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11-34:雷神の手甲 下

「だが……!」


 虎はすぐに思考を切り替え、残りのもう一本でガントレットの破壊を狙ったようだ。クロスレンジ、ここならレーザーブレードはかえって使いにくいはず――しかし、それすらも女は読んでいたようだ。切っ先が手甲に届く前に虎の身体が後方へと吹き飛ばされてしまい――アラン・スミスは何とか着地してすぐに視線をあげると、リーゼロッテ・ハインラインは膝を突き出しながら微笑みを浮かべていた。


「中々のセンスだけれど、やはり近接戦闘は慣れていないようね」

「……あぁ、そりゃお前さんと比べたら、人生経験からして劣っているんでね」


 腹に良いのをもらったようだが、アラン・スミスの闘争心はまだまだ折れていない。しかし、状況としては不利なのは間違いない――ADAMsでの離脱を防がれており、その上で主力の武器も一本失っているのだから。


 けん制するように投擲も行うが、女は一瞬だけガントレットを起動して腕側に引き寄せてナイフを無力化してしまう。更に接近戦が再開されると、膠着状態が続き――むしろ段々とリーゼロッテの動きが鋭くなってきているようであり、オリジナル側は高温のレーザーブレードにより徐々に外套や体表を抉られているようだった。


「……あぁ、もう、見てられない!」


 オリジナルが追い詰められているのにしびれを切らしたのか、助手席に座っていたグロリアは車の扉を開けて外へと飛びだした。


「待て! お前が行ったところで何にもならん! アイツも……」

「望んでないっていうのは百も承知よ! でも、私だってアランが苦しんでいるのを望んでいないもの!」

「感情だけで先行するな! あそこに向かうだけでも大変なんだぞ!」

「押し問答している暇はないわ!」


 そう言いながら、グロリアは路上で炎の翼を背中に出した。少女を止めるために男が扉に手を掛けようとした瞬間、スピーカーから少年の声が聞こえ始めた。


「ヴィクター、マチルダに任せよう」

「しかし、無人ヘリも向かっているんだぞ!?」

「そこに関しては、僕の方でどうにかしてみせるさ。どの道、あそこから脱出するのには、タイガーマスク一人じゃどうしようもない。彼女の飛行能力を頼ろう……大丈夫だ、鳥かごを脱出した時と要領は一緒さ」

「まぁ、そうかもしれないが……」


 右京の説得にべスターは運転席に戻り、改めてグロリアの方を見た。少女は真剣なまなざしで男の方を見つめており――根負けしたのだろう、男はため息を一つ吐きながらダッシュボードを開け、小さな機材を少女の方へと放り投げた。


「……これは?」

「通信機だ。それがあれば、ケイスの指示を受けられる。耳につけておけ」

「了解よ。私が必ずタイガーマスクを救ってみせるわ!」


 グロリアは力強く頷き、受け取った通信機を耳に取り付けてから背中の羽を羽ばたかせて街の方へと飛んでいった。べスターが車内に視線を戻すと、分割されたモニターの中で右京が何やら考え込むように顎に手を添えているのが映っている。


「とはいえ、彼女が到着する前にガントレットの破壊は必要だろうね。そうでなければ、結局は磁界に閉じ込められてしまう」

「あぁ、そうだな……」


 少年に返事を返すと、男は胸ポケットから煙草を一本取りだし、やおら火をつけて紫煙を吐き出した。そしてすぐに脇においていたパソコンを膝の上に戻し、キーボードを叩きながらマイクに向けて話し始めた。


「タイガーマスク、返答はしなくて大丈夫だから聞いてくれ。ひとまず、時間を稼ぐんだ……オレの方であの手甲の解析をして、活路を見出す。

 お前のポリシーを度返ししても、どうやら今のままでは不利そうだ……それならば、やはりガントレットの破壊がこの場を切り抜ける一番現実的なラインだろう。

 フレデリック・キーツの作品ならば様々なケースを想定してはいるだろうが、同時に携行できる超電導コイルなどの複雑な機械だ、必ず弱点はある……それを見つけ出してみせる」


 通信していることを女に悟らせないため、虎は男の声に反応はしなかったが――左手に残ったブレードを右手に持ち替え、しかし相手との距離を一定に保ちながらべスターの提案を実行する気のようだった。

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