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11-41:絶望の克服 上

「……近頃熱心ね」


 パソコンに向かって作業を続ける男に対し、背後から少女の声が投げかけられたようだ。ブラウン管に映るのは地下の見慣れた研究室であり、べスターは壁に設置されている防護服らしき者が収められた箱に対し、何かしらのプログラムを打っていたようだった。


「まるで、普段は仕事をしていないかのような口ぶりだな、グロリア」

「そこまでは言ってないじゃない。でも、いつもにも増して無理しているように見えるのは確かね……何をやっているの?」

「単純に言えば、二課の戦力増強のための開発をしているんだ」


 男は振り向くことなく作業を続けており――とはいえ、後ろから覗き込んでくる少女を諫めることもしなかった。むしろ、モニターの一部分を指し示しながら説明を続ける。


「一つ目が、パワードスーツT2……これは先日のリーゼロッテの物を参考にしつつ、今までのアラン・スミスの戦闘データを学習したサポートAIを積んだマスクを作っているんだ。これにより超音速戦闘をこなしつつ、第五世代型の存在をある程度識別出来るようになる」

「そもそも、ADAMsって脱出用であって戦闘用じゃなかったのよね? 最初から超音速戦闘をこなす前提にしているだなんて、生真面目なアナタらしくないわね」

「はは、そうだな……しかし、アランの戦果と超音速戦闘は切っても切り離せない。それに、T2に搭載するAIはADAMsを込みで学習しているからな。それなしでは万全の戦闘をこなせないはずなんだ」

「成程ね。それで、それは誰が装着するの?」

「それは、もう一つを説明したら話す……コイツだ」


 男がキーボードのショートカットで画面に表示されているウィンドウを切り替えると、また何やら小難しいプログラムが無数に組まれているのが表示された。しかし、文字列の横にはどことなく見覚えのある形状の物体が映し出されている――アレは調停者の宝珠だろう。


「なになに……精神感応デバイス?」

「あぁ。人の意志に反応すると言われているレアメタルから構成される有機金属……端的に言えば、このデバイスを所持する人間の精神力を複数人によってサポートすることにより、所持者と感応者の潜在能力を極大に引き出す装置だ」

「何それ、オカルト?」


 べスターがそこで初めて振り返ると、どこか胡散臭い物を見るかのようなグロリアの瞳と眼があった。


「まぁ、オレもそう思うが……最近考えを入れ替え始めた。謎の奇病の出現や、お前の飛行能力を筆頭にした超能力、それに先日アランに対して行われた謎の電撃による超遠距離攻撃。今までの科学の範囲内で説明しきれないことが確かに存在するのは確かにあるんだ。

 正確に言えばオカルトではなく、体系化されていない未知の技術と形容するほうが正確なのだろうが……オレ達の戦いは単純な潜入工作と暗殺じゃなくなってきている。活用できるものは活用しないとな」


 完成してみないと使えるかは分からないし、実用化に耐えうるかはまだ不透明だがな――べスターはモニターの方へと振り返りながらそう続けた。


 しかし、べスターはいつ、精神感応デバイスの情報を得たのだろう。時制の順で言えばチェン・ジュンダーから渡された端末を解析した結果だろうか。心を合わせ力を引き出すというのは、なるほど、そのデバイスはチェンが言っていた絶望に対する対策のように思われる。


 ともかく、男が熱心に仕事を続けるのをおかまいなしに少女は話を続ける。


「さっき、複数人でサポートするって言ったわよね。つまり、アラン一人で戦わなくてよくなるってこと!?」

「あぁ、そういうつもりで開発している。とくに精神感応デバイスは所持者を中心に、三人の精神を一つにすることで起動するように想定されているんだ。三という数字は安定的な数字……三角形や三脚、三権分立など、平面幾何学上は勿論、立体上でも概念上でも、バランスを取るのに使われる数字だからな」

「それじゃあ、さっきのT2とやらはアナタが纏うとして……私もアランのサポートに周れるのね!」


 話すにつれ、グロリアのテンションはどんどん上がっていっているようだった。しかし、モニターに照り返されて僅かに映る少女の顔には、最終的には疑問の色が浮かんできたようだった。


「あれ、でも、あと一人は? 右京は戦えないだろうし……」

「前線に出るのは、オレとアラン、それに今後合流予定の二人の四人だ。お前には変わらず後方支援をお願いしたい」

「むっ……」


 モニターに映っていた疑問の表情を、男の言葉は不機嫌そうに頬を膨らませたものへと変化させてしまった。

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