11-13:在りし日の亀 中
「あそこがDAPAの極東支部に置ける最大の拠点、通称金字塔です。言ってみれば、文字通りの悪の総合商社ですね。
今から十年ほど前、この島国を拠点とした大規模な深海探索プロジェクトが行われた……主に深海資源や生態系の調査と銘打たれており、その調査内容の大部分は公表されていていますが、探査船はあの建物から出発して、そしてどこにも寄らずにあすこへと帰投しています……つまり、秘匿している情報もあるはずなのです。
それだけではありません。その直後に実施された二年に及ぶ惑星間飛行の調査物は、DAPA私有の宇宙ステーションからあの建物へと運び込んでいることも確認されているのです」
「つまり、DAPAはアンノウンXをあそこに秘匿している、ということだな?」
「えぇ。私の仮説としてはこうです……まず、どんなきっかけがあったのか分かりませんが、DAPAはこの国の近くの海溝にアンノウンXがあることを突き止めた。そして、その存在を我々政府の者たちに察知されないようにするため、遠い本国への輸送を諦めて、近くのこの土地に運び込んだ」
「随分と手の込んだことをするんだな」
「えぇ。各国政府もDAPAの深海探査プロジェクトには目を光らせていましたからね。仮に本国へまで輸送をしていれば、もう少し尻尾は掴めたと思うのですが。
元からこの国はDAPAの資本もかなり投下されていましたし、深海探査の前から分社も数多く設置されていました。通信技術の発達した現在では、ビジネスマンはどこにいても仕事が出来ますから。そう言った意味でも、ここは都合が良かったのでしょう。
まぁ、どれもこれも私の憶測にすぎませんが……とはいえ、グロリア・アシモフの言う謎の黒い物体が存在するのが確かなら、少なくとも人智を超えた力を引き出す何物かが、金字塔にあるのは間違いないでしょうね」
「そもそも、人智を超えた何かがあるなんていうのも、にわかには信じがたいが」
「しかし、現在の科学では立証しきらないことも、また存在するのです。たとえば……」
男が緩やかな調子で腕を動かし、二本の指を上へと曲げると、べスターの胸ポケットから一本の煙草が浮かび上がってきた。そしてそれはゆっくりとべスターの顔の方へと近づき――それを咥えると、べスターはライターを取り出して火をつけた。
「成程、お前が噂のサイオニックか」
「えぇ。私がこの能力を得たのは、旧大戦中に祖国で能力開発を受けたからです。薬品投与など科学的なアプローチもありましたが、多くは瞑想や断食などからくるトランス状態に頼るなど、オカルト的な要素が多かったですがね」
チェンはべスターの吐き出した煙に向けて指を突き出し、その先端をクルクルと回し出す。霧散するはずだった煙は細長く収束したかと思うと、それは竜のような姿を取った。その後もいくつかの煙の動物を創り出して後、糸目の男が掌をパッと開くと宙の動物園は終わりを迎え、煙は一気に霧散した。
「DAPA内でも、このような能力開発は行われていることは確認済みです。恐らく、その一部の試みが、アンノウンXとの接触なのでしょう。
念視やサイオニック、パイロキネシスなどは、人の持つ能力……脳波や感覚、身体機能の延長線上として、ある程度は開発可能とされています。
しかし、グロリア・アシモフの持つ飛翔能力は、本来人が持つ能力のそれを遥かに凌駕しています。また、タイガーマスクが対峙した時にデイビット・クラークが見せたという噂のアレが、映像によるトリックでないとするならば……瞬間移動などという次元を超越する能力は、まさに人智を超える何かとの接触が無いと開花することは不可能でしょう。
そのほか、私以外の諜報員の調査で、超能力を理論的に体系化する流れもDAPA内にあることが確認されています。魔術などと呼ばれているようですが……まぁ、現代においてこの呼称はナンセンスだと思いますがね」
チェンが皮肉そうに笑いながら肩をすくめたタイミングで、べスターは携帯灰皿に吸殻を押し込んだ。
「ひとまず、アンノウンXが存在し、DAPAの連中に不思議な能力を授けていることは分かった。だが、それが人々の心に絶望を落とすということとどう関係するんだ?」
「その二つに関しては、特別な関係性は無いと考えます……正確には、両方ともアンノウンXの解析の結果、別個にもたらされたものなのではないかと」
「全てはアンノウンXが起点ということだな」
「えぇ。そこでもう一点、確認したいことがあるのです。貴方は、デイビット・クラークの生の演説を見ている……彼はここ数年は表舞台に出ていませんでしたし、彼がタイガーマスクに語ったことの中に、ヒントがあるような気がするのです。
クラークは、虎にどのようなことを話していましたか? 些細なことでも良いのです……恐らく、仲間に引き込めるか分からない虎に対しては本質を捕まれないよう、オブラートに包んだ言い方をしたとは思いますが、真実の一端を指し示している可能性はありますから」
「映像は見ていないのか?」
「えぇ。簡単な報告書は確認できたのですが、何せ虎の存在も極秘ですからね。彼が関わるミッションに関する資料は、中々閲覧できないのです」
「なるほど、そういうことなら……確か、妙なことを言っていたな。人類の進化がどうのと……少し待て」
集中力を取り戻すためだろう、べスターはお得意のチェーンスモークをしながら眼下の海を見つめ、しばし黙り込む。そして何度か煙を吐いたタイミングで視線を戻した。




