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2-18:魔族と魔王軍について 下

「……もしかすると、レヴァルの地下に居る可能性があるかもしれない」

「でも、タルタロスの専門は魔術ですよね? 結界を弱めていたことと整合性が取れなくないですか?」

「ネストリウスが指揮していた不死者の軍団は、タルタロスの配下になったと聞いているよ。恐らく、昨日のヴァンパイアロードも今はタルタロスの配下。不死者の中には闇魔法の使い手も居るから、タルタロスが指揮していたと考えれば辻褄があってくる。

 それに、高位の悪魔は邪神ティグリスとも近い関係にあるはずだから、自身が結界を弱められてもおかしくはないね」


 先ほどから、邪神ティグリスという名前がよく出てくる。それに、最悪の場合、自分が魔将軍と戦わなければならない可能性も出てきているのだが――果たして、勝てるのだろうか。というより、三人の少女たちの役に立つのだろうか。ティグリスも気になるが、優先度が高いのは目先のことだろう、ソフィアに尋ねてみることにする。


「なぁ……もちろん、どれだけの強さかは未知数だと思うんだが、果たして俺たちで……俺たち四人で、魔将軍と戦えるのか?」


 こちらの疑問に、少女は杖を握る仕草を見せ、強い笑顔を浮かべる。


「あまり楽観視は出来ないけれど、私たちなら立ち向かえると思うよ。魔王は聖剣によってしか傷つけられないから勇者様しか対抗できないけれど、魔将軍は言ってみれば、最高位の魔族というだけ……私たちでも討伐することは出来る。

 元々今回、私が皆を誘ったのは、魔将軍レベルの魔族が出てきたときに、それと対抗できるようにするため。エルさんとクラウさんは、人類最高クラスの実力を持っている。だから、きっと対抗できるよ」


 その通り、だがそれは少女たち三人のことを言っているのであって、自分は含まれていない――こちらの不安を感じ取ったのだろう、エルとクラウもこちらに笑顔を向けてくれていた。


「逆に、私たちが余力を残して置かないと、魔将軍には遅れをとるかもしれない。地下通路は迷宮になっているから、無駄な戦闘を避けるのはかなり重要なことよ」

「そうですよ、頼りにしてますよ、アラン君!」

「あぁ、そうだな……皆が力を温存できるよう、頑張るよ」


 なんとか笑顔をこちらも作って返すと、ソフィアとクラウが「おー」と握りこぶしを上げてくれた。さて、まだまだ聞きたいことはたくさんある。よくよく考えてみれば、魔王のことも細かくは聞いていないし、邪神とやらもなんだか気になる。


 しかし、先導のエルがその足を止める。場所は、堀から少し離れた場所にある岩場で、確かに高さが十メートル以上は優にありそうな城壁の上からだと、夜なら死角になりそうな場所である。


「……ここね」


 エルが地面の砂を足で払うと、鉄の板のようなものが姿を表す。そして彼女がそのまま鉄の板を持ち上げると、人一人通れる、という狭さではあるものの、確かに石段がそこにあった。ここが、地下通路の入口か、気を引き締めなければならない。


「地図を見る限り……この地図が、今の構造をそのまま表しているかは分からないけれど……ひとまず、降りれば少し通路は広くなりそう。まずは私が先頭に立つから、皆は着いて来て。広くなったら、私とアランが先導していきましょう」

「あぁ、分かったが……松明とか使うか?」


 一応質問したものの、自分にはその準備はない。そこに、ソフィアが割って入ってきた。


「簡単な灯りの魔術があるから、それを松明代わりにしよう。松明だと明かりが強すぎて、敵にバレちゃうかもしれないから」

「しかし、魔術は弾数に限りがあるだろ? 大丈夫か?」

「灯りの術は第一階層の魔術だから、暗黒大陸レベルの魔族相手にはもてあますことが多いんだ。それに、一発で一時間程度は持つし、ある程度私の意志で明かりの強弱もつけられるよ」

「何それめっちゃ便利。それならソフィア、任せた」

「うん、任された! ……ライト!」


 少女がレバーを押し込んで杖を振ると、小さなビー玉サイズの球体が現れる。それが階段の少し先を行くと、確かに石段が十段奥までは見えるほどの明かりになっている。今まで攻撃の魔術ばかり見ていたせいで感覚が薄れていたが、魔術にはこういう便利な使い方もある訳だ。よくよく、十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないとか言うが、ある意味では魔術こそがこの世界における科学なのだろうし、それは一部の特権階級しか享受できていないからこそ中世風の時代が長く続いているのかもしれない。


 考え事をしているうちに、いつの間にかエルとソフィアは既に階段を降りて行っているようで、クラウが地下に足を踏み入れ始めていた。こちらも遅れるわけにはいかないと、少女たちを追うために小走りで階段に近づく。


 そして今まさに階段を降りようとしたタイミングで、唐突に頭に痛みが走る。この感覚は――。


『……連日の介入すいません、アランさん、聞こえますか?』

『……レムか。すまん、今ちょっと忙しいんだ。いろいろ聞きたいのは山々なんだが、後に……』

『いえ、ちょっと警告ですので聞いてください。その先は、どうやら神の目を阻害する結界が張られているようです……そのため、私の力が地下空間まで届きません』

『えぇっと、それってまずいのか?』

『端的に言えば、地下で大きなケガを負わないよう注意して欲しいのです。アナタの不死性は、私がその肉体に魂を定着させていることが由来です。

 もし私の力が干渉できないような場所でアナタが死ぬようなケガを負ってしまった場合、その魂は行き場を失い、そのまま霧散します』


 それを聞いても、あまりピンとは来ない。もちろん、その不死性とやらはソフィアを龍から助けた時には活用した能力ではあるのだが、別に好きで大怪我したいわけでもないし、またする前提で動く奴もいないだろう。


 とはいえ、保険が無いと考えれば確かに危うい――自分は戦う力が弱い分、多少は打たれ強さでカバーできていた部分もあるように思う。そのうえ、ここには魔将軍とかいう強敵がいるかもしれないのだ、そう考えれば確かに危険だし、自分はこの先にまでは足を踏み入れないほうが良いのかもしれない。


『……でもまぁ、行くよ』

『何故ですか? 別に、アナタに危険を侵す義務はありませんよ?』

『この前も言っただろ? 彼女たちが心配なんだ……それに、今回は頼りにしてもらってるからな。可愛い子たちに格好悪いところは見せられないだろ?』

『はぁ……まぁ、別に止めはしません。というか、言って聞く人でないことも知ってます。ただ、いつも以上には慎重にいてくださいね』

『あぁ、ありがとうレム。忠告は受け取った』

『はい、それでは頑張ってくださいね、アランさん』


 そこで女神の声が途切れる。俺は改めて空を一瞥する。今日は曇天、あまり良い雰囲気ではない――しばし地上とお別れする餞別に、外の空気を大きく吸い込む。


「……よし、行くか」


 誰に対してごちったわけでもない、ただなんとなく、自分に言い聞かせ――これが地獄への入口にならなきゃいいが、そう思いながら足元の暗闇に足を踏み入れた。

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