10-3:二度目の目覚め 下
「もちろん、オレが言っているのは詭弁だというのはもっともな意見だ。お前に人格があるのは間違いないし、オレも逆の立場ならそう思うだろう……何ならもっと混乱しているだろうな。
本来、人が人を裁くのは間違っている。法治国家においては、人を裁くのは法であるべきだからだ。しかし、超法規的な対応が必要な所に差し迫っている……とだけは言っておこう。加えて、暗殺の対象は悪い奴、ともな」
「そりゃ、依頼する側からすりゃあ悪い奴なんだろうよ。何せ死んでほしいくらいだしな」
「ふっ……なかなか口が周るじゃないか。否定はしないよ」
仮面の言葉がなかなか皮肉が効いているせいか、画面内のべスターから笑い声が上がった。そして画面の中の方が空き缶に短くなった煙草を投げ入れ、またすぐに次の一本を取り出して煙を吐き出した。
「一応、お前の意志を全く尊重しないというわけではない。爆弾は最終手段だが、もう少し穏便に安楽死させてやることもできる。
お前の身体の改造費には、一般人が一生かけても稼げないくらいの予算をつぎ込んでいるわけだが……協力してもらえないというのなら致し方ないからな。こちらの要求を断る場合、ここで静かに再び潰えてもらうことになる」
スピーカーから聞こえてくる言葉に、自分はうっすらと既視感を覚えた。アレはいつだったか――そうだ、この星で目覚めた時、レムに同じようなことを言われたのだ。あの時は爆弾を仕込まれていた訳でもないし、もう少し穏便ではあったが――死の淵から無理やり起こされ、一方的に依頼を出されて、呑めないのなら再び潰えてもらう、と言われた点は一致している。
要するに、自分はこういう星の下にあるのだろう――そんな風に思っていると、画面の中の仮面から「俺は」と小さく声があがった。
「……俺は死にたくない。もちろん、死ぬのが怖いって言うのもあるが……俺が死んだら、晴子が一人になってしまうから……」
「さっき言った報酬だがな。お前がオレ達に協力してくれるというのなら、お前の妹……伊藤晴子の医療費を出せる」
「ほ、本当か!?」
「あぁ、超法規的な裏仕事をやらせようっていうんだ、それくらいは安い買い物だ。本人にその気があるのなら、切断した足の移植手術をしたっておつりがくるくらいだ」
「そ、そうか……」
画面の中で俯く異形は、仮面ゆえに表情は見えない。もし仮面が無かったとしても、顔が変形していて表情も分からないかもしれないが――しかし、声の調子からは安堵している様子が伺えた。
そして仮面は少し押し黙って思惑して後、顔を上げて再びこちらを――視線の主をじっと見つめた。
「……やるよ」
「良いんだな?」
「良くはないけど……どうせ本当は失っていたはずの命で晴子を守れるのなら、やってみる価値はあると思うんだ。だけど、礼は言わないぜ、えぇっと……」
「……べスター。エディ・べスターだ。よろしくな、アラン」
「……はぁ? アラン?」
「お前のコードネームだ。死人と言えども、呼び名が無いと不便だからな。今日からお前はアラン・スミスだ」
ちなみに、アラン・スミスという名前を考えたのはオレだ。好きな映画監督の名と姓を掛け合わせて作ったんだ――画面外のべスターからそう補足が入った。そして画面内のべスターは二本目を缶に投げ捨て立ち上がって寝台の隣へと移動し、恐らくヤニ臭いであろう右手を寝台にいるアラン・スミスに向けて差し出した。
「ようこそ、反コングロマリット並びに第五世代型アンドロイド対策本部特別二課へ。今のところはオレとお前しかいないがな……よろしくな、アラン・スミス」
オリジナルはその手を見つめ、ややあってからぎこちない調子で腕を上げて、男の手を取ったのだった。そこで画面が暗転し、すぐに砂嵐が流れ始め――画面が切り替わるまでの間に、加減の知らない馬鹿が握り返したせいで、危うく骨折しかけたのだと補足されたのだった。
前回告知した通り、明日11/16より毎日1部ずつの投稿に切り替えます!




