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10-19:デイビット・クラークについて 中

「デイヴィット・クラークは、精力的な進歩主義者だった。同時に、ある種の苛烈な優生思想の持ち主でもあった。優生思想の持ち主と言っても、人種や信教を元に差別をする訳ではない……人は先天的な部分は選べないからな。むしろ彼が重視したのは後天的な部分であり、成長と進化を望み戦い続ける者を歓迎した」

「そんな奴が、人類の進歩を抑制したのか? 思想と行動が逆じゃないか」

「いいや、そんなことはない。言っただろう? 苛烈な優生思想の持ち主だと。逆に、自ら情報の精査もせず、世間の風潮に流され、自分を持たない者などどうでも良いと思っていたんだよ……優秀な者たちが更なる進化を遂げる踏み台にしても問題ないと判断していたんだ」

「要するに、優秀な人材はDAPAに所属しているから、後はどうなっても良いって発想か?」

「概ねはそうだ。いつの世でも急進的なカリスマって奴は、人々の奥底にある選民思想を焚きつけるのが上手い。弱者という明確な敵を定義し、DAPAの社員には能力があるだの、優れているだのという言葉で付け込み、彼我の間に対立構造を作る。彼はそういったことが非常に上手かったんだ」

「それだけ聞くとただ扇動家って感じがするけどな」

「あぁ……だからこそ、彼の世間での評判はそこまで高い訳ではなかった。とくに世間的な弱者や、進歩主義に懐疑的なニヒリスト等は彼の言説を嫌っていたんだ。

 ただ、嘘やおべっかを並べるタイプではないし、能力を認めたものに対する待遇も厚いので、同じ進歩主義者やDAPA内からの評価は高かったし……同時に世間での評価が賛否極まっていたからこそ、世俗に影響力を持てる者も重用していた訳だな」

「ルーナのことか?」

「半分正解、半分間違い……ルーナことローザ・オールディスが台頭したのはクラークの死後だ。それ以前は、他のインフルエンサーの方が影響力が強かった。そのうちそ出てくるぞ」


 そのうち出てくるということは、アラン・スミスのターゲットにインフルエンサーもいたと言うことなのだろう。ともかく、話が少し脱線してしまったので、クラークの件に話題を戻すことにする。


「それで、どうしてクラークは進化を望んだんだ?」

「さぁ、そこまでは本人じゃないから分からん……彼の言葉はこの後に出てくるから、本心はお前自身で考えてみてくれ」


 こちらの質問は素気無く返され、ひとまずクラークの顔を見て何を考えているのかブラウン管に映っている顔を眺めてみることにする。エネルギッシュな壮年と言う感じだし、単純に世界征服でも考えていたのか――しかしそれなら、べスターも進歩主義者という形容をしなかったように思うし――そんな風にしばらく見つめていると、視界の端でべスターが煙草の先端でブラウン管を指しているのが目に入った。


「ちなみに、何歳くらいに見える?」

「うん? そうだな……四十代くらいじゃないか? 五十代かもしれないが……少なくとも、六十代には見えない」

「実際の所、これで八十歳だよ」

「はぁ!? 若いころの写真とかじゃなくてか!?」

「あぁ、享年八十歳……オリジナルがクラークを暗殺した時に、彼が世間に見せていた姿がこれだ。そもそも大戦を裏で操っていたのもこの男なんだ。終戦から虎の暗殺計画が始動するまでに二十年近く時間も空いているからな」

「それだけ聞けば、ジジイって年齢の方が経歴的には納得するが……」


 逆に、寿命が近づいていたが故に高次元存在に手を伸ばしていたと考えられるか? 旧世界の最先端の技術を使えばある程度の延命や老化の衰えを抑えられると言っても、不老不死などは夢のまた夢だったはずだ。世界最高の権力を持っている者が、その権勢を保持し続けたいと思ったり、衰えを払拭して永遠の命を得たいと考えていたりするのは、俗っぽい視点から見ればありそうな気がする。


 とはいえ、そんな小悪党みたいな奴が旧世界において最高級の知性の集まる大企業のトップで居られたとは考えにくい気もする。そもそも、そういった利己的な目線でしか考えられない者であれば、DAPAを纏め上げるだけのカリスマを発揮できずに終わっていただろう。


 恐らく、デイビット・クラークという男の人となりに関しては、もう少し複雑なのだろう――実際にべスターが「彼が若く見える理由も後でわかるさ」と付け足したのも、記憶の中で動いているクラークを見たほうが、より彼の本質に近づけるという判断からに違いない。


 クラークの人となりについては映像で確認するとして、クラークに関係することで一点、オリジナルに関連することで気になることがあるので、そちらを質問してみることにする。


「もう一個質問なんだが、どうしてクラークが真っ先に暗殺対象にならなかったんだ? コイツさえ早めに倒せば、色々と状況も違っただろうに」

「そこに関しては色々と理由はあるんだが……とりあえず、彼の居場所が分からなかった、というのが大きな理由の一つだ。先ほどDAPAの幹部は極東に集まっているとは言ったが、クラークは本国におり、本社から指示を出していると思われていた訳だな」

「思われていた、って言い方には含みがあるな?」

「あぁ……右京が言っていただろう? JaUNTは元々、クラークが持っていた能力だ。つまり、彼からすれば大洋を隔てた距離なんか無かったに等しいんだよ」

「つまり、昼はこっちに来て、夜は本国にある豪邸で悠々自適に過ごす、なんてことも出来た訳だな」

「時差を考えれば常時昼になるな、それでは」


 冗談を言っただけのつもりが、意外な方向から揚げ足を取られてしまった。とはいえその通りだと妙に納得をして笑うべスターを眺めていると、またすぐに男は真面目な表情を浮かべて煙を吐き出した。


「ただまぁ、概ね間違いではない。恐らくほとんど二十四時間、彼は働き通していただろうからな……いや、夢に向かってひたむきに走り続けていたというのが正しいか。世界最高の企業の頭なんだ、プライベートがそのまま仕事なんだよ」

「はぁ……いやだねぇ、俺はのんびりしたいよ」

「そういうお前も、愚痴を言いながらも訓練や任務に従事していたからな……ある意味、お前とクラークと近い部分もあるとは思うぞ」


 べスターは皮肉気に笑い、またすぐに真剣な表情に戻って、「しかし、本質的な部分は相容れなかった」と呟いた。するとブラウン管の映像がまた切り替わり――ローレンス暗殺の時と同じように社内からモニターを眺める視点へと切り替わった。

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