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10-48:出動前の一幕 上

「……この前、姉妹を助けたのはなんでか、ですって?」

「あぁ、今更ながらに聞いてみたくってな」

「さぁ、どうしてだったかしら。ちょっと待ってね、あの時は確か……アナタと喧嘩をして飛び立った後、街で急に爆発が起こって……」


 グロリアは会話をしながらも、手際よく洗濯ものを干し続けている。洗濯物に手を伸ばそうとすると少女に手を叩かれるので、オリジナルも諦めて近くの木を背に少女を見守っていた。


「そう、あの時はね、あの爆発が私を狙ったものなんじゃないかと思って、慌てて下へと降りたの。それで、ともかく見つからないように路地に入って……ただ、私は土地勘もない訳でしょう? 迷路のような裏路地を迷っている間に、パニックを起こしている女の子とすれ違ったの。

 あまり人の心配をしている場合でも無いかと思いもしたけれど、妹を助けてって叫んでいるのを聞いて……それで、いてもたってもいられなくなって」


 そこまで言ったタイミングで洗濯ものを干し終わり、グロリアは背後で木を背に腕を組んでいるオリジナルの方へと振り返った。


「私、小さいころね、下の子が欲しかったのよ。妹でも弟でも良かったけれど……どちらかと言えば妹が良かったわね。この国に来る前も、ママもパパも二人とも家にはほとんどいなかったから……多分、寂しかったんだと思うわ」


 つまり、彼女は妹を助け出したいという姉の行動に胸を打たれて、妹の救出のために一肌脱いだわけだ。そして恐らく、現場へ向かう先で何も知らないリーゼロッテに見つかってしまって捕まっていたというのが事の真相らしい。


 しかし、彼女の行動はあまりにも甲斐甲斐しいと思う。彼女自身は一人っ子であり、妹を大切にするべきというのはグロリアの創造の産物でしかないはずだ。そんな中、見ず知らずの相手に共感して救出に向かったというのは、確かに少女の中に人を思いやる優しさがあることの証左であるように感じられる。


 オリジナルも自分と同じように考えているのだろう、仮面で表情こそ分からないが、腕を組みながら何やら感じ入っているような雰囲気を醸し出している。


「今更かもしれないが……兄じゃダメか?」


 なるほど、オリジナルの提案は妙案かもしれない。恐らくだが、グロリアに家族のことを思い出させてしまったフォローと、自身に妹がいるから扱いには慣れているという判断の二軸から出された、自分が兄の代わりになれないかという提案をしたのだ。


 そんな風に自分がオリジナルの意見に感心している一方で、グロリアの方はお気に召さなかったのか、コンテナハウスの窓に背中を向けたまま腰に手を当てて低い声で話し出す。


「あのね、後から上の子が出来るなんてあり得ないでしょう? そんなくだらないことを二度と私の前で言わないで」

「お、おぉ……その、ごめんなさい」


 少女の静かな剣幕に対して原初の虎は背を丸め、小さくなって頭を垂らした。対する少女はしばらく怒りのオーラを噴出させていたが、委縮しているオリジナルの所作が面白かったのか、態度を軟化させて小さく笑い声をもらした。


「家族のことを思い出させて申し訳なく思ってくれたんでしょう? 大丈夫よ……それなりに心の整理はしたつもりだから。それに、今は寂しくない。心配はいらないわ」

「……そうか」

「逆に、今度は私から質問したいわね。実際に妹が居るって、どんな感じなものなの?」

「あれ、妹が居るって話したことあったか?」

「あ、えっと、その……べスターから聞いたの」


 勝手に人の過去を聞いてしまったことを気まずく思ったのか、先ほどまでの威勢は鳴りを潜め、今度はグロリアの方が委縮してしまったようだ。対してオリジナルは、縮こまるグロリアを安心させるように「気にするなよ」と言って笑った。

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