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11-86:The Buddy and the Tiger 下

「べスター、お前は……」

「オレはそもそも、自らの後悔と無念とに囚われた怨念のようなもの……第六世代型アンドロイド達のように、海に捕らえられていた魂ではないからな」


 逆に彼の魂が次に向けて旅立てるのは、彼は後悔と無念から解放されたともとれる。心の重荷を取り払えたと思えばポジティブだが――そんな風に思っていると、男はこちらを見ながら皮肉気に口元を吊り上げた。


「ふっ、皆がオレにそんな顔をするなとよく言っていたものだが、こんな気持ちだったんだな」

「……仮面があれば良かったんだが」

「はは、先ほどはしまらない顔をしているとか言って悪かったな。だが、表情が見えるのは良いな……お前のことは色々と分かっているつもりだったが、新たな発見もあった」

「しかし……結末を見届けたいとは思わないか?」

「いいや、オレには結末が分かっているんだ。アラン・スミスは言ったことはやり遂げる……そうだろう?」


 男は煙草のフィルターを指で挟み、火種でこちらを指して不敵に笑った。べスターの心には、もはや一切の不安も悩みもないのだ――この宇宙が右京によって消し去られるなどと微塵にも思っていない。自分が必ず、アイツを止めると信じてくれているから――だから旅発つことができるということなのだろう。


「……あぁ、その通りだよべスター。お前の予測は絶対に外れない。俺は現世に戻り、過去の因縁に決着をつける。必ずだ」


 友の信頼に応えるには、ただ有言実行を果たすのみだ。そう思って頷き返すと、友も安心したように頷き返してくれた。そしてそれに呼応するように粒子が昇っていき、段々と男の姿が薄くなっていく。


「最後に、チェンへの伝言を頼まれて欲しいんだ……いい加減な様に見えて結構義理堅い奴だから、お前がオレにしてくれたように、少し肩の荷を降ろしてやりたい」

「了解だ、何て伝える?」

「お前は自分のことを冷血漢だと思い込んでいるようだが、その義理堅さに何度も救われたという礼と……一万年の時を超えて戦い続けた魂に、最後に安らぎが訪れることを祈っているとな」

「あぁ、了解だ……そのメッセージ、必ず俺が届けて見せる」

「……輪廻なんぞくそくらえという、右京の意見も一理あると思っていたが……今は違う。きっとこの先、オレはエディ・べスターであった時と同じように、何度も自分の至らなさに後悔し、自分の無力さに絶望するのだろう。

 それでも……世界にはお前のような奴がいる。その事実があるだけで、生きるってことは悪くないように思えるんだ」


 憑き物の落ちたような穏やかな表情で、男は海の波間を眺めながらそう呟いた。その後、男は再び視線を上げ、いつの間にか随分と短くなった煙草をいとおしむよう吸い上げ――そして全てを吐き出すかのように、もわもわと煙をゆっくりと吐き出した。


「それで……お前にも礼を言わなければならないな。ありがとう、アラン・スミス。お前はオレと亡き父の想いをその身に乗せ、その力を正しい方向性に使おうと努力してくれた。何より、お前と過ごした日々は……この星で再び巡り合った時間も含めて、充実したものだった」

「……こちらこそ。そもそもお前が拾ってくれなきゃ、過去の俺は現世に戻ることもできなかったわけだし……お前が背中を見てくれているから間違えないようにしないとと思えたし、思いっきり暴れることができたんだ。

 だから……ありがとう、エディ・べスター」

「あぁ……きっとまたいつか会おう、相棒」


 落とした煙草に視線が行き――男が火種を足で丁寧に消し去るのに合わせ、その姿が完全に原初の海から消失した。


 彼が次に巡る先はどんな世界なのだろうか? 近い時間軸に生を受けたのか、それとも遠い未来なのだろうか――いや、ここは全ての時空間に通じる場所であり、もしかすると過去へと巡ったのかもしれないし、全く違った世界線へと旅発ったのかもしれない。


 そんな無限とも言える可能性の中から、確かに自分たちは巡り合ったのだ。それならば、きっと――。


「……あぁ、またいつか巡り合うこともあるさ。その時まで……またな、相棒」


 男が消えた場所に背を向けて歩き出すと、また景色が変わり始めた。レムリアの民たちの魂が封じられているせいなのだろう、彼らの心象風景が巡る巡る移り変わり――自分の知らない景色も多いが、一方で王都や城塞都市、辺境伯領など、自分が歩んできた街の風景が移ることもあれば、きっと魔族やエルフ、ドワーフたちの記憶なのだろう、砂漠や荒々しい山々、熱帯雨林などに変わることもある。


 一点だけ共通していることは、彼らの想いでの景色には夜の帳が降りているということだ。この暗がりは絶望という彼らの心象風景を映し出しているのかもしれない――そんな風に思いながら、地上で無数に淡く輝く魂の光の中を歩き続ける。


 以前彼女が迷子になった時よりも、遥かに広くて気配も多い。それでも、きっと――いや、必ず探し出して見せる。


「待っていてくれ、クラウディア……きっと君を見つけ出して見せる」

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