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11-83:億分の一の再会 下

「くそ、ダメか……」

「いや。さっきうわごとの様に名前を復唱しただろう? 意思疎通が完全にできないという訳ではなさそうだ。もっと別の切り口で話しかければ、意識を取り戻すかもしれん」

「なるほど……えぇっと、サンシラウではすまなかった……?」

「馬鹿か、それはお前の勝手な悔恨だろうが。もっと本質的な感情に訴えないと駄目だろう……そもそも、なぜジャンヌは七柱に記憶を改竄されて、解脱症に陥ったんだ?」

「えぇっと、それは、確かコイツの祖父が魔族に寝返って、それがきっかけで魔王軍に参加してて……」


 掴んでいる肩に、僅かに力が籠る気配があった。祖父、魔族、そういった言葉がキーワードなのかもしれない――T3を思い返せ。復讐というのは強い感情だ。心根の優しいエルですら、いざT3を見た時には殺意を剥き出しにしたほどだ――恨みと言うのは心を震わせる感情なのだ。


「……そうだ、お前は故郷を追われ、復讐のために祖父の後を継いで魔族に加担し、七柱の創造神という偽りの神々が管理する社会に対して立ち向かったんだ。それを思い出せジャンヌ……いや、ネストリウス!」

「七柱の創造神……ネストリウス……」


 段々と女の呂律がハッキリしてきて、次第に瞳にも力が宿ってくる。そして目が会った瞬間、ジャンヌはまるで悪夢から跳ね起きた時のように背筋を伸ばし、こちらの腕を払って背後へと跳んだ。


「アナタは……!」


 ジャンヌはこちらへ敵意を剥き出しにし、足元に結界を出してこちらへと襲い掛かってきた。魂同士が戦ったらどうなるのかとか、ジャンヌの神聖魔法は恐らく右京が授けていたモノだろうに、何故使えるのかなど疑問は尽きないが――こちらも奥歯を噛んで相手の背後へと移動する。


 そして相手の腕を後ろからつかんだ瞬間、自分も肉体が無いのにADAMsを起動できたなとか考えつつ、ここはそういう場所なのだろうと納得して、ともかく藻掻く女の腕を掴む手に力を込めた。


「くっ……!?」

「起きたてに乱暴して悪いが、落ち着けって……いや、そっちが先に手を出したんだから正当防衛だな、これは」

「ぶつくさと言って! 私にトドメを差しに来たのでしょう!?」

「だから落ち着けって。周りを見てみろよ……ここはレヴァルの地下でもなければ、サンシラウの森の中でも、ましてや海と月の塔の中でもないんだから」


 こちらの言う通り、素直に辺りを形成する聖堂の様子を見回すと、ジャンヌも事態のおかしさに気が付いたのだろう、抵抗する意思は鳴りを潜めたようだった。


「ここは、私の故郷……何故こんなところに……?」

「えぇっと、そうだな……ここはお前の故郷でなく、天国と言うべきか……」

「まさか……私と貴方が来られる場所なんて、天国でなくて地獄でしょう」

「はは、違いない……しかし、実際には天国も地獄も無く、最後に来るのはここなんだ」

「そう……私は死んだのね。でも、全てを覚えている……私は私の意思で死を選んで、七柱共に私自身を奪わせなかった」


 サンシラウの村での飛び降りが成功したと思っているのだろう、こちらが手を話すと、ジャンヌは胸元に手を置いて安堵の表情を浮かべている。しかし、それは自分が阻んでしまった――もしあのタイミングで彼女が死んでいたら、恐らく彼女の魂は海に捕らわれることもなく、この場で再会することもなかったに違いない。


 彼女の方も違和感があったのか、美しく微笑んでいたジャンヌは、訝しむ様な視線をこちらへとぶつけてきた。


「段々と思いだしてきた……身を投げた私を、貴方は受け止めたのよね? まさか、それで貴方まで死んだの? そうだとしても、貴方が勝手にやったことだし、謝る気もないけれど……」

「いいや、骨を折ったが無事だったよ。つまり、あの身投げの時点ではお前は死んでないんだ」

「余計なことをして……では、私は何で死んだのかしら? 身を投げて死んだわけではないのよね?」

「そこんとこだがな、恐らくは死んでないんだ……七柱の創造神たちに利用されて、魂だけここに引き寄せられたんだよ」

「魂だけ引き寄せられた? どういうこと?」


 募らせた疑念が額に乗っているのか、ジャンヌは眉をハの字にしてこちらを見つめてくる。別に隠す必要もないし、彼女と再会できたのはチャンスかもしれない――そう思い、自分たちも七柱と戦っていたこと、聖典にある光の巨人が降臨したこと、そしてその影響でレムリアの民たちの魂が海に封じられてしまったことを説明した。


 話をしている中で分かったことは、ゲンブはジャンヌに対して事細かには情報を共有していなかったということだ。そもそも彼女に旧世界の技術などを理解するのも難しいという判断もあったに違いないが――ともかく彼女は七柱の創造神たちがレムリアの民たちの精神に干渉できるということと、管理社会を創り上げていることくらいしか認識していないようだった。


 そのため、言葉を選びながら、彼女の既知の範囲内で理解できるように説明を続け――こちらが事情の共有が終わると、ジャンヌは腕を組みながら小さく頷いた。

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