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10-31:運命の抵抗者 上

 取り囲んできたアンドロイドの数から鑑みれば、ADAMsを使えば切り抜けることは可能だろうが――アラン・スミスは抵抗を示さなかった。その理由は恐らく、アンドロイドの構える射線上にグロリアが居るからだろう。


「おい、これは何の冗談だ?」

「知らないわ! 私がやったんじゃない……そう、ママよ、ママがやったんだわ!」


 グロリアが半狂乱気味にそう叫ぶのに合わせ、天井のプロジェクターから光が部屋の壁に向けて照射され――そこには二人の人物が映し出されていた。左下に小さく映って神妙な表情を浮かべているのはファラ・アシモフ、そして画面の大部分を占有している男性が、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「ようこそ、タイガーマスク。そして始めまして……私のことは知っているかな?」

「デイビット・クラーク……」

「自己紹介の手間が省けられそうで良かったよ。さて、私のことだけ知られているというのは不公平だ。ぜひ君も自己紹介をしてくれないかね?」

「ご存じタイガーマスクだ。それ以上でもそれ以下でもないぜ」

「少なくとも相当肝は座っているようだ。まぁ、そうでなくては、こんな所に単身で潜入などしてこないか」


 デイビット・クラークは高そうな椅子に背を預け、楽しそうに手を数回叩き合わせた。彼の背後にある窓からは陽光が差し込んでいるのを見るに、彼が星の反対側にいるのは間違いなさそうだ。


 クラークはしばらくの間、品定めをするようにオリジナルを見つめ――対する虎は何も答えなかった。このままでは埒が明かないと判断したのだろう、クラークは身を乗り出して、机で頬杖をつきながら口を開いた。


「そのうち、君がアシモフ・ロボテクスカンパニーに乗り込んでくることは予想していたのだ。それ故、偽りの情報を流しておいたのだよ。この最上階の鳥かごが、アシモフ君の私室であるとね」

「なんでそんな回りくどいことをしたんだ?」

「こうやって、君とゆっくり話すためさ。さて……」

「……いや、待て。お前らはグロリアを幽閉しているこの場所に、敢えて俺をここに誘導したってことか?」


 もしオリジナルの質問の内容が真実だとすれば、事態はかなり悪辣と言わざるを得ないだろう。一言で言えば、布団を被って眠っていたグロリアは、虎にそのまま暗殺されてもおかしくなかったはずだ。そうなれば、子供を餌に――もちろん、元からここはグロリアの檻なのであり、ACOの調査不足という側面もあるのだが――虎を招き入れたというのは、いい大人達が画策するにはあまりに酷いやり方ように思われた。


 オリジナルもそう思ったのだろう、声にはどことなく怒りがある。虎の質問に対し、クラークよりも先に反応したのは人工の灯りの下にいるファラ・アシモフだった。とはいえ、何かを言ったわけではない――彼女は肩を揺らして目を伏せ、オリジナルと同じくモニターの方を見ているグロリアから眼を逸らしているようだった。


 そして娘と向き合うことを避けている母に変わって、クラークが「うむ」と頷いた。


「アシモフ君の了承は得ている。グロリアは確かに優秀な被検体だが……私から見ればその子が居るせいで、アシモフ君がのびのびと働けていない様に見えたからね。DAPAの総合的なパフォーマンスを考えれば、まぁそこで惨劇が起こることは問題ないと思っていた。

 そして君がグロリアとゆっくり話しているうちに、こうやって色々と準備が出来たというわけだが……」

「それなら、テメェらと話すことなんかないぜ」

「ははは、成程……射線上に居るグロリアの心配を、君が親に代わってしているというわけか。ちょうどいい、この状況は使わせてもらうよ」


 乾いた笑いを浮かべてからクラークが手を上げると、エレベーターの前に居る第五世代たちは射線にグロリアが確実に入るように移動し、改めて銃を構えなおした。それに対し、アラン・スミスは舌打ちをしながら両手を上げ、クラークは満足そうに頷いた。

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