、新型の腕力は自分と同等程度まで引き上げられている。とはいえ第五世代型アンドロイドには技が伴わないため、一対一なら負ける事もないと思うのだが――しかし見た目の変化は中々に威圧的だ。
今までは目に見えない恐怖があったが、今は剥き出しで蠢く筋肉が――アレのおかげで柔軟性が増しているのだろうが――生理的な嫌悪感を煽ってくる。恐らく、見た目で第六世代型アンドロイドたちの恐怖感を煽り、黄金症を誘発しようとしているのだろう。
思い切って敵陣に飛び込んだのはいいものの、このままでは少々キツいかも――。
「……ナナコ!」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれた瞬間、自分の体を柔らかい白い光が覆った。補助魔法の一種のようだが、これは初めての感じがする――ともかく溢れてくる力を借りて相手の武器を弾き返し、そのまま一気に二体の新型の胴体を横薙ぎの一撃で両断する。
そして最後の一体を縦に両断してから声のしたほうを見ると、長い白髪の老婆が一人、こちらに後ろ姿を見せたまま、正門の方へと向けて機銃を構えて迫りくる新型を迎撃していた。弾幕により足止めは出来ているようだが、銃弾ではその装甲を完全に打ち抜くことは出来ないようであり――代わりに自分が魔剣を一振り、真空の刃で敵を両断し、銃口を曇天に向けながら額の汗を拭うエルフの老婆の横に自分も並んだ。
「アシモフさん!」
「貴女とも必ず合流できると思っていました。しかし、アルフレッドは……?」
「あの人は……ヘイムダルで私だけ脱出させて、そのままはぐれてしまっていて……」
「そうですか……彼に渡したいものがあったのですが」
アシモフは残念そうに瞳を伏せるが、すぐに毅然とした表情を浮かべ、今度は正門に背を向けて、大路に蔓延る敵の方へと再び銃口を向けた。
「貴女の旅路については、またあとで教えてください。今は、この街の者たちを守るのに力を貸して!」
「もちろんです! てりゃぁああああああ!」
自分の方は正門の方へと向けて走り出し、突破してくる敵の迎撃を始める。合間合間でアシモフの方を見ると、彼女は酒場の正面の建物から出てくる兵士たちに向かって手をかざしている。その手の動きに合わせて、彼らの身体をに白い光が包んでおり――どうやら精霊魔法による補助魔法をかけているようだった。
魔法を配って終わりではなく、彼女はレムリアの民たちが戦う戦列を指揮し、兵士たちの鼓舞をしているようだ。その凛々しい様子は一年前と全く別人のようであり、また周囲の者たちもアシモフのおかげで希望を捨てず、果敢に新型との戦闘に臨んでいる。
しかし、やはり高次元存在に捧げられるために作られた第六世代と、戦闘用に作られた第五世代の中でも精鋭を相手にしているとなれば、こちらの劣勢は免れない。その証拠に、兵士たちの戦列が徐々に押され始めている。
兵士たちの援護に向かいたい所だが、こちらも正門の方から無数に沸いてくる新型相手に手が離せない。その時、闇夜に幾筋かの光が走り、アンドロイドたちの首が飛んだ。機人たちの首を飛ばした光は宙を翻り、水色髪の少女の指へと収束していった。
「イスラーフィール、助かったわ」
「……レア様、あまり無茶をしないでください」
イスラーフィールはビームチャクラムを指でクルクルと回しながらアシモフを窘め、すぐにこちらに向けてチャクラムを投げ出した。その軌跡は、自分の側に居る新型を的確に居抜き、再び円月輪は彼女の指に収束した。
「セブンス。この辺りは私に任せて、貴女は東門の方をお願いします……奴らはそこに大きな穴を開けて侵入してきているのです」
「了解です!」
イスラーフィールの言いつけ通り、今度は街の中央の方へと向けて駆けだした。途中まではイスラーフィールや他の兵士たちが何とか撃退してくれたのだろう、第五世代型の残骸が――勇敢に戦って散った者たちの亡きがらも同様に――転がっていた。




