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11-88:小夜啼鳥の歌 下

「本来ならば、トリニティ・バーストを使ってやっとの相手だったのに関わらず……寡兵にて事にあたらざるを得なかったかつての四神は、最後のミッションでその戦力を分散せざるを得ませんでした。その結果、二人の仲間を失ってしまったのです」


 聞き馴染みのある声を上げたのは、人形ではなく糸目の男だった。ほとんどの期間はコールドスリープされていたという事実があるとしても、実年齢にして一万歳以上になるはずなのに、異様に若い見た目をしている。レムリアの民で換算したら二十代、せいぜい三十代前半と形容するのが相応しいほどだ。


 チェン・ジュンダーの本体を初めて見た瞬間、その見た目について驚きの言葉を口にしたところ、彼はクンフーだが気だかのおかげだとか答えた。しかしいい加減なことばかり言う人なので、何故異様に若く見えるのか正確な所は不明なままだった。


 ともかく、スクリーンが切り替わると、今度は何枚かの写真が連続して映し出される。激戦があったのだろう、炎の燻る瓦礫の山や、残骸と化した第五世代型達――そして、朽ちたパワードスーツが写し出されて後、宇宙空間に浮かぶ青く巨大な星が周る映像がスクリーンに浮かび上がった。


 金色の粒子がその星を覆っており、徐々に粒子が星を浸食するように広がっていき――最後には青く美しい星を覆いつくしてしまった。


「光の巨人の暴走により、古の世界が終わっていく中で……私はホークウィンドと共に仲間の回収へと向かいました。グロリアはゴードンに奪われてしまっていましたが、なんとか……リーゼロッテ・ハインラインに破れたエディ・べスターの遺体と、その遺品であるパワードスーツT2の回収は出来ました。

 その後、旧時代のスペースシャトルを何とか起動し、月まで逃げて……私は友の遺体をその地に葬りました。そして、後は以前に話した通り……外宇宙へと消えていったDAPAを追うため、母なる大地のモノリスの力を活用しながらピークォド号を作成し、我々も宇宙へと乗り出したのです。

 まぁ、貴女は既に、こんなことはご存じかもしれませんが……」


 チェンはそこで言葉を切って、金髪の少女の方へと振り返った。少女は左腕をさすりながら、ただ虚ろな眼でスクリーンをじっと見つめて、男の質問に対し「いいえ」と短く返した。


「私が共有されたのは、彼女の意識が途絶えるまでの記憶ですから」

「おっと、そうでしたね……ともかく、T3やセブンスの消息が途絶え、アラン・スミスとホークウィンドの亡き今、DAPAに抵抗するためには貴女の……いいえ、貴女達の力が必要です。貴女達ならば、互いの力を十全に引き出すことができるでしょうから」


 男が少女に向かって諭すように話していると、別の方向から「チェンさん」という声が上がった。声の主は、亜麻色の髪の女性であり――星右京に胸を貫かれたが、心臓は僅かに逸れていたようで、肺を焼きながらも何とか生き残ったところ、チェンの治癒によって生き残ったのだ。女は接合したばかりの義手をぎこちなく動かしながら、心配そうな表情を浮かべて少女と男とを交互に見た。


「彼女にあまり無理をさせないでください。もちろん、彼女たちが望んだこととは分かっていますが、一つの体に二つの魂が宿るというのは大変なことで……」

「いいえ、貴女とは大分事情が違いますよ、テレサ姫。彼女の精神は既に安定しています。彼女が培った擬似的な二重思考が、二つの人格を矛盾なく一つの器に宿ることを可能にしているのですから。それに……」


 チェンは言葉を切ってテレサから視線を外して金髪の少女の方へと再び向き直り、薄目を開けて口元に妖しい笑みを浮かべた。


「同じように母に道具として使われ、同じ人を愛し、そして愛する人を同じ者に奪われた……同じ復讐の炎にその心を焦がす者同士、精神的な同調はこれ以上ないと言っても良い。そうでしょう、小夜啼鳥【ナイチンゲイル】?」


 男の質問に対し、少女は肩をがくんと揺らした後、「えぇ」と相槌を打った。


「あの男を燃やし尽くすまで、絶対に消えないと誓った……ねぇ、ソフィア?」


 少女はどこを見る訳でもなく、自分に言い聞かせるようにそう言った。そして再び肩を揺らしたかと思うと、自身の口から出たはずの言葉に対して「はい」と短く返事を返した。


「私は、アランさんを奪ったあの人を……絶対に許しません。その魂を凍てつかせ、永久に消滅させてやるまで……戦い続けると誓います」


 冷たい声でそう言い放ったソフィア・オーウェルは、一方で瞳に力を取り戻し――焼けるような熱い視線で、金色の粒子により浸食され、海の青さを失った母なる大地を眺めていた。

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