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2-12:真夜中の襲撃 下

(……まずいッ!!)


 その後に起こることがすぐに脳裏に浮かび、体はすぐに動いていた。何か有効打になるも物はないか――。


「エルさん! くっ……!」

「させん!」


 飛ばされたエルに一瞬気を取られたものの、すぐに杖を構えなおすソフィア、それに対しもう魔術は撃たせまいと、その爪を槍のようにして突き出す吸血鬼。そして自分は、その間に青色の瓶を携えて割って入った。


 貫かれる覚悟で乱入したのだが、龍と違って敵の反射神経がいいのが幸いした。吸血鬼は目を見開いて差し手を開き、こちらの首を締める形になる。


「二度も邪魔をして……このままへし折って……」

「ぐっ……!」


 よくよく見れば、コイツかなり背が高い――持ち上げられ、そして息も出来ぬまま、首が凄い力で圧迫されて意識が遠のきそうになる。だが、このままやられるわけにはいかない――最後の力をふり絞って、俺は相手の側頭部に持っていた瓶を叩きつけた。


「何を……!?」


 異変は、すぐに現れた。瓶の中身で濡れた吸血鬼の頭が、白い煙を出して溶け出している。


「せ、聖水ぃぃいいいいいいい!?」


 吸血鬼は叫ぶと、こちらの首から手を離した。こちらは咳込み、なんとか見上げると、アルカードはもがき苦しみ、よろめいている。


「くっ……今日の所はこの辺りで容赦してやる!」


 負け惜しみにしか聞こえない捨て台詞を吐いたのち、吸血鬼はその体の結合を解き、再び蝙蝠の群れへと還った。そして、ベランダから一斉に飛び去り、夜の闇に消えて――行く前に、少女がその影の群れを追う。


「……容赦など、しない!」


 すぐさまソフィアがベランダを出て、杖を蝙蝠の群れに向けて構えた。街中で大型の魔術は撃てないと言っても、相手が空中なら――そひこうういう判断か。


「帯電、放電、磁力、拡散、追跡! 薙げ、飛蝗ひこうを堕とす雷! 百裂雷光弾【ファランクスボルト】!」

 

 杖の先に大型の魔法陣、そしてそこからは無数に細い稲妻が伸び――それらは追跡型のミサイルのように空中で屈折し、街の空に光のパレードを描く。そしてそれらは遠景に浮かんでいた蝙蝠の一匹一匹を、容赦なく撃ち落としているようだった。


 杖から蒸気が噴き出し、少女は杖を一振りして、敵がまだ空に残っていないか確認しているようだった。そして敵影が完全に消えたのを確認してから振り向くと、そこには勇ましい顔はなく、ソフィアは泣きそうな顔になってエルの方に駆けつけた。


「え、エルさん、ごめんなさい!」


 エルは壁を背もたれにして座っており、その横でクラウが回復魔法を掛けているようだった。


「いえ、いいのよ……クラウの補助魔法で防御も上がっていたし、それに切り傷もないから、すぐに治るわ」

「でも……私、護られてばっかりで……」

「ふぅ……やれやれ」


 エルは右腕を伸ばして、ソフィアの髪の上にその手を置いた。そして、ゆっくりと撫で始める。


「ほら、もうこんなに動かせるんだから……心配しないで」

「は、はい……ありがとうございます……」


 こちらも咳込みながら、なんとかエルたちのほうへと近づいていく。


「ごほっ……エル、大丈夫か?」

「龍と戦った時のアナタほどじゃないわ。それにしてもアラン、良い機転だったわね」

「あぁ、クラウの純度百パーセント、不審者にはよく効いたな」


 そう言いながら、エルの傍らで治療をしているクラウのほうを見る。


「あの、その言い方は、なんか癪に触るような……?」

「いやいや、流石銭ゲバの聖水。ご利益たっぷりだった」

「言い方ぁっ!!」


 しかし、今更ながらにエルの方をよく見ると――へそ出しのタンクトップに太ももまでが顕わになっているパンツルックで、普段の露出のなさと正反対なほど肌を露出している。だが、これが普段の露出のなさの理由でもあるのだろうが――戦士としての勲章と言うべきか、やはり肌のあちこちに、うっすらと傷の痕は見える。


 しかし、普段はブレストプレートで気付かなかったが、中々のモノをお持ちで――そう思っていると、エルは両腕で自身の体を抱えた。


「……視線がイヤらしい」


 そうズバ、と言われてジト、とした目で見られてしまうと、こちらとしては焦るというか、けが人に対して申し訳ないというか、ともかく恥ずかしくて逃げ出したい気持ちになる。


「そうですねーアラン君、私のもよく見てますよね?」


 やばい、クラウにもバレていた。しかし、クラウなど面白半分といった感じでこちらを見ている。内心冷や汗ダラダラになりながら、どう言い訳しようかと考えている間に、階段を何者かが駆けのぼってくる音が聞こえる。


「お、お客様……!? これは、一体……!?」


 俺にとっての救世主は、宿の主のようだった。しかしこれ、出禁にならないだろうか――嵐でも過ぎ去ったかのような部屋の惨状を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。

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