10-38:共同生活の始まり 中
さて、右京と合流した後の顛末は以下のようなものであったらしい。右京の言う通りに廃墟内で夜が更けるのを待ち、その後はべスターのトラックでグロリアと右京と共に基地へと帰投した。
右京に関しては、そこから二課の正式な協力者となった。正式な配属にならなかったのは、偏に彼が組織に所属するのを嫌うからだった。秘密組織が機密を知る者を自由にしておくのには違和感もあったが――。
「後から知ったが……その辺りは、アイツが一部のお偉いさんの弱みを握って上手くやっていたらしいな」
要するに、バラされたくない情報と引き換えに交渉したということなのだろう。とはいえ、名目上はDAPAからの保護という名目でACOを頼ってきたのであり、右京も基本的には基地内で生活をしていたとのこと。同時に、正式な所属でないので、頻繁に外にも出ている姿も目撃されていたらしい。
「しかし、普段は別行動を取っているせいで、アイツの暗躍に気付けなかったんだが……それはおいおい話そう」
グロリアの処遇に関しては、かなり厳重な稟議が行われたらしい。というのも、敵側要人の子息を拉致してきたのであり、その扱いは慎重に行う必要があるのは当然のことだった。同時に、表向きには行方不明者となっていたのであり、DAPA側は逃亡するグロリアを回収するのではなく、消す様な動きを取っていた――そうなると、彼女の存在を世に出したくないという思惑があるがあったに違いない。その証拠として、DAPA側からグロリアを返す様にという要望は終ぞなかったとのことだ。
ACO側も秘密組織であり、グロリア・アシモフの存在を公にすることもできない。そうなれば、出来ることと言えば保護くらいであり――もちろん超能力の解明に人体実験をしたいという意見もあったようだが、組織内で虎しかミッションをこなせないということを材料に発言力を高めていたべスターの交渉により、その邪悪な目論みの回避はできた。
最終的には、グロリアは飛行能力を与えたという物体の情報提供をするだけで――とはいえ、彼女にはそれが何であるかは分からなかったのであり、簡単な説明をするしか出来なかったわけだが――あとは彼女自身の強い要望により、オリジナルとべスターが面倒を見ることになったということだった。
そしてオリジナルが失った腕を修理した後は、グロリアとの共同生活の映像が流れ始めた。今までは地下の一角を利用していたのに対し、二課は今までの功績が認められて追加でもう何室か利用できるようになったらしい。
そのうち、地上のコンテナの一室はべスターの、もう一室はグロリアの私室となり、キッチンや水回りのある部屋がリビングとして活用されるようになった。一般的な通信はDAPAに傍受される可能性があるので、ネットやテレビなどは使えない一世紀以上前の生活ではあったのもの、グロリアは軟禁生活でネットのない生活に慣れていたため、とくに文句も出なかったようだ。
また、リビングでは禁煙をグロリアから言い渡され、今まで通り地下の研究室を私室にしていたオリジナルの元に退避するようにべスターは煙草を吸いに来ていた。そのため、べスターの私室として明け渡された部屋は寝るときくらいにしか活用されず、普段は頻繁にくる右京が利用するケースが多かったらしい。
せっかく自由になったのだからと、グロリアは外に出たがることが多かった。とはいえ、一人で居る所を監視カメラに映すと問題が起きることが想定されるので、外出するならべスターの同伴が必須とされた。それも、基本的には車の外に出ないようにすることと、必ず帽子を被って監視カメラに顔を見せないようになどの条件をつけられた。
しかしグロリアは、外に出るならばオリジナルと一緒に出たいと駄々をこねたらしい。初めて一緒に外を歩いた時には路地裏ばかりで楽しくもなかったし、今度は楽しい所に連れて言って欲しいと――しかし、存在が機密であるオリジナルはミッション以外で基地の外に出ることも叶わないことを伝えると、彼女はしぶしぶながら読書にふけるようになった。
そんな生活を続けて数日して、オリジナルからべスターにとある相談が持ちかけられたらしい。おりしも深夜でグロリアが眠っているタイミングで、ちょうどその時には右京も尋ねてきている時だったようだ。
「……自分が父を殺したという事実を、グロリアに伝えるかどうか滅茶苦茶に悩んでいると。オレと右京は、言ったところでどうにもならないし、面倒になるだけなのだから止めておけといったのだが……」
べスターの視線に誘導されるよう、自分もブラウン管に視線を戻す。そこには、コンテナハウスに戻ろうとしている所で勢いよく扉が開け放たれ、そこからグロリアが飛びだしていく所が映し出されていた。




