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12-7:城塞都市への道のり 中

「この前も話しましたが、私は皆生きてるって信じてるんです。ですから、T3さんも必ず生きています。何せあの人は、海と月の塔……この一年の間に私もこの目で見ましたが……あの上層から落ちても無事だった人なんですから!」

「えっ……どういう状況よ、それ」


 海と月の塔は、自分も修行のために連れていかれた場所でもある。ルーナは自分が異端であるネストリウスの孫娘というのは知っていたはずだが、その気になればいつでも御せると思っていたのだろう――思考が脱線したが、天を衝くあの塔の上層から落ちて無事というのは全くイメージが沸かないどころか、そんな状況になること自体が全く見当も付かない。


 セブンスは「まぁ口止めされてるわけでもないですし、話しても大丈夫ですよね……?」と自問自答をしながら、T3という男について話し始めた。まさか、八代勇者ナナセを追って塔へと昇った伝説上の人物、アルフレッド・セオメイルその人だとは思わなかったが、七柱への復讐者としては、確かにこの上ない人物とも言えるだろう。


 その正体について話した後は、アルフレッド・セオメイルの人となりについての話が続いた。曰く、冷たいように見せかけて優しい所もあるとか、料理が上手いとか、アラン・スミスと仲が良かったとか――ナナコはアランが付けた渾名であり、セブンスはアルフレッドが自分のことをそう呼んでいたことなどを語った。


「それで……私が一番怒っているのは、きっと自分自身に対してなんです。私は、あの人を一人にしないって決めたはずなのに、あの人から離れてしまったから」

「でも、その肝心の彼に気絶させられて脱出させられた訳でしょう? 仕方なかったんじゃない?」

「うぅん、そうなんですよ。だから複雑なんです」

「……もしかすると、貴女は悔しいのかもしれないわね」

「悔しい、ですか?」

「えぇ。貴女はアルフレッド・セオメイルに対して一人にしないと公言したわけでしょう? でも、肝心の彼は貴女を突き放す行動に出た。それはつまり、彼は貴女との約束を覚えていなかったのか……はたまた覚えていたのだとしたら、貴女との約束を反故にしても構わないと思ったということになる。

 そうなると、貴方達の感情の間には溝があったということになる……それが悔しいんじゃないかしら」


 こちらとしてはただの思い付きを話しているだけなのだが、思いのほかセブンスには効いてしまったらしく、しゅんとして押し黙ってしまった。確かに、自分の言葉は少々無神経であったかもしれない。


「……一応言っておくと、感情に溝があったと言っても、アルフレッド・セオメイルは貴女のことを無下に思っていた訳ではないと思う。むしろ、逆かもしれない……貴女を大切に思っているからこそ、生き残って欲しかったんじゃないかしら」

「でも、それは……私だって同じです」

「貴女にとって、その男は特別なのね」


 思わずそんな言葉が出たのは、アルフレッド・セオメイルのことを話している間の熱量ももちろんなのだが、セブンスが様々な感情を見せていたせいだろう。


 セブンスと言う少女は、基本的には喜怒哀楽の内で怒りというものが抜け落ちているような印象を受ける。より正確に言えば、彼女にとって他人とは庇護対象であって、その感情は公平――よく言えば誰かを見損なったり疎んだりしないが、一方で誰かに対して特別な感情を抱くこともない。


 しかし、アルフレッド・セオメイルに対してだけは、セブンスは様々な感情を抱いているようだ。怒りはもちろんのこと、それ以外の感情に関しても、アルフレッドに対するその振れ幅は大きいように見える――自分が思わずアルフレッド・セオメイルをセブンスにとって特別と形容したのを言語化するとこんな所か。


 もっと単純に言えば、三百年前に海と月の塔まで勇者ナナセに同伴したアルフレッド・セオメイルの気持ちが一方通行でなかった、もしくはなくなったと言うべきなのだろうが――一方セブンスは意図が掴めなかったのだろう、小首をかしげながらこちらを見つめていた。


「えぇっと、どういうことでしょう?」

「どうもこうも、好きなんじゃないの? その男のことが」

「好き……はい、好きですよ! T3さんは大切な旅の仲間で……」

「違う違う、そういう感じじゃなくて、異性としてってことよ」

「異性として……?」


 セブンスはこちらの言葉を反芻して、しばらくはキョトンとした表情をしていた。しかし心当たりがあったのか、突然頬を紅潮させて、慌てたように両手と首を全力で振り始めた。

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