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12-2:未踏地への旅路 下

「そうですか、アランさんが……」

「……信じるの?」


 自分で話しておいて何だが、なかなか荒唐無稽な話を口にしたとも思う。光の巨人が現れた世界において、死後の世界を見てきたというのはまだ少しは説得力があるとも思うが、その中で共通の知り合いに会って我を取り戻し、現世に戻ってきたなどと言っても、聞かされる側としてはなかなかに突飛に感じるに違いない。


 もちろん、こちら側としても嘘をつくメリットもないのだが――ここに至るまで、わざわざ自分が体験してきたことを生き残っている人々に話してきたことは無かった。話したところでメリットがあるとも思わなかったのが一番だが、信じてもらえるとも思わなかったというのも大きい。


 一般的な感性をしていれば、こちらの言うことを怪しんでもおかしくないのだが――セブンスは一切こちらを疑うことも無く、ただ真剣な表情で大きく頷いてくれた。


「はい、信じます! ジャンヌさんの眼に、嘘はありませんから!」

「ふぅ……眼を見たら分かるって、そんなことある?」

「そうですねぇ、根拠としては弱いかもしれないですけど……でも、私の勘、結構当たるんですよ? それに、何となくですが……死後の世界というか、魂の還る場所というか、そう言う場所は確かにあるっていう確信があるんです」


 セブンスはそう言いながらゆっくりと瞼を閉じた。彼女もアラン・スミスと同様に記憶喪失であるため、何か思い出そうとしているのかもしれないが――しかし何もつかめなかったのだろう、苦笑いを浮かべながら眼を開けてからコップをあおった。


「しかし、ジャンヌさんが黄金症を脱したというのも、実は結構重大なことじゃないですか? もしかしたら、他の皆さんも戻ってこれるわけかもしれない訳ですし」

「えぇ、そうね……私も同じようなことを考えたわ。でも、こちらからもあちらかも何か干渉ができるわけじゃないから、具体的に何が出来るかとかは分からないけれど……」

「同じようなことを考えたってことは、ジャンヌさんも皆さんに帰ってきてほしいんですね!?」


 セブンスは大きな目をくりくりさせながら身を乗り出してきた。


「……そんなことはないわ。私は魔族に与して七柱の創造神たちを倒そうと思っていた……レムリアの民たちがどうなろうと、知ったことじゃない」


 心すら管理する七柱に対して自分の心を守るためという動機も確かにあったのだが、自分が魔王軍に合流した動機は別の所にある。尊敬する祖父の影響で異端として迫害されたという、人々に対する怒りがそもそもの衝動なのだ。


 祖父がティグリス信仰に傾倒したのは、どちらかと言えば七柱の創造神への信仰の裏返しでもある。聡い祖父は世界の虚構に気付いており、そのシステムを創り上げた神々に対する不信感を反対勢力に傾倒することで打開しようとしていたのだ。


 結局、彼は九代目勇者に――セブンスから勇者シンイチの正体は創造神の一柱だったと聞かされた――倒されてしまったのは皮肉なことであり、やはり自分も数奇な運命の元にいるのだと改めて思わされる。祖父は世界の虚構を創り上げた本人によって粛清されてしまった訳だから。


 しかし、悪いのは七柱の創造神であるというのは間違いないといって、偽りの神々によって扇動されていた無知な民草の罪が消えるわけではない。自分の怒りの矛先は、自分と家族を迫害した全ての者に向けられているのだ。


 そう言う意味では、この世界が終わろうと、黄金症に罹っている人々がどうなろうと知ったことではない。そもそも、自分は人間世界の最前線たるレヴァルを崩壊させようと目論んでいたのだから。


 まぁ、結局は自分も黄金症に一度は罹ったのであり、そう言った意味では嫌悪していた他のレムリアの民たちとそう変わりないのだが――そんな風に自嘲的な施行に耽っていると、セブンスが身を乗り出して下からこちらを見上げてきた。


「あの、私のような若輩者が分かった口を聞くのも失礼だと思いますが……アランさんとの約束を果たそうと頑張ってくれているジャンヌさんのこと、私は温かい人だと思ってますよ」

「それは貴女の勘違いだわ。私は、七柱の創造神に対抗するためにゲンブと合流しようと思っているだけ……アラン・スミスのことはついでよ。それに、私は人間世界を一度滅ぼそうと考えていたのよ?」

「でも、今もそんな風に思っているわけじゃないですよね?」

「もう大体滅んでいるようなものだからね。わざわざ私がどうこうする必要も無い」

「でもでも、黄金症の治し方について考えてくれてたんですよね?」

「ふぅ……無駄話をしていないで、そろそろ出発しましょう?」


 今回の会話を切り出したのはこちらなのだが、これ以上うだうだと聞かれるのは面倒だ。確かに彼女の言うように、もはや人類に対して滅びろなどと思っているわけでもないが、積極的に救いたいとも思っているわけでもない。ただ、自分が戻ってこれたのなら、他の者も戻って来られるのではないかという可能性を考えていただけだ。


 それくらいの感情に対して、あまり過大な期待を寄せられても困る。良い人だ何だと言われたくもない――純粋そうな彼女のことだ、きっと必要以上にこちらを誉めそやす腹積もりでいるに違いないのだから。


 慌てるセブンスを無視して立ち上がり、手ごろな荷物を持ち上げて山の斜面を登りだす。まだ最初の山の中腹と言ったところで、道のりも長い――日も高いうちに出来る限り進んでおきたい、そう思いながら歩みを進めると、すぐに少女も横に並んだ。


「あの、私って無神経で、色んな人から煙たがられてたんです」

「そうでしょうね」

「でも、やっぱりジャンヌさんは良い人だと思います! 気を使って荷物を持ってくれたんですよね?」

「貴女にへばられたら困るから持っているだけよ」

「ふふ、そういうことにしておきますね!」


 そう屈託なく笑うセブンスの顔を見ていると、全く調子も狂う――ともかくこんな調子で調子を狂わされながらも、無神経なお人よしとレムリアの民が未踏の連峰への道を突き進み続けるのだった。

【お知らせ】

次回から投稿は月~土の週6投稿を予定しています!

また変える場合、あとがきにて連絡します!

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