12-6:城塞都市への道のり 上
遺跡の内部で一夜を明かし、降りてきた穴から地上へと脱出して再び山脈を推定北へと歩き続けた。中間地点でゆっくり出来たおかげで体力を取り戻し、歩くペースを上げて移動することが出来た。
常人なら酸素の薄さから動けなくなるような高度であってもセブンスは元気一杯であり、移動に関してはこちらが頼ることも多かった。どんな時でもイヤな顔一つせずこちらを励まし、希望を捨てない彼女を見ていると、なんだかこちらとしても不思議と力が沸いてくる――最初は苦手なタイプとも思ったが、共に行動を続けるつれて不思議な信頼感が生まれてきたのも確かだった。
まぁ、会話が少々無神経なことを差し引けば、やはり手放しに褒められるタイプでもないし、何なら剣の勇者という伝説の印象と今の彼女とでは印象が全く異なるのだが――それでも彼女が人類の希望だったということに関してはうなずけるものがある。
崖を越え、谷を越え、雪原を、森林を、湖を通り過ぎ、数々の魔獣との戦闘を繰り広げ――ハインライン辺境伯領を発ってから十日ほどで、狂気山脈を超えていくことに成功したのだった。
最初こそもう少し人数の多いパーティーの方が良いかと思っていたが、実際は少人数で正解だっただろう。というより正確には、セブンスが相方だったからこそ抜けられたというのが正解か。むしろ、彼女一人ならもっと早く抜けられたに違いない。実際の所、山脈を超える上で自分が貢献したことなどほとんどなく、道を選ぶのも難所を超えるのも、彼女に頼りきりだったのだから。
「貴女のおかげで狂気の山脈を超えることが出来たわ……ありがとう、セブンス。」
山脈の麓で振り返り、改めて自分たちが踏破してきた山々を見上げる。自分だけではあの山を超えることは出来なかった――そう思って礼を述べると、セブンスの方も深々と自分に対して頭を下げてきた。
「私の方こそありがとうございました、ジャンヌさん!」
「でも、私は貴女に頼りっきりだった……足手まといだったんじゃない?」
「そんなことありませんよ! ジャンヌさんの作ってくれるごはん、美味しかったですし!」
「まぁ、貴女一人じゃ食料事情が不安なのも分かるけれど……でも、逆を言えば役に立ったのはそれくらいじゃないかしら?」
「そんな謙遜しないでください。補助魔法をいただいたり、結界で崖や谷を超えるのも楽々でしたし……何より私自身、誰かといるほうが力が出るんです! なので、ジャンヌさんが居てくれてありがたかったですよ!」
セブンスはそう言いながら屈託なく笑う。彼女は嘘を言うタイプでもないし、心の底から自分が居てくれてよかったと思っている雰囲気だ。
それに事実として、誰かが居たほうが力が出るというのも間違いでもあるまい。彼女は誰かのためにあらんと行動する――それ故に、困っている人が居るほうが何をすべきか決めやすいというのはあるのだろう。
今更ながらではあるが、この少女に興味が沸いてきた。ここ一年程度の記憶しかないとなると、なぜ彼女がこのような性格になったのかは――ある種、歪んだとも言えるのだろうが――分からないだろうが、もう少しセブンスのことを知りたいという気持ちが沸いてきたのだ。
もし世界に彼女のような人がもう少し多ければ、自分も違った人生を歩んでいた気がする。たらればを考えても仕方ないし、今までの選択に後悔がある訳でもないのだが、それでもどうすれば彼女のような人格が醸成されるのか気にはなる。
どのみち山脈を越えた後ももうしばらく移動が必要になる。そうなれば、暇つぶしに彼女の話を聞いてみても良いだろう。しかし、何と声を掛けるのが丁度良いか――切っ掛けは何でもいいのだが、「貴女のことを知りたい」などというのも気恥ずかしいものがある。そうなれば、確か途中だった話題があったはずだ。
「せっかくだし、この前の話の続きを聞かせてくれない? あの……無理やり脱出装置に乗せられた、だったかしら」
そう言いながら隣を歩く少女の方を見ると、まるで先ほどまで同じ話題を話していたと錯覚するほど、セブンスは先日と同じように唇を尖らせた。
「そうなんです! T3さんっていう人が居るんですけれど、その人に無理やり脱出させられてしまったんです!」
そこまで勢いよくまくしたてて後、セブンスは急にしゅんとしたように瞳を伏せた。
「……確かに私があの場に残っても、出来ることは無かったと思います。せいぜい、ヘイムダルの一部を破壊するくらいで……すでに光の巨人は現れてましたし、空を飛んだり瞬間移動したりする七柱の創造神達を倒すことは出来なかったでしょう。
よくて、ミストルテインの一撃で一柱と相打ちするくらいで……最悪の場合、ただあの場で私も死んでしまっていたと思うんです」
「それでも、そのT3とやらに対して怒っているの?」
「はい! 怒ってます!」
「貴女を生かす代わりに、その命を賭したというのに?」
こちらの質問で怒気が削がれたのか、セブンスは急にしゅんとなってしまった。しかしすぐに微笑みを取り戻し、胸に手を当てながら口を開いた。




