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11-17:戦艦島への潜入 下

 桟橋から戦艦島に渡るのが、今回のミッションの最大の鬼門であると言っても良いだろう。言ってみれば当たり前だが、桟橋の付近には見張りが常駐しているのであり、それらに全く気付かれずに侵入するのが困難だからだ。


 最初は排水管からの侵入も考案されたようだが、最終的には選ばれなかった。下水を通った時に付着する臭いが暗殺者の位置を知らせかねないからだ。アンドロイドたちは臭いまでは識別できないが、人には察知される可能性はある。


 その結果として生じた最初にして最大の関門に関して、虎がとった行動は次のようなものだ。まず、背負っていた酸素ボンベを取り外して適当な重りを追加し、それを海へと蹴り入れる。臭いに反応できない代わりに、アンドロイドたちは音には敏感だ。素早く物陰に身を隠し、音の正体を確認しに来るアンドロイドたちを待ち構える。


 確認に来たアンドロイドは二体だった。それも、普段のように完全迷彩は起動しておらず視認できる――それらの背後から腰部に素早くEMPナイフを投擲し、動かなくなった二体から素早くそれらを回収して、階段を昇って桟橋を渡る。


 配備されている全アンドロイドの細かい挙動まで確認されていなければ、EMPナイフでスタンした挙動はちょっとした電波障害として処理される。少なくともそういった設計で考案された武器ではあるし、同時にまさか細かくこの状態をモニターしている者はいないだろうということでの潜入案だった。


 ともかく、島に入ってからの移動に関しては、ARC社のビルに比べればスムーズだった。屋内と比べれば格段に身動きは取りやすく、また面積あたりに対する警備の数も多くない――その上、この島の上では第五世代型は姿を現したままになっている。


 さらに、今回の潜入に関しては内部の詳細な地図が手に入っている。しかも、ある程度のアンドロイドの配置と順回路まで記載しているのだ。もちろん少しずつ配置は変えているようだが、それでも大まかな警戒ポイントは変わらないおかげで、かなりの速度で目的地へと進むことができていた。


「……しかし、その確かな筋ってのはどこのどいつなんだ?」

「DAPAに潜伏している諜報員だ。先日、懇意になってな……今回のミッションを事前に聞きつけて、詳細なデータを送ってくれたんだ」

「へぇ、この前会いに行ってた奴か。どんな奴だ?」

「胡散臭いが、味方なら信頼できそうなタイプだ。お前もそのうち会うことになるかもしれない」

「胡散臭い奴ねぇ……そんな奴は、凄腕君だけで十分だが」

「……聞こえているよ、先輩」


 オリジナルの軽口に対し、右京は珍しく棘のある声色で反応した。しかし、本心から怒っているわけでもないだろう――虎は「味方なら信頼できそうなタイプ」という点まで含めて右京のことを挙げたのだろうから。


「しかし、アンダーソンが居る建物はその先だ。これだけスムーズなら、今日は早く……」

「……いや、イヤな予感がする」


 そう言って、アラン・スミスは建物の隙間に身を隠して立ち止まった。そこから僅かに身を乗り出し、先をじっくりと警戒する――戦艦島には、合計三千人程度の人型が存在する。そのうち九五パーセントが生産用の改良型の第一世代と第四世代、百が警備用の第五世代、そして残りの五十人程度のエンジニアなど医者などの人が目的地である複合施設に住んでいる。


 その複合施設は、人が暮らすのに最低限の景観を備えるためか、工場地帯からやや切り離された場所にある。つまり、現在アラン・スミスが身を隠している場所から居住区まで、開けた広間が五十メートルほど隔てている――そこには身を隠せるような遮蔽物が無いので、虎はそれを警戒しているのかもしれない。


「ケイス、あの建物の外に取り付けてある監視カメラは?」

「入口に一つだけだ。先輩が侵入する時には、ダミー映像を流すよ。第五世代の巡回もあるけれど、先輩から視えなければ問題ないはずだ。入口の電子ロックも問題なく外せるだろう」

「他に入口はないのか?」

「そうだね……周囲の工場とかと違って、アレは独立した居住用の建物だ。人が通れるような配管や地下道もないから……せいぜい、ドアの代わりに窓を破って入るくらいしか方法は無いかな」

「そうか……それなら、行くしかないな。今日に限って、迷彩が無いのが仇にならなきゃいいが……」


 海中を泳いで来る必要があったので、いつものステルス機能付きの外套を着てこれなかったのだろう。ともかく、オリジナルも意を決したように建物の前の広場に躍り出て、素早く、そしてなるべく物音を立てないように扉の方へと走り出した。


「……見つけたぜ!!」


 頭上から声が聞こえたのと同時に、扉の前の広場に巨大なスポットライトが当てられる――虎が声のしたほうを振り返ると、建物の屋上に設置されているライトの横で、不敵な笑みを浮かべながら眼下を見下ろすフレデリック・キーツの姿があった。

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