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10-6:アラン・スミスの修行 下

「この頃のオレは、晴子のことなど気にしていなかった……悪い言い方にはなるが、彼女はアラン・スミスに頑張ってもらうための餌でもあったからな。

 伝聞にはなるが、移植手術を拒絶して、病院のベッドで寝たきりだった様だ。本当なら食事も拒絶して衰弱していたのを、点滴で延命するようにオレが依頼をしていたんだ」

「ふぅ……お前のしたことは褒められたことじゃないだろうが、今更それを責めたりはしないよ。それより、お前はどうして対DAPAのための作戦なんかに参加していたんだ?」

「そうだな……タイミングが来たら話す。オレのことも、晴子のこともな」

「了解だ。しかし、一向にオリジナルは成長しないな」


 流れ続ける映像に視線を戻すと、投擲や身体の動き自体は様になってきたようだが、肝心の暗闇の中で標的に攻撃を当てることには大分苦戦をしているようだった。投擲の訓練ではほとんど命中させることが出来ておらず――稀に当たっている場合でも、狙ったというよりもまぐれ当たりのように見えた。


「今のお前のように正確無比な投擲技術を得たのには、色々とエピソードがある……そのうち分かるさ。

 さて、賢明な努力のおかげで、なんとか動きは一年ほどでいっぱしになった。しかし、やはり不可視の存在を感知するのはかなり手を焼いていた。実際、最初のデモンストレーションでは良い結果を出せなかったんだ。投擲を一発も当てられなければ、サイボーグによる要人暗殺計画は中止される予定だったんだが……」


 ワイシャツがそう言うのに合わせて映像が切り替わり、べスターの周りに背広の男達が何人もいるシーンに切り替わった。最初のデモンストレーションの風景なのだろうが――やはり、暗室の中の仮面は的に対して攻撃を外し続けているようだった。


 そして、最後のナイフを投げる直前の暴投が、的を下げている鎖に当たったおかげで、的が動き始め――暗室に灯りが着いた時には、揺れる的にナイフが一本刺さっていた。


「一発のみしか成功しなかったが故、正式な採用にはならなかったが、ひとまず二課のテストを続行することには成功した。

 その後しばらくは、また苦戦する日々が続いたんだが……ある日オリジナルの考案でな。的を動かしてくれという意見を出されたんだ。オレとしては、動かない的にすら当てられない奴が、動く的に当てられるわけが無いとも思ったんだが、確かにデモ中に当てた一撃は、的が動いていたからな」


 再び画面が真っ暗に切り替わり――スピーカーから風を切るような音が聞こえ始める。そして画面が――正式には仮面のいた暗室に灯りがついた時には、訓練用の暗室で複数の的にそれぞれナイフが突き刺さっているのが映し出されたのだった。


「オリジナル曰く、最初から空間に存在して微動だにしない的は、気配がしないから狙えなかったんだそうだ。それを皮切りに、お前は徐々に感覚を掴んでいき……的の大きささえ分かっていれば、空気の流れから対象を認識できるようになっていった。そして、最初のデモからさらに半年後には、動かない的も狙えるようになったんだ。

 今にして思えば、お前が見えない的を狙えるようになったのは複数の要因があったのだろう……観察能力と空間把握能力の高さから、空間における違和感を察知できるというのをオレは仮説として持っていた。しかし……」

「……段々と、俺が未来予知能力を開花させていったのも要因だったと?」


 こちらの返答に対し、Yシャツは小さく頷いた。


「そう考えれば、多少筋道が立つ部分もあると思ってな……もちろん、先ほど上げた能力が高いというのも事実なはずだ。それ故、お前は的が動いてさえいれば気配を察知することが出来た訳だが……最終的には動いていない的を狙えたことや、そもそも人や機械の発する微弱な信号を感知できるようになったのは、むしろ超能力じみているとさえ思っていた」

「そこは、真面目に訓練した賜物と言って欲しい所だがな」

「もちろん、それは大前提さ。とはいえ、訓練だけではなかなか納得的ない部分もあったのは確かだ。

 今のオレの仮説としては、一年以上の必死の訓練とお前の素養に上乗せして、高次元存在という霊的な存在の加護があったという複合要因が、アラン・スミスという暗殺者を産んだのだろうと思っている」

 

 自分としては、必死にやっていたのを高次元存在のおかげと――それが霊的な存在であっても――言われるのは少々気に食わない部分はあるのだが。とはいえ、訓練していたのはオリジナルであるし、クローンの自分はその技術をそのまま流用できているのだから、自分が不機嫌になるのもお門違いか。


 ともかく、画面が再び切り替わり――先ほどのように背広たちがべスターを取り囲み、幾分か納得した表情をしているのが映った。同時に、その背後にいる白衣達は――べスターでなく、他の研究者だろう――どこか浮かない様子であるように見えた。


「二回目のデモでは優秀な成績を修め、続く二週間後の三回目では全ての的を正確に打ち抜き、訓練用のロボット相手なら近接戦闘もこなせるまでに成長していた。

 とはいえ、人の感覚が不可視の存在を見抜くなどとオカルトじみているとライバルチームからは反論があってだな……」

「はっ、超能力だとか魔術だとかモノリスだとか、そんなものが平然と存在するんだ。オカルトだなんだなんていうのは今更だな」

「あぁ、違いない……まぁ、ライバルチームとしてはお前の存在が気に食わなかったんだ。もし要人の暗殺をオレ達のチームが請け負うとことになれば、予算を縮小させられるか、最悪の場合テストチームは解散させられる訳だからな」

「はぁ……味方内でも他人の足を引っ張り合うのは、世の常なのかね」

「むしろ、組織の中だからこそだろうな……ともかく、単独にて暗殺のミッションを成功させることの難しさを指摘され……」


 次にブラウン管に映ったのは、白塗りの壁が四方を取り囲む広い部屋だった。

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