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11-24:近づく二人 下

「右京さんってモテそうですけど、すぐに愛そう尽かされるタイプですね?」

「否定はしません。今だってアナタが期待していることは何となく分かっていました。しかし、自分の言葉に責任を持つことが怖かった……」

「浅ましい女と軽蔑するかしら?」

「いいえ、僕がアナタの立場なら、きっと同じように思い、期待したことでしょう。だからこそ理解できたのであり、同時に……だからこそ返事をすることが出来なかったんです」

「アナタは真面目過ぎるのね。慎重すぎる、というのが正しいのかもしれないけれど」


 晴子の指摘に、右京は肩を揺らした。以前、自分はシンイチに同じことを言った。お前は真面目過ぎると。あの時に右京の魂が動揺したのは、晴子に同じことを言われていたせいなのかもしれない。


 自分が言った真面目という形容は勿論だが、晴子の言った真面目も良い意味ではないはずだ。もちろん、相手の立場や未来のことまで考えれば安易な行動や言動を取るべきでないのは一つの正論ではあるが――あまりにも気を使いすぎれば疲れるだけだし、様々な可能性に雁字搦めになって、結局は何も行動できなくなるはずだ。


 そして、そんなことは聡明な少年はとうに気付いているはずであり――だから図星を突かれたような居心地の悪さを覚えて押し黙るしかないのだろう。


 晴子はというと、そんな右京の様子に満足したのか、雰囲気を少し柔らかくした。


「でも、それだけ考えている証拠だとも思います。私が先ほど、兄を傲慢だったと表現したのはその辺りです。

 別に、本心から兄が偉ぶっているとか、そんな風に思っているわけではないのです。ただ、困っている人を見れば、相手の気持ちも考える前に……救われる覚悟が無い者にも手を差し伸べてしまう」

「しかし、事故から女の子を救った時のことを考えれば……その子は覚悟をする時間もなかったはずです。お兄さんはそういった、理不尽な暴力に対してこそ立ち向かっていたのではないでしょうか?」

「えぇ……だから兄さんは、私の大好きな、お節介な焼きなヒーローだったんです。時おり、あの人の差し伸べられた手を億劫に感じることはありましたが……なんやかんやでその手を取ると確かに良い方に進んでいくから、私は、最終的にはいつも兄の言うことを信用出来たんです」


 今の二人のやり取りに関しては、自分としては色々と感ずるものがあった。まず、自分がレムにおいて、エルやソフィア、クラウと時おり上手く噛み合わなかったのは、晴子の言っていたことが原因なのかもしれない。


 自分はこちらが思っていることを、少女たちに押し付けてしまっていたのではないか? 相手の立場を考えているつもりで、自分の偽善を押し付けてはなかったか? 思い返せば、結構反発されることも多かったように思う――それは晴子の言うように、少女たちがこちらの手を億劫に感じている時だったのかもしれない。


 同時に、画面内の二人が自分のことを――正確にはオリジナルのことだが――理解し、認めてくれるのが嬉しくもあった。右京などはフォローを入れてくれたのであり、晴子は兄のことを信用してくれていたのだ。


 そんな事実に対して自分が感じ入っていると、ブラウン管の中で右京が「しかし……」と軽い口調で切り出した。


「晴子さんは見かけによらず歯に衣着せませんね」

「あら、そういう右京さんも、なかなか皮肉を言いますよね。見かけによらずなんて失礼だと思いません?」

「正当防衛ですよ、言葉のね」

「あぁ言えばこう言う……でも、あんまり遠慮しているよりも、そっちの方が親しみがあって良いと思いますよ。初めて見た時は、なんというか……隙がなくて、ちょっと怖かったですから。もう少し、肩の力を抜いても良いと思います」

「それはアナタの言うところのお節介では?」

「アナタと違って、私は自分の言葉に責任を持つ覚悟がありますから」


 今の言葉の真意は、流石の自分でも分かる。この短期間で、まさか二人の仲がここまで進展するとは。兄の血を継承している自分としてはやはり複雑だが、同時にこの二人は波長が合っているというのも理解できる。


 それは、きっと扉の前で病室内を見守っているべスターとグロリアも感じ取っていたのだろう。黙って成り行きを見守っていたようだが、右京が「まいったな」と頭をかきながら首を回すと、とうとう二人だけの空間は終わりを告げたのだった。


「聞いていたのかい?」

「あぁ、バッチリな」

「えぇ、バッチリね」

「ふぅ……まったくみんな人が悪い」


 右京は自虐的な笑みを浮かべてため息を吐き、再び寝台の方へと向き直った。


「ここに来ると、墓穴ばかり掘らされますね」

「もう来るのはイヤになりましたか?」

「いいえ、やられっぱなしは癪ですから。また来ますよ」


 少年はそれだけ言い残して立ち上がり、聞き耳を立てていた二人を押すようにして病室を後にした。その背後では、晴子が微笑みながら少年の背に手を振っているのだった。

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