10-43:深夜のコンテナハウスにて 上
街中でテロのあった帰り道、オリジナルはトラックのコンテナに乗り、グロリアはべスターの隣に座っていた。グロリアは助手席ですすり泣き続け、べスターが声をかけても黙りこくっており――しかし同時に大人しくもしており、一応は基地に戻る意思はありそうではあった。
基地に戻ったあと、グロリアは夕食にも顔を出さずに自室に引きこもった。その間、べスターは戦闘や火事現場で消耗したオリジナルの身体の修理をし、今日はゆっくりと休むように言いつけ、しっかりと一服をしてからコンテナハウスへと戻った。
べスターがコンテナハウスの扉を開くと、中は真っ暗だった。デジタル時計の数字は、すでに日を跨いでいることを示している。普段ならソファーで眠っている右京の姿もその日はなかった。恐らく、その場の空気に耐えられず――本人の言っていたよう、グロリアとどう接すればいいか分からないので、今日は外のどこかで時間を過ごしているに違いなかった。
男は冷蔵庫の中から缶ビールを取り出し、暗いままのリビングの中でそれを飲み始めた。この男が無類の愛煙家であることは疑いようのない事実だが、酒を飲んでいるところは初めて見た気がする。冷蔵庫に常備しているということは、映像に映っていなかっただけで案外飲むのかもしれない。
一本目をハイペースで飲み切り、もう二本の缶を冷蔵庫から取り出してソファーに戻ったタイミングで個室の扉が開いた。扉の先も真っ暗だが――リビング内に点灯する僅かな家電の明かりのおかげで、扉の位置にグロリアが立っているのはおぼろげながらに見えた。
「よう、お前も飲むか?」
「馬鹿、どうせ飲ませてくれないくせに」
「そうだな。冗談だ」
「まったく、笑いどころが分からないわ……ここに居る大人たちは皆そう。何かを誤魔化す様につまらないジョークを言うの」
声こそ掠れているものの皮肉を返している調子から見るに、グロリアも大分気分も落ち着いたようだった。少女は扉から離れて移動し、男の対面へと腰かけた。そしてしばらく無言のまま俯き――少ししてから意を決したように顔を上げた。
「ねぇべスター。アランはなんでパパを殺したの?」
「それは……」
「極秘だ、なんて卑怯な言い訳は止めてよね。どうせ、私の存在だって極秘なんだし……アナタが言ってくれるまではしつこく質問し続けるわよ。それに……今だけは、ここで煙草を吸っても良いわよ」
べスターは真剣な話をする時ほど、煙草に頼る癖がある。グロリアは短い共同生活の中で、それを察していたのだろう。男は一瞬胸ポケットに手を伸ばしたが、ため息を一つ吐きながら取り出しかけていたものを押し込み、姿勢を正して少女の方へと向き直った。
「一言で言えば、それがアイツのミッションだったからだ。オレ達とDAPAが敵対関係にあり、オレ達のボスがローレンス・アシモフを暗殺するように命令を出したから、オレ達はお前のパパを殺した。
そういう意味では、お前の親父を殺したのは個人じゃないんだ。お前の言うつまらないジョークを言う悪い大人たちが、雁首揃えて計画して、お前のパパを暗殺した……オレ達のボスが命令を出し、オレがアイツを調整して現地に送り出して、アイツが実行した。だから……」
「アナタはこう言いたいんでしょう? アランだけが悪い訳じゃないって……うぅん、むしろアランが悪い訳じゃないんだって」
「あぁ、その通りだ。世の中ってもんは悪いことをしたやつより、悪いことを考えたやつの方が罪が重い。兵士は戦争について責任を負わない……戦いの責任は、いつだって争いを始めたやつにこそある。そういう意味じゃ、アランだって犠牲者だよ」
「偉い人って卑怯よね。自分がやりたくないようなことを誰かにやらせて、自分は安全な場所でふんぞり返っているんだもの……でも、私が聞きたいのはそういうことじゃないわ。どうしてアラン・スミスはそんな悪い奴の言いなりになっているのかって、それを知りたいの」
少女の真剣なまなざしから逃れられなかったのか、男はまた小さくため息を吐き、「他言無用だぞ」と断りを入れてからオリジナルの身の上話を始めた。事故のこと、改造手術のこと、妹のこと――煙草の吸えない口寂しさを補うためか、話が終わるころには三本目の缶ビールが空になっていた。
暗殺者の真実を聞き終わって、少女は「そう……」と小さく漏らした。泣きじゃくって張れてしまった目元には、疑問が解消されてさっぱりしたというような雰囲気はなく――新たに生じた疑問を解消するためか、改めて真っすぐに、背筋を伸ばして口を開いた。
「あのね、べスター。私が知りたかったのは、どうやらそれではなかったみたい。もちろん、今のも聞けて良かった……なんていうのも違うかもしれないけれど、でも私が知りたいのは……そうね、あの人はなぜ殺しなんかをする一方で、誰かのために精一杯なのか……それが知りたかったのかもしれない」
「オレはアイツじゃないからな。あくまでもオレから見たアイツの考えで構わないか?」
「えぇ、構わないわ」
べスターは冷蔵庫から四本目と五本目を取り出して、ビールを自分の前に、もう一つ缶コーヒーを少女の前に置いて座った。喉が乾いていたのだろう、グロリアも目の前の缶を開けて口に運ぶが、苦かったらしく渋い表情を浮かべて机の上に戻していた。
男はその様子を見て小さく笑い、少女に睨まれたのをビールをあおりながらいなした。




