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9-64:限界を超える抵抗者 上

 ホークウィンドの元を離れ、アランが居るはずの鐘楼を目指して上へと移動を始める。追手が来るかとも思ったが、自分とアガタの方には追撃の手は無かった――ホークウィンドとナナコ達の方へ戦力を投下しているのか、自分たちは捨ておいても良いと判断したのか――恐らくはその両方だろう。


「ティア、アランさんの元へ行こうというのですか!?」


 後ろから追いかけて来るアガタの質問に対して、自分は無言を貫いて、ただ上へ上へと走り続ける。結界の使えない今では、建物の屋根を飛び移っていくのは厳しい。自分は内部構造を把握できていないので、建物の中を行くのは厳しそうだが――そんな風に思っていると、アガタに右の肩を掴まれた。


「アナタの気持ちは分からないでもないですが……今から行って何になるというんです!?」

「……クラウと約束したんだ。アラン君を一人にしないって……」


 もちろん、動機はそれだけではない。自分自身が、彼の元に駆けつけたいから――アガタの言いたいことだって分かる。せっかくホークウィンドが逃がしてくれたというのに、わざわざヘイムダルの最上部を目指すだなんて、拾った命を投げ捨てるのと同義だ。


 それでも、自分の心にも嘘をつきたくない。アガタの手を振り払おうと左手を上げると、アガタはこちらの行動を読んでいたらしく、逆に手首を掴まれてしまった。


「ふぅ……やはりアナタは、クラウディアなのですね」

「えぇっと?」

「アナタの覚悟は分かりました……私も微力ながら協力しますよ」

「アガタ……ありがとう」


 こちらの礼に対してアガタは微笑みを浮かべ――しかし、すぐにいつもの気難しい表情が戻ってくる。


「ですが、厳しいと判断した場合は、アナタを羽交い絞めにしてでも脱出します。ホークウィンドの言った通り、まだ世界は終わるとは限らない……それなら、最後までチャンスを諦める訳にはいきませんから」


 アガタの言葉に対しては、すぐには返事は出来なかった。最後までチャンスを諦めないというのなら、むしろ自分は彼のことを諦めたくない。命に代えても、彼の元へ――そんな風に思っていると、下の方から「アルジャーノン!」と声を荒げるルーナの声が耳に入ってきた。


「こやつらの相手なぞ、妾一人で十分じゃ……手を出すなよ!」

「ふぅん……先日、手負いの子供に一泡吹かせられた僕からの忠告だが、余り彼らを舐めない方が良いと思うけれどね。ま、折角女神さまがイキってるんだ、ここで少し観察させてもらうとするか」


 アルジャーノンは空中で腰かけるようなポーズを取り、事態を静観することに決めたようだ。ルーナの視線の先には、ホークウィンドとアズラエルが居り――熾天使が周囲の第五世代型達の迎撃を始める傍ら、黒装束の男から凄まじい闘気が立ち昇りだした。


「ルーナ……いや、ローザ・オールディス! 我が乾坤一擲の一撃、受けるがいい!」


 その一言と共にホークウィンドは跳躍し、月の女神に向けて一直線に肉薄する――その速度があまりにも凄まじいせいか、他の天使たちは女神の盾になることもできず、巨漢の手刀が白髪の少女の美しい顔に向かって振り下ろされた。


「鷹風流裏奥義! 絶影!!」

「しゃらくさい!!」


 ルーナが突き出した手のひらの先に、七枚の結界が現れる。この旅の中で何度も見てきた七星結界――自分とクラウが手を合わせて一度破ったその結界は、わが師より放たれる全身全霊の一撃をもってすれば、破ることもできるのではないかと思える。


 しかし同時に、自分は知っている――ホークウィンドの肉体は既に限界が来ているのだと。一枚、また一枚と男の手刀が結界を割っていくが、同時に男の手にもヒビが入っていくのが見えた。


 そして、振り下ろされた右手が砕け散るのと同時に、ルーナの顔に狂気の笑みが浮かび――しかし、男の執念に蹴落とされたのか、すぐにルーナは驚愕に眼を見開いた。ホークウィンドは右手が砕けるや否や、今度は左の手刀を結界に対して撃ちだしたのだ。


 再び結界が割られ始めると、先ほどの余裕はどこへやら、白髪の少女の顔には恐怖の色が現れ始める。そして残り一枚まで左手が辿り着いた瞬間――今度は左腕が砕けてしまった。


 だが、それでもまだ男は止まらなかった。身を翻して着地し、左足を軸に右の回し蹴りを放ち、足が砕けるのと引き換えに、最後一枚を割ったのだった。


「……ひぃ!?」

「本体までは、届かなかったが……」


 口惜しそうなその声に合わせ、忍び装束の口布が風に流されて飛んでいき――既に顔中にも亀裂が走っているのが見えた。男は四肢を失っているとは思えないほど、左足のみでも綺麗に立ち、天を見上げ――。


「……見ていたか、ティア。これが人の持つ可能性だ」


 ヒビだらけの顔で不敵に笑うと、男の身体は粉々に砕け散った。彼の背に合った巨大八方手裏剣は轟音を立てながら地面に突き刺さり、纏っていた衣服は風に流れて遠い空へと消えていった。

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