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11-61:平行線の二人 上

「……なんだ、何が起こっている?」


 自分と共にブラウン管を注視していたべスターは、リモコンを押しながらそう呟いた。しかし、リモコンによるコントロールが効いていないのだろう――それどころか、ブラウン管に映し出される原初の虎の視点は、等速でなく彼が感じていた体感時間をそのまま映し出している。


 つまり、ADAMsを起動している時の視界の映像も、自分が普段体感して言うのと同じように映し出されているのだ。


「理論的には、一度見た映像をスローモーションにしているだけとも言えるが、オレはそんな指定はしていないぞ。それに、視線が……」

「……アレはオリジナルの記憶だ」

「何だと、どういうことだ?」

「恐らく、終着点に近づいて行ってるんだ……俺たちも、記憶の中のオリジナルも」


 この先に起こることは――映像の中のオリジナルのことも海を揺蕩たゆたうクローンのことも――なんとなくだが予測はつきはじめていた。ブラウン管の向こうに居るはずの、本来なら他人であるはずのアラン・スミスの思考や行動を我が物のように感じられるようになっているのは、つまりはそういうことなのだろう。


 さて、ここにおいて、先ほどまでは映像で追うことのできなかったアラン・スミスとデイビット・クラークの高速戦闘がどのように行われていたのかが明瞭になった。


 総合すると、二人の戦いはクラークの方が優位に運んでいると言うべきだった。クラーク側は勝手知ったる根城であるために地の利は向こうにある他、JaUNTで離脱を繰り返して間接武器を調達し、距離を取って虎との戦闘に当たれるのがその所以だ。


 対して、近接戦闘においてはアラン・スミスに分がある――如何に瞬間移動と防御プログラムにより鉄壁の護りを得ていたとしても、速度そのものは虎の方が上であり、また屋内における超音速はほとんど瞬間移動に等しくもあり、一瞬でクラークの出現ポイントへ移動することができるからだ。


 以上を踏まえると、次のような戦闘の流れが出来上がっていたと言えるだろう。クラークが間接武器で攻撃をし、それをアラン・スミスが紙一重で躱しつつ肉薄し、幾許か打ち合ったところでクラークが離脱する。


 一見すると虎の方が有利に視えそうであるものの、この戦闘スタイルの継続は以下二点により虎の方が不利である。一つは相手の間接攻撃を完璧に躱すことができていないこと。防御行動に専念すればダメージを抑えることも出来るのだろうが、接近するには爆風の衝撃波や銃弾を正面から受け流さなければならないため、ダメージは確実に蓄積されて行っている。


 もう一点は、ADAMsの連続使用による自爆だ。クローンである自分と違い、身体の規格そのものは超音速に耐えられる設計になっているものの、それでも大気の摩擦と強烈なGを浴びているのだから、長期戦になれば相応の負担にはなってくる。同時に、神経伝達の加速であるADAMsは、使用者の神経組織と集中力を確実に蝕んでいるはずなのだ。


 ここに至るまでも――旧世界においても惑星レムにおいても――長期戦はあったものの、それでもこのクラ―クとの戦いが最も長期に及んでいると言っても過言ではないだろう。その上、ADAMsをずっと起動していることも不可能であり、徐々にクラークもその動きに対応し始め、再加速の隙間時間を上手く利用して虎へのダメージを更に蓄積させているのだ。


 今も丁度そんなタイミングであり、近距離で打ち合って虎がADAMsを切った瞬間にクラークが前進し、アームブレードによる攻撃を仕掛けてきた。虎も何とかいなしてはいるものの、パワーでは向こうの方が上であり、苦しい防戦のターンとなってしまっている――というより、チャンスを見計らっているのだろう、オリジナルは敢えてADAMsを起動させずに様子を伺っているようだった。

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