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10-46:歴代のアンドロイドについて 上

「それからというもの、コンテナハウスの家事はグロリアが積極的に行うようになってくれた。オレ達は家事用のアンドロイドを活用できなかったから、生活に関することは自分たちでやらなくちゃならなかったし、グロリアはよくやってくれたよ」


 画面外のべスターは、ブラウン管の中であくせくと動き回るグロリアを見ながら煙を吐いた。働いているグロリアを見て申し訳なかったのか、それとも煙草の臭いを注意されるのが身に染みているせいなのか、煙をブラウン管の方でなく脇の方に吐き出しているのが少々面白かった。


「なるほど、しかしグロリアもなかなか苦戦しているようだな」

「いや、あぁ見えて掃除と洗濯は最初から問題なくできていた……あの子は鳥かごで家政婦アンドロイド無しで生活していたから、最低限のことはできたんだ。苦手だったのは料理関係くらいだが、それもすぐに上達した。

 とはいえ、最新の家電なんかはDAPA製だからな、一昔前の道具を使わざるを得なかった分は苦労していたし、何せ文字通り箱入りのお嬢様だったわけだから、最初の内は体力もなく、すぐにへばっていた……ベティの苦労が身に染みるとごちていたよ」

「ベティって言うのは? 確か、出会った時にも言っていたよな」

「あぁ、グロリアの世話をしてくれていた第二世代型アンドロイドらしい。彼女が生まれた頃には第四世代が出来上がっていたはずだが、グロリアは旧型の方を好んだようだ」


 ちなみに、第四世代までのアンドロイドに関しては自分も知識がある。第一世代に関しては、暗所や高高度など有人での作業の難しい、または危険の伴う労働力として生産されていた。第一のアンドロイドであるといってもバージョンアップを繰り返しており、また繊細な任務を遂行するだけの強度と複雑なAIを搭載しているため、主に企業向けで高価であったのが特徴である。


 第二世代は第一世代よりは安価な家政婦ロボットと言うべき存在で、主に家事や子守、介護など人の生活を手助けする目的で作られていた。とくに家事に関しては自動の家電が発達しており、アンドロイドが出回るだけの市場は少子高齢化している国が多かったので、第二世代の仕事は専ら介護だった。また、第二世代は個人でも購入できるよう安価なセラミックボディタイプの流通が多かったものの、機械に世話をされたくないという人の生理的な欲求に応えるため、一部高価なシリコンボディの人に近い個体も販売されていた。ちなみに、べディは古き良きセラミックボディタイプであったようだ。


 第三世代は陸での戦闘活動をメインに行った戦闘用のアンドロイドだ。第三世代により大戦前期がマネーゲームになったという負の側面があり、また「高度なAIを搭載する彼らに戦争を代行してもらうことはアンドロイドの人権を侵害している」という厭戦的な世論を高める切っ掛けになった機種でもある。そう言った世論は持たざる国の情報戦略の一環でもあったのだろが、第二世代から広く社会に浸透していたアンドロイドを戦わせることに抵抗感のある人が多かったのも事実であり、こういった世論が戦争終結に一役買った側面もあるのは間違いない。


 終戦に伴い、アンドロイドを生産する企業は――主にアシモフ・ロボテクスカンパニーの寡占状態にあった訳だが――戦闘機能を持つアンドロイドの生産を中止し、第一と第二の機能を兼ね揃えた第四世代型が生産されるようになった。とくに技術革新により――危険な現場での作業をする機体を除き――人と瓜二つな外見を持つシリコンボディタイプが安価で広く流通したのだ。


 ところで、古典的なSF作品に見られるような人とアンドロイドとの恋というものは、第二世代型ならびに第四世代型との間で起こったとも言えるし、起こらなかったとも言える。もし恋というものが双方の同意と感情の共有が必要になると定義するのであるならば、起こらなかったと断言するほうが近いのかもしれない。


 アンドロイドは献身的であり、ある意味では人類に対してある種無限の愛情を持っていたとも言えなくはない。とはいえ、それは三原則を前提とした――強制されていると言ってもいい――愛情であり、アンドロイドの自発性から人に対して親愛を抱いていたいたかと言われれば、そこには疑問が残る。


 対する人間の側は、古くから人形を愛するのと同じように――時にはそれ以上の感覚で――アンドロイドに対して自発的に親愛の情を注ぐ者も一部には存在したようだ。とはいえ、そのケースにおいても一時的な感情内に収まることが多かったはずである。というのも、アンドロイドは金で買える製品である以上、この新たな人類の隣人は行動をプログラムによって制御されており、同時に自動学習によって行動を最適化していき、最終的には意外性のないルーティンに落ち着いていくため、人の側の愛情も冷めていくのが一般的だった。もちろん、時に偏狂的にアンドロイドに一方的な愛を注ぐ者が存在したのも間違いないのだが。


 こんなことを言い出すと、そもそも人の感情が高等であるというようなことが錯覚なのであり、結局は生理学的な欲求に基づく脳の働きであるとか、またアンドロイドにも人権があり、パートナーを選べないことが不遇である云々という論争が巻き起こったこともあるのだが――ともかく、規格の違う人とアンドロイドの間には、やはり見えない境界線が引かれていたのは間違いのないことだった。

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