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11-55:虎が存在した理由 上

「今更じたばたしたところで何も変わらんだろう? どうだね、そこに腰掛けてゆっくり話でも」

「アンタの言う通り、バレちまったら仕方がないというところだが……座るのは遠慮するよ。足が地面についてないと安心できない性質なんでね」

「はは、成程、君の主義に関してはとやかく言う気は無いよ。こちらはこのままで失礼するがね」


 そこでクラークは背もたれにその身を預けて椅子を斜めにし、長い足を組んで後、表情を引き締めた。


「さて、君をここに招き入れたのは他でもない。これを最後の交渉とするためだ」

「まだ俺を引き抜こうって思ってるのか?」

「それも君次第ではあるがね。君のおかげで、大分内部の人員の整理ができた……中にはアンダーソンのように予想外に殺されてしまった人物もいたが」

「そいつは良かった。俺はテメェに雇われている掃除屋じゃないんだからな」

「だから、正式にオファーをかけようと招き入れたんだ。もしオファーに応じないようであれば、君にはこの場で死んでもらうことになる」

「すぐに仕掛けてこないとは、温情なことだな……虎を手懐けられると思っているのか?」

「あまり期待はしていないね。それ故、ハインラインやキーツの対タイガーマスク作戦も支援はしたが、どうやら勝ち目は薄そうだと判断した。いくつかの戦闘を見て確信したよ……君には未来が見えるのだと」

「はぁ……? 何を言って……」


 オリジナルは言葉を切ると、突然後ろへと跳んで見せた。すると、何かが風を切る音が聞こえ――何かが元々アラン・スミスがいた場所に交差したらしい、そのままそれらは壁まで突き抜け、側面のスクリーンへと激突した。どうやら壁にボウガンが仕掛けられていたようであり、矢が壁に突き刺さったようだ。


「ほら、こんな風にだ。君には未来が見えているのだ。そうでないと、今の回避は説明できない。だからこそ……私は君のことを脅威に感じ始めたのだ」


 クラークは机の方へと身を乗り出し、机の上で手を組んで、鋭い眼光で虎を見つめた。


「さて、私が知りたいことは、ある意味では君の意志よりも、君の背後にある意志だ。もちろんそれは、政府連合体などという旧世代の亡霊共を意味しない。そんなものよりも遥かに上部に位置する者……高次元存在の意志を確認したいのだよ。

 私はこう考えているんだ。君は高次元存在が私の意志に脅威を感じて送り込んできた抑止力ではないかと。もしそうであるとするのならば、私と君とは不俱戴天の仇であり……どちらかが滅されるまで戦い続ける必要がある」

「何を言っているかさっぱり分からんが……ひとまずテメェが俺にビビってるってことだけは理解できたぜ」

「あぁ、その通り。私は君をコントロールできる気でいたのだが、それはとんだ思い違いだった様だ。反省しているよ。

 もし高次元存在の加護が君にあるというのなら、戦って勝てるという保証はない……むしろ、上位存在が君を絶対の勝利者として送り込んできたというのなら、敗北の方が濃厚だろうな。

 だが、重要なのはこれからの話だ。最大の脅威である君と手を結べれば、私の計画はより盤石なものとなるのも間違いない」


 口では負けの可能性を語るクラークだが、その態度からは迷いや弱さは一切感じられない。仮に天命が自らを滅ぼさんと欲しても、天を殺せばいいとでも言わんばかりの態度だ。そして実際、そのように思っているのだろう。


 それならば、最初から虎と戦う道を選んでもよさそうに思うが――単純に勝算が無いなら戦いを避けるに越したことは無いし、原初の虎に高次元存在の加護があるならばこそ、味方に引き込めれば強いという判断もあったのだろう。


 そんな風に考えられるのは、自分がオリジナルよりも事情に精通しているためだが――どちらにしてもクラークの言うことを聞く気はないだろう、虎は投擲用のナイフの刃を持ち、柄の先端で男の方を指した。


「俺の意志は揺るがないと思うが……もう一度聞く、お前の狙いは何なんだ?」

「……良かろう、具体的に話そう。私の目的は、この世界にモノリスを送り込んだ上位存在を支配し、多次元宇宙へに乗り出すことだ」


 クラークは椅子から立ち上がり、後ろ手を組みながらゆっくりと広い室内を歩き出す――その動きに連動するように背後のスクリーンに映っていた景色が切り替わり、黒い板の画像とそれを解析した文字列が映し出された。


「君たちがアンノウンXと呼んでいる物体、それこそがモノリスだ。いくつかの部分は君たちも認識しているだろうが……モノリスは既知の技術と比べ物にならないほど高度な技術によってつくられている。これらの正体の全容は未だ判明していないが、その一方で……科学を信奉する現代においてすら、魔法としか言えないような奇跡を我々にもたらしてきた。

 先日、君が未来予知によってかわした電撃も魔術という新たな技術であるし、君たちが抱えているグロリアの能力もまた、モノリスからもたらされたモノだ」

「……つまり、こういうことか? そのモノリスを作って送り込んできた奴らは、超次元的な力を持っており……お前はその力を我が物にしようと」

「あぁ、そういうことだ。話が早くて助かるね」


 クラークはそこで一度歩みを止めて、首だけ回しながら不敵に笑った。今更ではあるが、その表情にはどこか違和感がある――機械的というか、どこか不自然な様子があるような気がする。


 先ほど、オリジナルは「人ともアンドロイドともいえない気配」と言っていたことを思い出す。そうなると、もしかするとデイビット・クラークの正体は――恐らくオリジナルも察しが付き始めているのだろうが、ひとまず首を振ってクラークへの応対を続けているようだ。


「解せないな……そもそも魔術だとか突飛な話だが、ひとまずそこは置いておくとして……それがお前らの推進するテロリズムと何の因果関係がある?」

「それは人類の進化を抑制し、早急に高次元存在をこの世界に降ろすためだ」


 クラークは踵を返し、今度は部屋の逆方向へ向けて歩き出した。スクリーンの映像も切り替わり、月や深海、遥かの惑星など、どうやらモノリス発掘の様子が映し出されているようだ。

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