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10-14:ファーストミッション 下

「厄介そうな相手か?」

「まぁ、厄介と言えば厄介……各地の紛争において、生身でサイボーグ相手に戦果を出せる程の実力者であるらしい。その腕を買われて、DAPAにスカウトされたようだな」

「なるほど、俺みたいな奴を相手にする専門家ってことか」

「とはいえ、第五世代型ほど厄介ではないはずだ。ここからは推測だが、AIでは補えない不測の事態に備えるために人を雇っているのだろうが、所詮は生身の人間だ」

「多分、あの女に狩られた奴らは、皆そうやって侮ってやられていったんだと思うぜ」

「ふむ……まぁ、あのデイヴィット・クラークが評価しているくらいだから、確かにやり手かもしれないが」

「しかし、どうしてそいつが逢引きに付き添っているんだ?」

「恐らく、ここまでの護衛のために連れて来られたのだろう……車内に第五世代は居るか?」


 べスターの質問を受け、アラン・スミスは再び視線を車の方へと向ける――男の方は何やら通話をしているようで、腕につけているマルチファンクションウォッチに向けて何やら話しかけている。本来なら空中ディスプレイが出るはずなので、カメラはオフにしているというところだろう。


 それを尻目に車の窓から後部座席を注視するが――後部座席の扉は開かなかったし、それでも第五世代型が潜んでいるとなれば、まだ車内に潜んでいるということになるはず。しかし気配はなかったようで、オリジナルは「いや」と言葉を切り出した。


「トランクにでも隠れてない限りには居なさそうだ」

「成程……それで、どうする? お偉いさん方からは、やむを得ない場合は関連者の殺害も許可されているが」

「女の方か? 不用意に殺したくはない」

「とはいえ、屋内に移動されたら面倒だぞ?」

「それなら、多分敷地内まで一緒に移動しているだろう……ここで別れるつもりじゃないか?」

「会話を拾ってみろ。口元を見れば、こちらで音声を擬似的に作り出せる」


 仮面が再びズーム機能で外に立つ二人の男女を拡大し――ちょうど通話が終わったらしいタイミングで、女の方が腕を組みながら特大のため息を一つ吐いた。


「あまり関心はしませんね。近頃、ACOの動きもきな臭くなっています。それなのに、こんな頻繁に遊びに出掛けるなどと……」

「逆だよ、逆。あまり根を詰めすぎると、仕事の能率を落とすからね」


 流れてくる二人の会話は機械音声ではあるものの、話者の性別を識別してくれるのか男性の声と女性の声になっている――とはいえ、ニュアンスや情動までは拾ってくれるものではないらしく、肩をすくめる男の方はもう少し楽観的な様子で話しているだろうし、首を振る女の方は低い声で喋っているのが想像できた。


「余暇を取ること自体は反対しません。しかし、どこの馬の骨とも分からない女を相手にするくらいなら、もう少し家族に向き合ったらどうなんですか?」

「独身の君には僕の気持ちは分からないだろうさ。それに、君の護衛なんか要らないと言っているだろう? 何せ、僕には君が居なくても、強力にして最強の奴らが居るんだからね」

「私がACO側なら、遊び歩いているアナタから狙います……そして仕掛けてくるときは、必ず第五世代型に対する対策を取れた時です」


 襲撃者たるアラン・スミスとエディ・べスターは、リーゼロッテの言葉にぎくりとしたに違いない。傭兵団の隊長は、こちらの状況をぴたりと言い当てていたのだから。彼女自身の兵士としての勘が鋭いのだろう――だからこそ、彼女は第五世代型アンドロイドという最強の私兵部隊を持つDAPAの中でも活躍していたのだろうから。


 男の方も流石は大企業の社長であるのか、リーゼロッテの鋭い意見は素直に受け入れたようで、真剣な面持ちになって頷いた。


「それが今とは限らない。だが、確かに君の言うことも一理ある。今度からは、もう少し注意することにするよ」

「出来れば、今度からではなく今から、にして欲しいのですが?」

「それは難しいな……何せ、彼女は僕に会うのを楽しみにしてくれてるんだから。それとも、わざわざこんな風に遠出しなくても、君が僕を楽しませてくれるってことなのかな?」


 先ほど一瞬だけ流石は社長と思ったが、前言撤回だ。男は品定めするようないやらしい目線で、引き締まったリーゼロッテの身体を見回している。対する女の方は露骨にイヤそうな表情を浮かべて踵を返し、「明日の朝に迎えに来ます」と言って車の運転席へと戻った。


「馬鹿は死ななきゃ治らない……か」


 自動運転を好まないのだろう、ハンドルを握りながらそう唇を動かし、リーゼロッテは車にエンジンを掛けてそのまま去っていく。そして車のヘッドライトが遠ざかるのに合わせて、アラン・スミスの視界は丘を下り始めた。


「おい、アラン、行くのか?」

「多分、あの女が去った今しかチャンスは無い……ローレンスが屋内に入るまでが勝負だ」

「……分かった。だが、無茶はするなよ」

「ははっ……お前が俺に人殺しさせようって改造したんだ。今更生ぬるいのはなしだぜ」


 そう返答する仮面の声は、僅かにだが上擦っていた。

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