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12-10:二人の少女との再会 中

「……そんな者の名は聞いたことが無いぞ。やはり怪しい奴だな」

「あのあの! それじゃあ、誰がこの街を取り仕切っていらっしゃるんでしょうか?」

「中を取り仕切っているのは……いや、怪しい者に情報を与えるわけにはいかんな。ともかく、君のように小さな女の子には悪いが、武器をこちらに渡してこちらへ……」

「……おい、後ろの女、ジャンヌ・ロピタじゃないか!?」


 衛兵のうち、片方が後ろにいる自分のことに気付いたようだ。やはり、多少髪型が変わった程度ではバレて当たり前か――しかも、声を荒げた方はかなり険しい表情でこちらを見ている。元々セブンスの方に向けていた銃をこちらへ向け、あわや一触即発という雰囲気に場が包まれた時、正門の後ろの方から「お待ちなさい!」という声が聞こえてきた。


 その声には聞き覚えがある。因縁の地で、因縁の相手が現れたということだろう。二人の男の背後から現れたのは薄紫色の髪の細身の少女であり、衛兵たちはこちらへ武器を向けたまま、うろたえたように現れた少女の方を見た。


「これは、アガタ様……見回りですか?」

「えぇ、そんなところです。それよりも銃を下ろして、その二人を通してあげてください」

「で、ですが、ジャンヌ・ロピタを通すわけには……」

「仮に彼女が再びレヴァルを陥落させるためにここに来たというのなら、正面から来るわけがありませんわ。今の世にレムリアの民も魔族もないですし……何より、彼女は元々、邪悪な神々と戦うために魔族に与していたのです。

 そういう意味では、彼女と我々の敵は同じ……そんな彼女がわざわざここに訪れたというのなら、恐らく共に戦うためにここに来てくれたと考えてよいでしょう。

 それに、彼女には色々聞いてみたいことがあります。もし彼女がこの後に何かしでかしたとしたら、ここを通した私に責任にして構いません」

「……アナタがそこまで言うのでしたら」


 アガタ・ペトラルカの説得のおかげか、男たちは武器を下ろしてそれぞれの配置へと戻った。アガタの手招きに合わせて桟橋を通って行くと、自分の正体に勘づいた方が耳打ちするように低い声を上げた。


「……オレはお前のせいで家族を失ったんだ」


 それではこちらのことを歓迎できないというのも頷ける。もちろん、こういったことがおこることだって予想していたし、殺されてもおかしくないほどのことをしたという自覚はある――あの時は自分も必死であったし、間違えた選択をしたとも思ってはいないが、同時に罪の意識がまったく無いと言えるほど薄情でもないつもりだ。


 とはいえ謝って済む問題ではないのも確かであり、彼の気を晴らすには彼に討たれる以外はあり得ないだろう。同時に、こちらもまだ死ぬわけにはいかない――ならば、下手な謝罪をして刺激するよりは、何も言わずに去る方が良い。


 そんな風に考えている間に正門を抜け、先導していたアガタが振り返った。


「……礼は言わないわよ」

「えぇ、構いませんわ。別に、貴女に恩を売りたくて通した訳ではありませんもの」


 そう言いながら、アガタは後ろ髪を払ってすました顔でこちらを見ている。彼女には鉄棒で吹き飛ばされた借りもあるのだが――救われた手前で事を荒げるのもきまりが悪いし、何よりセブンスが元気よく跳ねながらアガタの方に近づいていくので、これ以上悪態をつくタイミングを逃してしまった。


「アガタさん! お久しぶりです!」

「えぇ、ナナコさん、ごきげんよう……相変わらず元気なようで何よりですわ」

「それで、えぇっと……」


 セブンスの方に柔らかい笑顔を向けた後、アガタ・ペトラルカは再び振り返り、大路の中心で辺りを見回した。一年前に自分が反乱を企てた時以上に街は朽ちており――ここで激しい戦闘が何度も行われたことは想像に難くなかった。


「現在レヴァルを取り仕切っているのはファラ・アシモフとマリオン・オーウェルの二人です。ただ、レムリアの民たちには通りが良いように、アシモフはレアと名乗っていますから……」

「なるほど、それでそんな奴は知らないって言われちゃったんですね」

「えぇ。他に、アシモフと共に脱出したイスラーフィールの他には……まぁ、実際に会った方が早いでしょうね」


 そう言いながら、アガタ・ペトラルカは左の建物の方へと向かって歩き出した。そこは、かつて冒険者ギルドと酒場、宿屋が併設されていた複合施設である。少女の背を追いスウィングドアを抜けて行くと、中の様子は以前と同じような、同時に全く違うような様相であった。


 建物の内部構造自体にはそこまで変わりはない。破壊された壁を間に合わせの板で補修していたり、上層が半壊していたりすることを除けばだが。どちらかと言えば、内部にいる人々の様子が変わっているというのが正確だろう。以前と同じように冒険者風の傭兵たちがひしめいてはいるものの、以前のような活気は無く、誰もかれもがどこか疲弊しているようであった。


 アガタが二階の一室を手配し、自分とセブンスはそこで待っているように言いつけられ――通された部屋は物置であったが、顔の知られている自分が周囲に見つからないように気を使ってくれたのだろう、埃臭いが他に人が居ない点は有難かった。


 寝床を確保するために物を動かし埃を掃いていると、扉がノックされる。セブンスが「どうぞ!」と元気な声を上げると扉が開かれた。そこにはアガタ・ペトラルカと、その隣に緑の長い髪の少女が立っており――彼女も自分としては因縁の相手であるのだが――セブンスを見つけるなり柔らかな笑顔を浮かべた。

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