9-61:騎士と忍 上
モノリスを活用したバリアにより、ゴードンの第七階層魔術による一撃に対抗を図る。しかし威力を一点に集中された影響か、完全に防ぎきることは出来なかった。
それでも自分にまだ息があるのは、バリアが砕ける直前にアズラエルが自分を運び出してくれたからだ。アズラエルがブリッジの床を破壊して下へと移動した直後、魔術が艦の半分を焼ききり――アズラエルが自分に覆いかぶさるように庇ってくれなければ、その力の奔流に巻き込まれて絶命していただろう。
「レア様、ご無事ですか?」
「えぇ、貴方のおかげで」
こちらの心配をしていたアズラエルは、自分の返答に対して頷き、先に立ち上がってこちらの手を引いて起こしてくれた。そして風通しの良くなった瓦礫の山から辺りを見回していると、機械音声による演説が始まり――そして海に巨大な光の柱が立ち上がりだした。
「……彼らの目標は、達されてしまったのね」
この光景を見るのは長い人生で二度目のことである。以前は制御に失敗し、今回はどうなるかはまだ不透明だが――依然と比べ物にならないだけのモノリス群を制御しているのだし、人工の数も旧世界と比べて少ないためコントロールはしやすいはずだ。それ故に、今回は高次元存在の降霊に成功する可能性は高いと言える。
況や失敗したとしても、それはこの星の終わりを意味する――どちらにしても、この星と自分たちが終わってしまうことだけは既に確定してしまったのだ。
「レア様、参りましょう」
呆然と光の柱を見守っていると、いつの間にか我がアズラエルは自分の足元で跪いて、こちらが動き出すのを待っているようだった。
「アズラエル、もういいのです……全て終わってしまったのだから」
「本当にそうでしょうか?」
我が従者はそこで言葉を切って、顔を上げてこちらを真っすぐに見つめてきた。
「私の使命はアナタを守り抜くこと……仮に世界が終わるとしても、その瞬間までは使命を果たします。それと同様に、まだアナタにも何か出来ることはあるのではないでしょうか?
ひとまず敵の精鋭が揃っている今は逆転が難しいと判断します。一旦、脱出を試みるのがよろしいかと」
「しかし、世界が終わっては……」
「まだ終わると決まったわけではありません。それこそ、アルファルドたちの目的が達されたのなら、この星は旧世界のように人の住めない星にしまうわけではない……生き残る意志さえあれば、再起を図ることも可能だと思います」
アズラエルは「主君に意見を申し上げるなど、失礼なことと存じますが……」と続けて、再び顔を下げた。
しかし、何と言うことだろうか。第五世代型である彼が、まだ希望を失っていないとは。むしろ機械的であるからこそ、最後まで絶望せずに自らの使命を全うしようとしているとも取れるが、彼の言葉にはそれ以上の意味が込められていたように思える。
同時に、彼の言葉は耳に痛いものだ。この状況でも諦めず、抗い続けろというのだから。もちろん、自分のしてきたことの贖罪に、同時にフレディやグロリアに――目を背け続けていた癖にと、あの子には今更と言われそうだが――報いるためにも、このまま終わって良い訳が無いというのも分かっている。
だが、既に自分にやれることは無いのではないか――そう思っていると、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。アズラエルが警戒していないのを見るに、恐らくは味方だろう。
「……レア様、ご無事ですか?」
「イスラーフィール……他の者たちは無事ですか?」
足音の主たる水色の髪の少女は、無表情のまま小さく頷いた。
「はい。ジブリールの回収は出来ませんでしたが……アルフレッド・セオメイルが尽力してくれました。今は、外でルーナたちとの戦闘に参加しています」
「そうですか……」
まだ、他の者たちは諦めていない。それに、アルフレッド――夢野七瀬について行く前は、自分を敬愛してくれていた優しい青年。自分のせいで大いに捻くれてしまったが、それでも根本の部分は、未だ変わりないのだろう。
そう、失った者だけではない。まだ諦めていない者たちに対しても、自分には責任がある。大きく息を吸い、少しだけ気分を落ち着かせて――やはり、気持ちは揺るがない。既にやれることが無かったとしても、諦めることはいつだってできるし――。
「……私にできる贖罪は、抗い続けることだけなのでしょうね」
そう呟くと、二人の熾天使も同意なのだろう、こちらを見ながら頷き返してくれた。
「それではレア様、撤退いたしましょう」
「いいえ、チェンたちの援護へ向かいます。この老体でも、弾避けくらいにはなるでしょう」
戦闘行動こそ厳しいが、自分も七星結界と回復の魔法は使用できるのだから、傷付いた者のサポートくらいは出来るはず――そう思いながら一歩踏み出すと、アズラエルが胸に手を当てて頭を垂れたまま、自分の進行方向へと躍り出た。




