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2-19:地下迷宮 上

 地下へと続く階段は割と長く、建物二階分ほどは降りたと思う。そして、エルが言っていたように少し広い通路へと出た。


「……ねぇ、ソフィア。これ、なんだったのかしら?」

「レヴナントだね。ゾンビ系としては最上位の不死系魔族、とは言っても力が強いだけで魔術も知能もないから、エルさんなら苦戦はしないと思うよ」


 そのような会話がすでに繰り広げられており、エルの足元には二体の亡骸が首を両断されて転がっていた。確かに、恐らく元々人だったものが魔族化したものとなると、種族は判別しにくいかも――そう思っていると、足元の亡骸が結晶と化した。やはり、元々人でも不死者となれば結晶化するということか。


「しかし、この剣、よく切れるわね」

「うん、業物ってわけではないけど、正規軍特注のサーベルだからね。一般的な市販品と比べれば、切れ味も耐久性もいいと思う」

「そうなの。確かに、ガランゼウスよりいいわ」


 ガランゼウスよりいいのか、いやガランゼウスがやっぱり言うほどたいしたことないのか。ただ、一度は強そうと思ったせいで、謎にガランゼウスに共感してしまっている自分としては、軍の支給品のほうがより良いとか言われている現実に謎に悲しみを覚えてしまった。


「……アラン君、来るの遅かったですね」


 そう、後ろから声を掛けられる。振り向くと、壁を背にこちらを見ているクラウが居た。


「悪いな、ちょっと大宇宙の意志と交信してたんだ」

「はぁ……良く分かりませんが。それよりも、レヴナントの気配、感じ取れました?」

「あぁ、階段を降り初めてすぐ感じ取れた。問題なく索敵できると思う。それで、この通路には、もう他に敵は居ないな」

「そうですか……凄いですね」


 そう言うクラウは、心底感嘆するような表情でこちらを見ている。 


「凄いのか?」

「はい。索敵って、敵の呼吸や臭いなどからするものだって聞いてます。まぁ、ゾンビ系は臭いもありますが……ともかく、不死者相手は索敵ってしにくいって聞いていたので」

「うーん、そうなのか……」

 

 思い返してみれば、索敵中に呼吸も臭いも拾っているが、一番注力しているのは――。


「……空気の流れかな」

「はっ?」

「何か存在してれば、空気が広がらず、音が跳ね返ってくるだろ?」

「それ、感じれるんです?」

「……確かに、我ながらなかなか気持ち悪いな」


 超音波でモノとの距離を測る蝙蝠みたいな索敵を気付かぬうちにしていた自分に対して、謎に気持ち悪さを覚えてしまう。


「いや、他にも殺気とか、視線とか、音の反響とか、そういうのも加味しているな」

「うん、余計に訳が分からないので、もういいです。少なくとも、アラン君の敵を感じ取るスキルは超一級品っていうのは良く分かりました」


 半ば気持ち悪いものを見るかのような目で、クラウは一歩、二歩と後ずさりした。


「……さて、入口までの案内にはなったけれど、この地図もう役に立たないかしらね」


 横からエルの言葉が聞こえてきて、今度はそちらへと向き直る。


「うん? なんでだ?」

「ここ、本来なら突き当りに階段があるはずなの。でも……」


 エルが親指で指さした方向は、本来なら壁があるべき方角だった。しかし、そこには石壁が崩れた後、何者かが簡易に舗装した道が続いている。


「……恐らく、魔族は向こうから侵入してきているんでしょう」

「なるほど……ここを塞げば、とりあえず今以上に街のほうに魔族を入れることはないわけか?」

 

 我ながらナイスアイディアとも思ったが、エルの向こうでソフィアが首を振った。


「うぅん、アランさん。魔族の侵入を防ぐ壁となると、厚さはかなり必要になるよ。魔術で崩落させてもいいけど、街方面にまで悪影響が出るとも限らないし……何より、侵入経路がここだけと決まったわけじゃない。ひとまず、中の調査が優先だと思う」

「あぁ、ソフィアの言う通りだな……それじゃあ、行くか……!?」


 最後、自分の語尾が上がったのは、壁の向こうから迫る気配を感じたからである。そしてその一番近くにはクラウが居る。


「おい、クラウ、壁から来るぞ、気をつけろ!」

「ほほぅ、それでは肩慣らしに……!」


 そう言いながら、クラウは腕を上げる。自身に補助魔法を使う気だろう。しかし、何事も起こらない。


「あれ、もしもし、レム神様? おーい?」

 

 そう言えば、先ほどレムが目が届かないと言っていたか、そのせいで神聖魔法も使えないのかもしれない。壁がドン、ドンと叩かれ、その音の大きさに比例してクラウも急激に顔もどんどん青ざめて行っている。


「お……お助けぇ!」


 最後、若干涙目になって壁から離れた瞬間、煉瓦が瓦解して奥から赤い骨の不死者が一体現れる。骨の持つ刃の掛けた剣が振り下ろされるよりも早く、自分は袖に隠している短刀を投擲し、それは不死者の頭蓋にそのまま直撃した。アンデッド相手に致命傷にはならなかったが、それでも敵から見たら目の前にいるクラウから少し気を逸らすことに成功する。


