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10-9:一課とのコンペティション 下

「ADAMsを使ったのか!?」

「あぁ……ぶっつけ本番だったが、なんとかなったな」

「ふぅ……あのなアラン、ADAMsは脱出用だと伝えただろう? いくらお前の身体をそれを使える規格にしていると言っても、神経やフレームへの負荷も大きい……とくに戦闘時などは細かい制御も難しいんだ」

「とはいえ、アイツらに言わせっぱなしにしてて良いのかよ?」

「……違いない」


 そこでようやっと緊張が切れたのか――それは、べスターもアラン・スミスも同様に――仮面は椅子に座ってへたりんだ。


「それに、加速装置を使わないでどうにかしろって言うのなら、やっぱりパイルバンカーをだな……」

「馬鹿なことを言うな。硝煙反応が出るような兵器をおいそれと使わせるものか」

「アイツらだって似たようなものを使ってだろう?」

「うちはうち、よそはよそだ」


 互いに悪態はついているが、二人の声色は明るいものだ。対して部屋の反対側では、二人の白衣の男が地団駄を踏んでいるのが見えた。


「今のは無しだ! 開示されていなかった情報があるだろう……加速装置を搭載しているなど聞いていなかったぞ!?」

「そりゃお互い様だろう? オレだって、今回の模擬戦において、そっちがブラスターを積んでいるだなんて聞かされて無かったからな……あんまり格好悪いことを言うな、一課の優秀な科学者さんよ」


 視線の主はそこで胸ポケットから煙草を取り出し――しかし流石にそこで吸うのはマズいと判断したのか、へたり込んでいる仮面に立つように指でジェスチャーをし、二人で部屋を後にした。


 そのまま二人は地下から階段を昇って屋外に出て、フェンスに囲まれた敷地内をしばらく歩き続ける。ACOの極東基地は郊外の丘陵地にあるのだろう、辿り着いた見晴らしのいい場所は展望台らしき場所であり――そこで男は煙草に火をつけ、鈍色の空に向けて紫煙を吐き出した。


「なぁべスター、そんな辛気臭い顔をするなって」

「さっきはこんな顔を見て元気になったとか言っていなかったか?」

「さっきと今は状況が違うぜ。せっかく頑張って来たってのに、そんな面されてたら喜べないだろう?」


 そこで視線の主は後ろを向き、背後に立って俯いている仮面の方を無言のまま見つめる。そしてややあってからオリジナルが視線をあげ、ぽつりぽつりと話し出す。


「……今回の勝負、お前も悩んだんだよな。アイツら、俺を殺す気だったし……負けはそのまま死に直結するが、止めたところでサイボーグである俺をのうのうと外に出すわけにはいかない……どの道処分になる訳だから。だから、そもそも勝負を回避するように尽力してくれてたのは知ってるよ」


 俯く仮面から視線を外し、次にブラウン管には鈍色の空が映し出される――煙草の煙が立ち昇っていき、雲と混ざって見えなくなるのに合わせて、一度視線が落とされる。べスターはパンパンになっているポケット灰皿を取り出してそこに吸殻を押し込み、またすぐに次の一本に火をつけ、火種を呆然と立つ仮面の方へと向けた。


「……お前に死なれたら、オレは煙草代を稼げなくなるからな」

「高級品だもんな。それなら、チェーンスモークは止めるのをおすすめするぜ」

「馬鹿なことを言うな。オレはのびのびと煙草を吸うために、高い給料をもらえる仕事をしているんだからな」

「お、おい、それ本気か? もしそうなら、やっぱりお前も大概クソ野郎だな」

「そうだ。オレはクソ野郎なんだよ」


 何となく、画面の中の彼は、今ブラウン管の外にいるべスターと同じ顔をしているに違いない――そう思ってYシャツ姿の方へ視線を向けると、所在なさげに紫煙を吐きながら俯き、苦笑いを浮かべている男の顔があった。


 画面内外でしばらく沈黙が続き――それを破ったのは、画面内の仮面の男だった。


「……この二年間、結構考えたよ。お前に改造されなきゃ、俺はただ死んだだけだったからな。感謝してるとは言わないけれど、最悪じゃなかったとは思ってる」

「そうか……お前は大概お人よしだな、口は悪いが」

「誰かさんのせいでこうなったんだ。悪態の一つでもつかないとやってられないからな」

「しかしアラン……さっきだって、オレ達がコンペで勝ったら、アイツらが職を失うんじゃないかって心配してたんだろう?」

「まぁ、それは否定しないが……殺して来ようっていう本物のクソ野郎に、手心を加える理由もないと思ってな」

「はは、違いない」


 Yシャツはこちらを見ながら、以下のように付け足す――オレは段々と、この時辺りから、改造したのがお前でなければ良かったのにと思うようになっていた。もう少し独善的な奴で、こちらを恨んでくれるのなら、もう少し仕事として割り切れたのに――と。


 同時に、きっとあの日に研究所に運ばれてきた青年がアラン・スミスでなければ、オレはこの辺りでお役御免になっていたとも。いくら最新の技術且つ、自分の最高傑作であるサイボーグであったとて、常に冷静に判断を下せるロボット相手のコンペはそもそも分が悪かったはずだ。


 そして最後に、お前のせいでオレは長々とDAPAと戦う羽目になった。おかげで煙草代には困らなかったがな――と自嘲気味に笑って煙を吸い上げていた。


「……さて、そろそろ戻るか。お前の肩を治さなきゃならないからな」


 画面からの声にブラウン管に視線を戻すと、男は二本目を灰皿に押し込んで振り返り――遠くに臨む都市の摩天楼群を少し見つめてから踵を返し、左腕を垂らしたままにしている仮面と共に来た道を引き返したのだった。

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