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11-40:自死と能動性について 下

「一歩引いた眼で見るのが大切なのです。確かに、ACOが認識している十数個のケースにおいて、性別や年齢、国籍、思想や経歴に共通点はありませんでした。しかし彼らにはただ一個共通点がある。

 それは、誰も彼もがいたって平凡から、それよりもやや劣る程度の生活基準の者たちであったことです。自死を選ぶような人間は、高度に知能を発展させており世の中に絶望しているか、もしくはある一定の立場から転落してしまったか……つまり、社会的に後が無いから死を選ぶ傾向にあります。

 対して、今回奇病を発症した者たちは、別に死を選ばざるを得ないほど追い詰められているわけではなく、明日も明後日も平凡な生活を続けられる者たちでした」

「確かにそういう意味では、自殺願望者とは真逆のように思われるな。しかし、なぜ平凡であることが発症の条件になっているんだ? むしろ、もしその条件が正しいのであるならば……」

「えぇ、もっと多くの人たちが発症しないとおかしい。なので、そもそも私の推論が間違えているのかもしれないですし……平凡であることに上乗せして、他にも条件があるのかもしれません」


 チェンは言葉を切って海から視線を外し、べスターの方へと近づき、耳打ちをするように話を続ける。


「いずれにしても、恐らく先ほど渡した端末の中に、絶望から来る病への対抗策があるはずです。DAPA側としても、罹って欲しくない人材が病に侵された時を想定して、その対抗策を講じておく必要はあるでしょうから」

「成程……それでは、コイツの解析を進めておくことにする。ウチのハッカーの助けは借りて問題ないか?」

「そうですね、その辺りは彼の専門でもあるでしょうから……しかし、可能な限り一人で解析をしてみてほしいです」

「信用していないのか?」

「えぇ。正確には、私は大半の人を信用していません。だから特段、そのハッカーだけを信用していない訳ではないのです……優秀なのは認めますがね。

 いずれにしても、情報を知る者が増えれば漏洩のリスクは高くなる。そういう意味では、まず可能な限り貴方一人で解析を進めてみて欲しいのです」

「お前の言うことは一理ある。だが、アイツの名誉のために言うが、うちのハッカーは信用できるやつだぞ」

「はは、私がそのハッカーを信用していなくても、貴方を信用しているのは、そういうところですよ」


 チェンは小さく笑いながら後ずさり、先ほどのポジションに戻って海の向こうの一点を見つめ始める。


「今回の奇病発症を鑑みて、上層部はアンノウンXの更なる解析を求めています。そのため、近いうちにアンノウンXの奪取作戦が決行される予定です」

「お前たちも参加するのか?」

「はい。しかしそうなれば、我々の素性はDAPA側に否が応でもバレてしまいますし、もはや潜入工作は不可能になりますね」

「お上も思い切ったな……しかし、アンノウンXは持ち運びできるのか?」

「それだけ、奇病の発症を重く見ているとも取れますね……それ故の背水の陣かと。携行可能かについては、ある意味では可能であると想定されています。

 極東におけるアンノウンXは二種類あることまでは調査から判明していますが、片方は巨大であり、少数人数で持ち運びするのは不可能です。もう片方は、私のサイオニックで持ち運び可能なサイズではあります」


 ただ、その物体が特殊な放射能でも放っていたら難しいかもしれませんが、チェンは肩をすくめながら笑った。


「ともかく、この作戦の後は私達も二課に合流する予定です。正確には、この作戦から、という方が正しいかもしれませんが」

「タイガーマスクも投入するということか?」

「はい。上層部はそのように考えているようです……まだ仔細は決定していませんが、タイガーマスクが陽動をしている間に、私とセイリュウでアンノウンXを持ち出す計画です」

「はぁ……虎は隠密に優れた存在だ。表だってドンパチやるのが仕事じゃないんだぞ?」

「とはいえ、第五世代型を見破れるのは現状では彼だけですから……セイリュウも徐々に掴んできてはいるみたいなのですがね。

 それに、二課の虎はマスクの裏には激情を秘めている。本来は隠密をするようなタイプでもないでしょう?」

「……違いないな」


 べスターは紫煙を吐き出しながら頷きつつ、チェン・ジュンダーの視線の先を見る。そこにはピラミット型の巨大な建物が、以前と変わらぬ様子で鎮座しているのであった。

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