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9-75:そして虎は原初へと至る 中

「オレには絶対的なことは言えん。あくまでも右京がそう言っていただけで確信がある訳ではないし、同時に否定するだけの材料がある訳でもない。むしろ、時空間の超越者によって力を与えられていたというのなら、お前の不思議な直感にも納得いく。しかし……」


 そこで言葉を切り、男は口から大量の煙を吐き出しながら、皮肉げな笑顔を作ってこちらを見据えてきた。


「完全に高次元存在がお前を意のままに操っているというのなら、少なくとも蹴りを入れさせるようなマネはさせないだろうよ」

「……違いない」


 仮に高次元存在がこちらを意のままに操っているというのなら、反抗するような思想をもたせはしないだろう。己に蹴りをかました不届き者を守ってくれているというのなら、高次元存在とやらは大層太っ腹な存在に違いない。


 と言ったところで、超越者たる高次元存在が何を考えているかなど分からないし、疑念が完全に晴れた訳ではないのだが――それでもべスターの言う通り、少なくともこちらの自由意思を完全に奪っているわけではなさそうだ。


 胸を撫でおろしているこちらを見て満足したのか、べスターは微笑を浮かべて頷いて後、真面目な表情に戻って話を続ける。


「さて、もう一つのお前の疑問……どうやってという事に関してだが、彼らは時空間を超越する力を持っている。それならば、お前の周囲だけ時を止める、なんてことも可能かもしれない」

「それなら、身体を修復してくれる方がありがたいんだが……高次元存在はなんでそれをしてくれないんだ?」

「オレに聞くな……そもそも、時を止めているというのも仮説でしかない。本来なら既に消滅していてもおかしくなかったんだ、命があるだけでもありがたいんじゃないのか?」

「それは、そうかもしれないが……」


 実際、レムから――晴子から授けられた再生能力が無くなった今、高次元存在の庇護なしにはすぐさま消滅してしまうだけだろう。そうなればベスターの言う通り、命があるだけでもありがたいという事に対して反論はない。


 しかし、それだけではダメだ。仮に右京達の目論みを一旦は中止できたのだとしても、七柱の創造神たちの内、急進派は健在。右京とアルジャーノンが残っているとなれば、何かしらの策で計画を再開するのも難しくなさそうだ。


 同時に、残してきた仲間達が気になる。とくに、自分を死地に送り出したエルなど、後悔に心を砕いているに違いない――彼女にはリーゼロッテが転写されているのも不安な点だ。その気になれば、リーゼロッテはエルの人格を消去できるのだろうから。


 そうなれば、まだ自分がやらなければならないこと――いや、やりたいことは山積みだ。魂を燃やし尽くす覚悟で飛び出して来たものの、まだこうやって生き残ってるのなら――少なくとも消滅していないのであるならば、何とか現世に戻る手段を探りたい。


「……なぁべスター。何とか復帰する方法はないかな」

「オレに聞くな。専門はバイオメカトロニクス……人工筋肉や機械工学なんだ、高次元存在なんて言う霊的な存在に関しては専門外だし、今のオレにはやれることもない」


 自分より頭の切れるべスターがダメというのなら、ひとまずそう簡単に復帰する手段は無さそうだ。とはいえ、まだ何か手を尽くした訳ではないし、諦めるには早いだろう。


 ひとまず、まずは自分の体が動くのか、改めて確認作業に入る。首が動くのは確認済み、ついでに残っている手を握ったり開いたりしてみる――今の身体は思念体のようなものだろうから実体はまた別なのだろうが、ひとまずこの暗い空間を動くには問題なさそうだ。


 とはいえ、片足を失ってしまっている現状では、自由に動き回るとはいかないか。せめて、べスターに肩でも貸してもらうか――そう思いながら視線を戻すと、男は椅子の背に額を押し付け、力なくうなだれているようだった。

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