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11-69:黄金期の終わり 上

 クラークとの激戦が終わり、アラン・スミスは左腕が握っていたブレードを回収して後、屋上中央にある建物にまで移動して背を預けてへたり込んだ。座った所で壊れた身体が戻る訳ではないが、ひとまずADAMsで酷使した神経を休ませる必要はある――そう思って少し休息に入ったタイミングで、ブラウン管の映像が過去のべスターの視点へと戻った。


「アラン、大丈夫?」


 不安そうに尋ねるグロリアに対し、アラン・スミスは「少し休めば動けそうだ」と返答した。本来なら痛覚を切れれば良いのだが、いつ第五世代型が屋上に来るか分からない今では、それも出来ないはずだ。


 ともかく、未だ整わぬ呼吸の声を聞きながら、べスターはマイクを口元へと近づけた。


「状況を伝えるぞ。アンノウンXの回収は失敗、既に回収班はそこから離脱している。お前も離脱するんだ……大分消耗していると思うが、いけそうか?」

「行けそうかも何も、どうにかするしかないって所だよな。ま、いつも通りだ」

「あぁ、そうだな……」

「しかし、まだ離脱する訳にはいかない……この戦いに終止符を打たないと」


 そう言いながら虎が建物の入口から中を見ると、そこにはエレベーターの扉らしきものがあるのがモニターに映し出される。


「まさか、このエレベーターは……」

「あぁ、恐らくアンノウンXへ直通だ」

「いや、待てタイガーマスク……アンノウンXの回収はお前ひとりでは不可能だ。それより外に戻って離脱をするんだ」

「俺は回収するつもりなんかないぜ。コイツ一本で出来ることをしに行くだけだ」


 アラン・スミスは右手に持ったブレードを見つめながらそう呟いた。それに対してべスターは慌てたように身を乗り出した。


「待て、流石にそれは許容されないぞ」

「まぁ、お偉いさん方は大層お怒りになるだろうな。次の世界の覇者を決定する王座を破壊しようってんだから。だがな……逆を言えば、モノリスとやらは次の戦争の火種になる」

「それはそうだが……オレが心配しているのはお前のことだ。ただでさえクラークをターゲットにするという独断で動いているのに、これ以上は……」

「庇いきれないってんだろう? まぁ、それは分かってるが……クラークに感化されたのか、俺も抗いたくなったのかもしれないな。自分の宿命って奴にさ」


 オリジナルの気持ちは、光の巨人に蹴りをかました自分と同じようなモノだろう。自分に上位存在の加護があるとしても、それが人の争いの火種になるのなら、何とかしなければならない――いや、それ以上に、自分が上位存在の傀儡ではないと証明したいのかもしれない。


 ともかく、呼吸が整い始めたのを契機に、虎は立ち上がって入口の方へと足を進める。


「待て……いや、これはオレからのお願いだタイガーマスク。意見を聞いてくれ」


 べスターが懇願するなどかなり珍しい。この男は腹の底では色々と考えているし、同時に周りに対して色々とこうして欲しいという欲求があるはずだが、シニカルな性格故になかなか本心を言い出せない性分だ。逆を言えば、願いという言葉を使ったのはそれだけ必死であることの裏返しになる――オリジナルもそう思ったのだろう、歩幅を狭めて男の言葉に耳を傾けているようだ。


「アンノウンXは、全部で三つあると推測されている。そのうちの二つはそこにあるようだが、一つはかなり巨大で、ブレード一本では破壊できないだろう。

 もう一つに関しても、人智を超えた技術で作られているんだ、破壊できるかも分からないし……どの道一つ破壊しても二つ残るのなら、人の争いの火種が完全に消えるわけじゃない。

 何よりも、そんなもののためにお前を失うわけにはいかない。況や破壊できたとしてもだ、建物の中に戻れば、そのダメージで脱出は不可能なんだからな。屋外にいる今が最後の脱出のチャンスなんだ」


 そう言って男は視線をグロリアの方へとむけると、少女も深く頷いてマイクに口を近づけた。


「私もべスターと同意見よ。それに、帰ってきたら迎えてくれって私に言ったのは、他の誰でもないアナタなのよ?」

「……そう言われると弱いな」


 少女の言葉にオリジナルは足を止めた。確かに、オリジナルもこの先まで行けば二度と戻れないことは分かっていたはずだ。それでもモノリスの元まで行こうとしたのは、やはりクラークの言葉に――上位存在の意思に操られているわけでないと証明したかったのだ。


 そう言う意味では、やはりデイビット・クラークは一種のカリスマだったのだろう。不俱戴天の仇でありながら、彼の言葉は無下にできない影響をオリジナルに残していたのだから。


 逆を言えば、破壊できるかも分からない物体と対峙するために死地を目指す理由はそれだけとも言える。自分が光の巨人に突っ込んだ時も似たような気持ちだったのだが、あの時は他に方法が無かったのに対して、モノリスの破壊は本当に無駄死にになってしまう可能性も高い。自らの我儘のためだけに、戻ってくるようにと言ってくれる二人の気持ちを無視することはオリジナルも出来ないはずだ。


 しかし、まだオリジナルは出口に振り返るまでには至っていない――最後の一押しをするためだろう、べスターが再びマイクを握った。


「それに、アンノウンX奪取のチャンスはこれが最後なわけじゃない。これ以降の任務には、脱出した二人も合流するし、オレも戦線に加われるようになる……今日よりも確実に増強した戦力で任務に当たれるんだ。

 そもそもクラークを倒したんだから、DAPA事態が瓦解したっておかしくない。確かにモノリスが次の戦争の火種になる可能性は高いと言えるが、絶対にそうなるとも限らない。それなら、撤収するのが良い判断だと思わないか?」

「そうだな……二人の言う通りだ。心配かけてすまなかったな」


 そこでオリジナルはやっと振り返り、出口に向けてゆっくりと歩き出した。そして再び身体を雨に晒し始めたタイミングでアラン・スミスは「そうだ」と切り出す。

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