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10-32:運命の抵抗者 中

「君を招いたのは他でもない、スカウトのためだ」

「はぁ? 正気か?」

「あぁ、正気だとも……君はこんな風に考えている。組織の幹部を暗殺して周った自分をスカウトするなどあり得ないと。だが、私から言わせてもらえば、君がターゲットにしたのは社歴だけ長くて融通の利かない、しかし無駄に政治だけは上手くしぶとく生き残っている、取るに足らない存在だった。

 何より、暗殺されるなど自己管理が出来ていない証拠だ。むしろ人員整理が出来て感謝しているくらいだよ」


 そこでクラークは手元の端末を操作し、宙に浮かんでいるスクリーンをスワイプしながら眺めながら話を続ける。


「君の経歴に合致しそうな者をくまなく探してみたのだが……軍人、警察関係者、裏社会の者など、いずれも合致するものは無かった。我々からしてみたら、君は本当に急に現れた正体不明の猛獣だよ。

 だが、それ故に興味がある。第五世代型を感知する未知の能力と、ここまで潜入できるその技術の持ち主は、是非とも手元に置いておきたい」


 偉丈夫が指を横に流すと、彼の手元に浮かんでいたスクリーンが消え――デイビット・クラークは再びカメラを見つめて、歳のわりに並びの良い白い歯を見せながら不敵に笑った。


「資本主義はいいぞ、単純明快だ。もちろん、ACOを裏切ることになれば、危険も伴うだろうが……君の体に仕込まれているであろう危険物質を取り除くことにも協力するし、今以上の報酬を出すと約束しよう。

 それに、宮仕えというのは、不必要になれば君自身が消されかねないリスクもある訳だ。対して企業に所属すれば、成果を出し続ける限り首をきられることもない。そして君には、それだけの実力があると確信している」

「魅力的な提案だな……だが、人をスカウトしようってなら敬意が必要じゃないか? 星の反対側で偉そうにふんぞり返ってる奴の言うことを聞く気はないね」

「それなら、直接出向けば良いのかな?」

「あぁ、出来るもんならな」


 偉丈夫は不敵に「成程」と頷くと、スクリーンから忽然と姿を消した。そこで一瞬、虎のアイカメラが動揺したように一瞬揺れ――画面が一気に切り替わると、アラン・スミスが振りかぶった高周波ブレードをデイビット・クラークが指で掴んで止めているのが映し出された。


「なっ……!?」

「ははは! 素晴らしい、どんな気配にも敏感なようだな、君は!」


 異常な事態に体制を立て直そうとしたのか、アラン・スミスは偉丈夫に握られているナイフを手放して後ろへと跳んだ。それに合わせてクラークの姿もまた忽然と消え――同時に第五世代達がアラン・スミスを狙いなおすために銃を構えなおす音が聞こえた。


 そして再びスピーカーから「さて」という声が響くと、いつの間にかクラークは元居た椅子の上で虎から奪った高周波ブレードを眺めていた。


「本当は紳士的に挨拶をしようと思ったのだが、まさかこんな物で歓迎されるとは思っていなくてね。とんぼ返りで失礼するよ」

「……トリックに決まってる」

「まぁ、そう思うのは無理もないが……成程、カメラから忽然と消えるくらいは、君たちのハッカーと同じように映像を改竄すればいいだけだ。だが、君なら分かるはずだ。その室内に急に気配が一つ増え、そして今は無くなっているということを」


 不敵に笑うクラークに対し、アラン・スミスは押し黙ってしまう。画面外にいる自分には気配は分からないが、虎の沈黙こそが男の言っていることを事実だと証拠づけているように思われた。


 固唾を呑んで状況を見ていたべスターは、場の膠着状態を見て次第に冷静さを取り戻してきたのだろう、ヘッドフォンのマイクを口に近づけて「あり得ないと思うが……」と小さな声で切り出す。


「オレ達の常識を超えるような何かが存在していることは確からしい。実際、国際機関の中には念動力の使い手が居ると聞いているし、DAPAは超能力開発をしているというのも事実だ」

「まさか、本当に瞬間移動をしたってのか……?」


 返答するのに合わせて、オリジナルはスクリーンをじっと見つめる――そこに映っている男は持っていたブレードを後ろへと放り投げ、楽し気に眼を細めながら虎を見つめ返していた。


「さぁ、君が言った通りに直接出向いたぞ?」

「俺は敬意が足りないって言ったんだぜ」

「突然切りかかってきた君に言われる筋合いは無いと思うがね。しかし、今ので確信したよ。君の能力は素晴らしい……そして、敵対すれば私の最大の脅威になりうると」


 笑っていた男は組んでいる手で口元を隠し、今度は鋭い目つきで虎を見つめた。その眼光から見える意志の強さは、自分の知る中ではブラッドベリと匹敵するか、ある種それ以上のものだ。


 そして、同時に直感する――自分はこの男とは相容れないと。それは言語化できないただの感覚にしか過ぎないのだが、きっとオリジナルも同様に思っているはずだ。その証拠に、普通ならすくんでしまいそうな恐ろしい眼光に対し、虎は一歩も引かずに対峙しているのだから。

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