12-11:二人の少女との再会 下
「ナナコ! 良かった、無事だったんだね……」
「ティアさんこそ、ご無事で良かったです! それにしても、髪が伸びましたね?」
「切るのが億劫でね……それに、これを隠せるから丁度いいかと思って」
そう言いながら、ティアは長い前髪を横にずらし、顔半分を覆っている包帯を見せた。本来、肉体の主は青い瞳のクラウディアだったはず――赤い瞳のティアが出ずっぱりと言うことは、クラウディアの魂は海に捕らえられているのかもしれない。
ティアが、次いでアガタが室内に入って扉と鍵を閉め、掃除したおかげで出来たスペースに四人で腰かけた。
「あの、アガタさん。他の人は……」
「再びこの地に集結したのは、貴女達を含めてこれで全員です。本体を残しているはずのチェン・ジュンダー……ゲンブは目下捜索中ですが、どこに潜伏しているかもわかりません。彼も七柱たちに気配を悟られないよう、慎重に行動しているのだと思いますが、連絡は取れていませんわ」
「そう、ですか……」
T3が居ることを期待していたのだろう、アガタの言葉にセブンスは肩と気分を落としてしまったようだった。アガタも痛まし気な表情を浮かべていたが、落ち込むセブンスから視線を外してこちらを見た瞬間、口元を引き締めて鋭い視線を送ってきた。
「さて、本来ならアシモフの元に通しても良かったのですが、彼女は向かいの詰め所に居ますから……先ほどのように、幾許か残っているレヴァル正規軍に顔を見られては貴女も気まずいでしょうし、一旦こちらで状況を伺おうと思った次第です」
「気を使ってもらって恐縮なんだけれど……細かいことは明日でもいいかしら? 大連鋒を越えて来たせいで、こちとらへとへとなのよ」
「まさかとは思いましたが、本当に狂気山脈を越えてきたのですね。ですが、取り急ぎ一つだけ聞きたいことがあるのです。貴女は、解脱症を……黄金症を発症していたはずです」
「そうね」
「黄金症の治療は、未だ誰も成し遂げていません。貴女の魂は、どうやって現世に戻ってきたのですか?」
「話せば長くなるのだけれど……」
彼女らがこちらの状況を認識したいのも理解は出来る。もしかすれば、自分が黄金症を克服したケースをヒントに、人々を元に戻せるかもしれないのだから。とはいえ、話し始めれば長くなるのは目に見えているし、疲労が蓄積しているのは事実であり、出来れば明日にして欲しい――そんな風に思っていると、自分の何倍も疲れているべき銀髪の少女が元気に手を上げて座ったままの姿勢で跳ねていた。
「はい、はい! 私は全然元気ですから、私の方から色々とお話しできます!」
「……だそうよ。実際、元気が有り余っているみたいだし、急ぎならその子から聞いて頂戴」
アガタとティアはセブンスの方へと向き直って姿勢を正した。セブンスが二人に事情を説明を続けるが、彼女の言語能力では分かりにくい所があったり、自分からの又聞きのため間違えているところがあったりして、結局は自分も訂正のため話すことになったのだが――ともかく不思議な空間でアラン・スミスやその相棒のエディ・べスターと出会ったこと事情を話し終えると、ティアの方が神妙な表情を浮かべながらこちらを覗いてきた。
「アラン君が無事って、本当かい?」
「アレを無事と形容して良いのかは分からないけれど、セブンスが言ったことは事実よ。もちろん、私が見たのは夢か何かなのかもしれない。それでも……」
「実際に、黄金症を乗り越えてここまで来たんだ。何か尋常でないことがあったのは確かだろうし……アラン君に勇気づけられたから戻ってこれたっていうのは、なんだか妙な説得力があるね」
ティアはそう言いながら微笑みを浮かべ、左目を閉じて何か感じ入っているようだった。そんな彼女を傍目に、自分はアガタ・ペトラルカの方へと向き直った。
「それで? 何か参考になったかしら?」
「仮に貴女の言っていることが事実だとしても、特殊すぎるケースですから一般化は難しいでしょうね……とはいえ、彼女なら何か良い案が思い浮かぶかもしれません」
「レア神……アシモフとやらのことかしら? もう一回話す必要があるのなら、それこそ明日に……」
「その必要はありませんわ。既に事情は共有されているのですから……」
アガタはそう言って不敵に笑い、彼女の宗派独自のアンクを首から外して床に置いた。
「……どうでしょうか、レム」
アガタがアンクに向かって声をかけると、そこににわかに光が集まり――その上に掌よりやや大きいサイズの人型が現れたのだった。