「……ふっ!」


 そして、直後にエルが抜刀とともに相手の剣を持つ腕を薙ぎ払い、骨の腕が宙を待っているうちに、返す刃で脳天から一刀のもとに骸骨兵を両断した。


「ふぅ……クラウ、大丈夫?」

「えぇっと、体は大丈夫なんですけど……魔法のほうは、怪しいと言いますか……?」


 目線をクラウのほうに戻すと、逃げる際にこけたのか、クラウは床の上でへたっている。そして、その向こう側で、ソフィアが壁をじっくりと見つめているようだった。


「……よく見ると、壁に何か呪術式のようなものが刻まれているね。これのせいで、神の加護が届かないのかもしれない」

「がーん!? 不死者相手とか、聖職者の見せ場なのに!?」


 クラウは大げさに頭を抱えながら叫んだ。


「でもお前、別に体術も結構いけるんじゃ?」

「そ、それは、そうですけどぉ……!」


 緑が頭を抱えているうちに、骨が崩れてきた壁の向こうから何者かが接近してきている気配を感じる。エルに見せるように暗闇の奥を指差すと、数秒後に体表の赤い、腐敗した徘徊者が、その朽ちた体に似合わぬ速度で接近してきた。


「そもそも、あのぬめぬめしてるヤツ相手に、素手で立ち向かえと!?」

「あー……それは確かに、キツいかもなぁ」


 クラウだって女の子なのだ。トンファーなんてほぼ素手に近い、しかも身体強化もないのに、アレと戦うのははばかられるだろう。エルが敵の首を一撃で切り払った後、ソフィアが「アランさん、アレがレヴナントだよ!」とかちょっと呑気な声が通路に響いて後、クラウはうなだれながら立ち上がった。


「ふぅ……こうなったら、アイテム係に徹するしかありませんかねぇ」


 それに対し、剣を鞘に収めながらエルが反応する。


「いえ、魔法が使えない状態で、あまり深入りしないほうがいいかもしれない……どうする、ソフィア?」

「……そうだね、クラウさんが神聖魔法を使えないのは、戦力ダウンはもちろん、不死者や悪魔に対して主導権を失うかも……。

 でも、恐らく時間はない。昨日の襲撃を考えれば、早くて今晩、遅くても明日の夜にはレヴァルの街が襲撃されるかもしれない。だから、調査だけでも進めたいのが本音だね」


 そこまで聞いて、何となくだが疑問が浮かんだ。ここは日も当たらないから不死者が徘徊していてもおかしくないとして、そもそも不死者も魔法で動いているのではないか?


「なぁソフィア、印象の話なんだが。不死者も僧侶系統の魔法で動かされてたりするんじゃないのか?」

「うん、全部が全部じゃないけれど、アランさんの言う通り。ゾンビや吸血鬼の眷属は細胞の変化だけれど、スケルトンなんかは魔法で動いてるケースが多いね。さっき動いてるスケルトンが居たことを考えると、この術式は多分レム神など一部の神の加護を阻害しているんじゃないかな」

「なるほど……それこそ、邪神の加護は、この中にもあるってことか」

「恐らく、そういう事だと思う……それで、クラウさん。進んでも大丈夫そう?」


 ソフィアが聞くと、クラウは頷き返す。


「はい、さっきも言ったように、基本的にアイテム係に専念します。回復薬はありますけど、あくまでも止血と基礎代謝を上げる程度の効果なので、回復魔法ほどの治療は見込めません。だから、無茶しないでくださいね?」


 そう言いながら、クラウは俺を見てきた。


「どうしてそこで俺を見る?」

「無茶が服着て歩いてるような人ですからねぇ……でも、ホントに無茶しないでください?」

「あぁ……」


 返答した後、一瞬思ったことがある。加護が違うのなら、ティアなら魔法が使える可能性があるのではないか――しかし、それは多分クラウも考えているだろう。それを敢えて言ってこないのは、何某か理由があるに違いない。それなら、敢えて言う事もないか。どの道、邪神以外の全ての加護が無効化されていると考えるのが普通だろうし、それならティアも魔法が使えない可能性は高いのだから。


「……クラウこそ、お化け相手にちびるんじゃないぞ?」

「むっ、アラン君こそ、ゾンビパニックでひよって逃げ出さないでくださいよ!?」

「さっき涙目になりながら、お助けぇってなってたやつのいう事か?」

「アレはアンデッドが怖かったんじゃなくて、魔法が使えなくて焦ったんですー!!」


 クラウが手をぶんぶんと振っているのを傍目に、俺はエルと並んだ。


「さて、それじゃあ俺とエルが先導、少し離れてソフィアとクラウが追従、エルと俺で対処できない数の敵が出たら、ソフィアも加勢。クラウはアイテムでサポートに専念……こんな感じか?」

「えぇ、それでいきましょう。ソフィアは、別に独自の判断で動いてくれて構わないわ。敵の数が少なくても、状況によっては魔術を撃った方が良いケースもあるでしょうし」

「うん、了解だよ。それじゃあ、進もうか」


 ソフィアは返事をしてから、右手の指で俺とエルの間をさした。すると、灯りの魔法がちょうど、自分たちの少し前を先導する形になる。


「アランさん、光源の強さは私に言ってくれれば変えられるから」

「あぁ、了解だ」


 しばらく、通路を道なりに進む。ここは元々、最後に城壁の外に出るための避難経路のようで、道は一本、とくに迷う要素もない。敵も、最初の階段の所に居たのは見張りのようなものだったのだろう、移行はしばらく何者にも接敵せずに進めている。



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