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11-44:虎の思い描く結末 上

 画面が切り替わると、今度は見慣れたコンテナハウスの内部が映し出された。恐らく見舞から帰ってきた後なのだろう、窓から見える空は茜色に染まっている。


「そうか、晴子が……」


 仮面の男は膝の上で手を組んでしみじみとそう呟き、次第に顔をあげてソファーに掛けている少女と視線の主の方を代わる代わる見て頭を下げた。


「べスター、グロリア、ありがとう」

「どういたしまして……と言いたいところだけれど、多分右京の影響が大きいわね。私たちが今日お見舞いに行ったら、すでに手術するって決まってた訳だし」

「あぁ、後でアイツにも礼を言わないとな……なんともまぁ複雑な心境ではあるが」


 複雑と言うオリジナルの気持ちは良く分かる。自分の妹を元気づけてくれたのはありがたいが、そこには男女だからこそという理由があったのは間違いないからだ。とくに既に両親が亡き今、オリジナルは晴子の唯一肉親であり――もう会うこともできない訳だが――同時に右京という人物をよく理解している。祝福する気持もあるものの、手放しに喜べる心境でないということなのだろう。


「それで、手術はいつなんだ?」

「二週間後を予定していると……簡単な手術でもないが、同時にそこまで難しい手術でもない。それに、食欲も戻ってきてるようで、体力も取り戻してきている。そこまで心配しなくても大丈夫だろう」

「そうか、二週間後か……」

「あぁ……ちょうど、アンノウンXの奪取作戦と被るな」


 オリジナルとべスターは、デジタル時計に表示されているカレンダーの日付を見た。リーの一件が一か月前であり、チェンからアンノウンXの情報が提供され正式に上層部からモノリス奪取作戦が告知されたのが二週間前、べスターはその間でパワードスーツと調停者の宝珠の開発を進めていたようだが、流石に作戦には間に合わなかったようだ。


 日数を確認してから、オリジナルはどこか気の抜けた様子でソファーに身を鎮めてボンヤリとしていた。それを見て心配になったのだろう、グロリアが身を乗り出し、机に手をつけながら口を開いた。


「ねぇアラン、べスターから聞いた? これから、二課のメンバーが増強されるんですって」

「あぁ、なんでも潜入工作をしている連中が加入するんだってな」

「それだけじゃないのよ! これからは、アナタが一人で戦わなくっても良くなるの! 本当は私が一緒に戦ってあげたいところなんだけれど……でも、我慢するわ。私が前線に出たら、アナタに変に心配をさせてしまうかもしれないものね」

「……あぁ、そうだな」


 先ほどまで自分も前線に出るんだと勇んでいたグロリアが我慢すると言ったのは、気の抜けているオリジナルを気遣ってのことだろう。その健気さが一向に功を為さないので、グロリアは不機嫌な様子で頬を膨らませた。


「もう! ちゃんと気が抜けてるんじゃないの!?」

「あぁ……今まで晴子の医療費を稼ぐために戦ってきたわけだからな。一つ肩の荷が降りたというか……でもまぁ、だからって途中で降りる気はないさ。ハインラインにも言ったが、DAPAと戦うことは既に俺の意志でもあるんだからな」

「それならに良いけれど……いえ、戦うってのを良いっていうのもおかしいし、えぇっと、私が言いたいのはそういうことじゃなくって……」


 そこでグロリアは言葉を切り、べスターの方に目くばせをしてきた。そして人差し指と中指を組んで口元で前後させ――要件を察したのだろう、男は胸ポケットに手を入れながら椅子から立ち上がった。


「煙草を吸ってくる」

「えぇ、行ってらっしゃい。上着を着ていった方が良いわよ。最近寒いんだから」

「お前はオレがどこまで行ってくることを想定しているんだ?」


 しかし言われた通りに白衣の上から更に上着を纏い、男は寒空の下に出ていった。二人がゆっくりと話せるように気を使ったのか、それとも開発の続きをしようと思ったのか――恐らく両方だ――次に画面が切り替わった時には研究室でパソコンと向き合っており、煙草の灰を切る際に見えた時計は先ほどから二時間ほど経っていたようだった。


 そしてちょうどそのタイミングで研究室の扉が開き、「よう」というオリジナルの声が聞こえた。べスターはそれに対し振り返ることもなく、作業を続けながら煙草の煙を吸い込んだ。

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