11-16:戦艦島への潜入 中
「ターゲットのアンダーソンだが、夜間は居住区画の自室に居るはずだ。武器製造もアンドロイドがやっているし、夜に外に出歩くこともないだろう」
「こんな所に押し込められて、気でも滅入らないのかね?」
「代わりに高い給料をもらっているんだ、文句もあるまい……それに、あのデイビット・クラークが信頼を置いているんだ、世間一般の常識など気にしないような奴だろうよ」
「そう言われると、妙な説得力があるな……それで、戦艦島の防衛体制は?」
「有力な筋による情報によれば、第五世代型が百機程度配備されている」
「少なくは無いが、思ったほど多くはないな」
「孤島という立地上、そもそも不審者に上陸されないような防衛体制になっているんだ。空や海上から接近する分には、対空ミサイルに大型レールガンと、より取り見取りだぞ?」
「なるほど、それでそれらを無視できる海中からのアプローチが採用されたわけだな」
「そういうことだ」
アラーム音が聞こえ、男は別のモニターに視線を移す――ソナーの画面だろう、虎を乗せた棺桶が規定地点に近づいているようだった。
「そろそろランデブーポイントだな。映像は共有されているが、海中でお前の方から話しかけることは出来ないからな。最後に確認しておきたいことはあるか?」
「えぇっと、確かライトが仮面に内蔵されていたと思うんだが……これって深海でも使えるのか?」
「もちろん、それの耐久性も織り込み済みだ。ライトはこめかみの辺りにボタンがある。今のうちにつけておいた方が良いだろう。呼吸に関しては、背に着けている酸素ボンベと仮面があれば一時間はもつ……それまでに潜入を成功させるんだ。
最後に、マチルダからの伝言だ。明日の朝食までは帰ってきなさい、だと」
マチルダというのは、グロリアのコードネームらしい。これもべスターの好きな映画からとった名前だろう。
「はは、お嬢さんのご機嫌を損ねると後を引くからな……善処するよ」
オリジナルの正面がライトに照らされ、それと同時に小型の潜水艇の上部から空気の抜けるような音が聞こえ、徐々に船内に水が入ってくる――コックピットの中が完全に浸水するのと同時に上部の扉が開かれ、アラン・スミスは棺桶から漆黒の海の中へと飛びだした。
ライトで照らされてると言っても、逆を言えば視界に入るものはその灯りだけだ。足場もなく、空気もない世界となれば、いくら酸素ボンベがあると言っても上を目指したくなるだろう。しかし、水圧に身体をならすために、一気に上昇することも許されない――そんな中、オリジナルは暗中をゆっくりと、だが着実に進み続けているようだ。
むしろ、モニターを見守るべスターの方が緊張しているのかもしれない――その証拠に、「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」と右京がフォローを入れているほどだった。
「もちろん、理論上は潜入可能だ……しかし、こんな真っ暗な中で行く先を見失わずに、水圧に身体をならしながらなんていうのは、かなりの無茶だ」
「だからこそ、DAPAもこんな潜入が行われるなんて想定していないはずだし……それに、あそこに居るのは普通の人じゃない。数々の困難なミッションを乗り越えてきた暗殺者なんだ。必ずやり遂げてくれるさ」
「そうだな……」
「……僕がしっかり見ておくよ。なんなら、一服してきたらどうだい?」
「いいや、アイツを送り出したのはオレだ……見守る義務がある。それに仕事中なんだ、安易に離席するわけにもいかないだろう?」
べスターはそう言いながら右京の方へと煙草の箱を放り投げた。右京はそれをキャッチすると、「それじゃあ代わりに」と飴玉の袋を投げ返し――男はモニターに目を戻して飴を取り出し口に放り投げると、すぐさまそれをかみ砕いてしまった。
そこから画面が少しばかり早送りになると、闇の中を彷徨っていた虎は頭上に光を確認した。月明かりにしては眩しすぎるそれは、人工の光で間違いないはず――右京の言う通り、無事に目的地まで達したようだった。
「先輩、こっちの声は聞こえているね? 上陸できるポイントにナビゲートするよ……蜂の巣にされて海の藻屑になりたくないなら、僕が良いというまで浮上はしないように」
右京がナビゲートするとなれば、監視カメラの死角を突き――ないし映像を改竄し――第五世代が配備されているところを避けてポイントを指定できるだろう。虎は少年の指示通りに海中を泳いで進み、最終的には連絡船を乗りつける桟橋のある場所へと浮上した。
オリジナルは周囲に第五世代型が配備されていないのを把握して――恐らく順回路にはなっているだろうが、配備されている数が多くないので常駐しているわけではないようだ――上陸した。




