11-20:戦艦島での激闘 下
「おい、この辺りに居るのは分かってるんだ! 姿を現しやがれ、タイガーマスク!」
「言われなくてもな……こっちだぜ、オッサン!!」
追いかけてきた巨大ロボと、ヘリから下を探し回っているフレデリック・キーツの方へと向けて、オリジナルは武器を向ける――同時に、べスターの方も解析が終わり、巨大ロボットの胸の部分が赤く点滅しているのがモニターに映し出された。
「アラン、コックピットは胸部中央だ!」
「王道だな……いくぜ! チェーンガンのお返しに、ロケットランチャーを食らいやがれ!」
虎がトリガーを引くと、ガスと共に四連ロケットランチャーに装填されていた対戦車ロケット弾が射出され、ロボットの胸部を目掛けて弾が飛んでいく――本来なら反動の大きさのため連射は厳しいはずだが、その辺りは流石のサイボーグというところか、照準をずらさずに四発を即時に打ち切って見せた。
しかし、四発の弾は中空で爆発を起こしたため、コックピットに着弾することは無かった。
「なっ!?」
「馬鹿野郎めが! 言っただろう、山岳ゲリラとの戦いを想定していると……ロケット弾の類はカメラで感知し、迎撃するシステムを搭載しているんだよ!」
確かに先ほど見た感じだと、側頭部のバルカン砲が弾道を察知し、弾を迎撃したようだ。
「……やっぱり、火器の類は俺の性に合わないな」
迎撃されたのは性に合う合わないの話でもないと思うが、自分もそうなので気持ちは分かる――煙が渦巻くモニターで視界は遮られているが、アラン・スミスはしゃがみ込んで何かを拾い上げた。
最初からもう一つの武器を使えば話も早かったはずだが、恐らくのところはロケットランチャーをただ単にぶっ放してみたかったというのが正直なところだろう――ともかく、虎は機械についている紐を引っ張りながら窓から離れた。
ADAMs起動後の独特なカメラのブレが起こった後、TF19の胸部装甲から激しく火花が散っているのが映し出される――虎が両手で振りかざしているその先には、けたたましく鳴り響きながら動く刃が見えた。
「……ダイアモンドチェーンソーだとぉ!?」
チェーンソーが装甲にぶつかっている音が大きく、キーツの驚愕の声は僅かに聞こえただけだ。しかし、流石特殊合金で作られた戦艦島における最高の防御を誇る砦、簡単には切り裂けはしないようだった。
しかし同時に、懐に潜り込んでいるのだから、ロボ自身の迎撃もままならない訳だ。結局、デカブツは懐に潜り込まれると弱い。それも音速を超える虎なら、飛び込むこと事態は容易。あとはこのように通用する武器さえあれば、活路を拓くことができる。
チェーンソーの刃が折れるのと、コックピットを守る装甲部分に確かな亀裂が入ったのは同タイミングだった。その隙間から、僅かに老年の男が泡を吹いて気絶しているのが見える――恐らく、TF19の無茶な動きにアンダーソンは気を失ってしまっていたのだろう。
「アンタに恨みは無いが……そのまま目覚めることなく、永久の眠りについてもらう」
虎は腰から一本の短剣を取り出し、僅かな隙間からそれを投げ入れ、男の眉間に深々とそれを突き立ててみせた。アラン・スミスはすぐさまその場を離れてアスファルトへ着地し、上空でヘリの壁を叩いている白衣の男を見上げた。
「アンダーソン! 守れなかったか……!」
恐らく、キーツとアンダーソンは旧友か、ないし親しい関係にあったのだろう。僅かなやり取りを見ただけだが、二人は悪友というか、気心の知れている雰囲気があった――フレデリック・キーツの性格を考えれば、味方の中で誰が亡くなってもあのように死を悼むだろう。
「アンタの策、攻守一体で悪くなかったが……場所と相手が悪かったな」
山岳ゲリラを想定して作られた機動兵器を用いたとしても、虎がチェーンソーを持って襲い掛かってくることまでは想定できる訳が無い。虎はそのまま踵を返して移動を始めると、その背中にはキーツの怒声がぶつけられた。
「おい、逃げる気か!? オレと戦え、タイガーマスク!」
「俺はターゲット以外は殺さない主義なんだ……そう言うアンタこそ、DAPAを抜ける気は無いのか? 人体実験だの武器製造だの、碌なことをしてないだろう」
アラン・スミスは振り返り、ヘリの上で神妙な表情を浮かべている男の顔を見つめた。
「乗りかかった船なんだ……仮に船頭が間違えているとしても……それを見過ごしてきたオレは、誰かに裁かれるその日まで……最後まで戦い続ける義務がある」
「……不器用なオッサンだな。だけどそういうの、嫌いじゃないぜ……長生きしてくれよ」
長生きしてくれと言ったオリジナルも、ましてやキーツ自身も、まさか実際に万年を生きることになるとは思ってもいなかっただろうが――ともかく虎はヘリに向かって手を振り、後は音速を超えて脱出用の潜水艇のある区画の方へと一機に移動を始めた。建物の中にさえ入ってしまえば上から見つかる心配もないし、同時にタイガーマスクを迎え撃つために第五世代型も出払ってしまったようだから、道中での戦闘も無かったようだ。
「なぁ」
「ダメだ。あんな携帯性の悪い武装の追加は認められない」
「はぁ……相変わらず浪漫がねぇな、お前はさ」
オリジナルとしては、先ほどのチェーンソーがなかなか派手で手馴染みが良かったということなのだろうが――べスターといつも通りの軽口をかわしあい、戦艦島を後にしたのだった。




