11-46:虎の思い描く結末 下
「いい加減なことを言うんじゃない。その罪をお前に着せたきっかけを作ったオレがとやかく言う筋合いは無いのかもしれないが……嘘であっても約束をしたのなら、あの子の元に帰ってこい! それが大人の責任ってもんだろうが!」
そう一気に大声でまくしたてると、べスターは息切れしたように呼吸を整えており――対するオリジナルはどこか上の空のように「そうだな」と答えた。
「……気が付かないうちに、俺も大人って歳になってるんだよな……」
どこか呆然自失のようなオリジナルの言葉を聞いて、べスターはハッとしたように外套を手放した。
実際、この時のオリジナルは二十二歳かそこらなはずであり、鳥かごではグロリアに言ったように、旧世界の社会的にも立派な成人男性でこそある。しかし、十代の内に事故に会い、缶詰め状態で訓練を続け、この狭い基地内で生活をしていたアラン・スミスにとっては、自分が大人になっている自覚が希薄だったのかもしれない。
べスターもそのことに気付いたのだろう。同時に、それだけの心の準備をオリジナルにさせてやれなかったことを気に病んだに違いない――ふらふらと元居た場所に戻り、気持ちを落ち着けるためだろう、震える手で煙草を咥えてその先端に火をつけた。
「……オレから見たら、お前なんか青二才だ。酒の味も煙草の味も知らないんだからな」
「おかげさんで、臭いは染み付いてるがな。しかし、大人の責任を取れって言ったのはお前だろう?」
「大人のって部分は撤回する。ただ、約束したのならそれを守る責任は誰にだってある。それに関しては年齢なんか関係ないだろう?」
「あぁ、そうだな……」
オリジナルはどこかまだ上の空であり、対して紫煙を吸っている間に落ち着いてきたのだろう、べスターは諭すような口調で続ける。
「良いか、この戦いが終わったらな……お前は新しい戸籍を得て、グロリアと新しい生活を始めるんだ。もちろん、身体の爆発物だって取り除いて……グロリアの言う通り、再手術をして元の体に戻ったっていいだろう。
理論的には不可能じゃない。全身を義体化しているわけじゃないんだから、生きている細胞を使って再生手術をすることだってできるんだ。
それで、今度こそ大学に行けば良い。別にこの国の大学じゃなくたっていいし、どの国の大学にだって推薦状だって出すことだってできる。政府からの斡旋があれば、大学側だってイヤとは言えないだろう」
「はは、そりゃいいな。しかし……」
「お前はこう言うつもりだな? 人殺しの自分が、夢を追いかけていいものかと……良いんだ、お前はあくまでもオレ達のような卑怯な大人たちに巻き込まれた犠牲者、もとい協力者に過ぎないんだからな」
「お前は卑怯じゃないよ、べスター。いつだって俺たちのことを真剣に考えて、見守ってくれているじゃないか」
「……あぁ、お前の言う通り。オレはいつだって傍観者だ」
オリジナルとしては善意のつもりだったのだろうが、虎と同等にナイーブな科学者にとっては痛い一言だったのだろう――べスターは振り返ってパソコンのモニターを見た。彼が傍観者でなくなるための準備が、そこでは着実に進められているのだ。
「ともかくだ。もう二度とオレの前でそんなくだらないことを言うんじゃないぞ……グロリアの前でもだ」
「あぁ、すまなかったな」
「……こちらこそ、急に怒鳴って申し訳なかった」
「俺のせいで皆に気を使わせちまったが……晴子のことは本当にありがたく思ってるんだ。少ししたら、俺も気持ちを切り替えるからさ。ちょっと待ってくれると助かる」
オリジナルは立ち上がり、研究室を後にした。対するべスターはチェーンスモークを続け――恐らく気分を落ち着かせるためなのだろう、いつもよりも本数が多い――そして数本吸った後に、やっと元の作業に戻ったのだった。
◆
「……なんだかすまないな」
自分がそう言うと、画面外で煙草をボゥッと吐き出している男は「何を謝ることがある?」と首を傾げた。
「いや、オリジナルが変に拗らせててさ」
「お前が謝ることじゃないし、何ならオリジナルも謝る必要はない……少なくともオレに対してはな」
「でも、オリジナルは少々気にしすぎているきらいもあると思うが……」
「それはそうかもしれない。だが、そこに関しては若さもあったんだろうな」
「まるで俺の方が老けてるみたいな言い方だな」
「あぁ、オリジナルと比べたら、クローンのお前の方が少し落ち着いてる気がするな。何なら人格形成されて一年にも満たないはずなのに、妙なことだが」
まぁ、一時にし始めるとドツボにはまっていくのは変わりないが、べスターは煙を吐き出しながらそう答えた。
「褒められてるんだか貶されてるんだか……まぁ良いか。しかし、こんな調子でオリジナルは大丈夫だったのか?」
「そこに関して問題なかった……モノリス奪還作戦も万全な状態で臨んでいたと言っても良いだろう」
「何かあったのか?」
「あぁ、これは後から……右京に関して少しでも情報を集めようと、保管されている映像を探している時に見つけたんだが……これがオレが知りうる中で、最も右京の核心に近づいた映像だ」
べスターがリモコンを操作すると、ブラウン管の映像が切り替わり、どこかの瓦礫の山が映し出された。遠方に煙が上がっているのを見るに、恐らくテロの後であり、その対処が終わった後なのだろうが――スピーカーから物音が聞こえてくると、瓦礫の上を歩いて近づいてくる少年がカメラの中央に映っていた。
【お詫びと連絡】
11-38の話数が2重になっており、修正しました。
サブタイトルの記載数字が間違えて投稿していただけなので、
内容的な変更はありません(11-38は微修正しています)。
混乱させてしまいまして申し訳ありませんでした。
また、本日よりハーメルンの方でもB&Tの投稿を開始します!
もしよければ、覗いていただけると幸いです!




