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9-59:二度目の落日 上

「アナタ、大丈夫?」

「……これが大丈夫に見えるか?」

「いいえ。もう十全の力で戦える力は残っていないでしょうね。折角、もう一度巡り合えたというのに……皮肉ね。やっと決着をつけられると思ったのに、水を差されて……」


 顔を上げて顔を覗き込むと、女は切なそうに遠くの空を見つめていた。


「……もう、何もかもがどうでも良い。この先、どうなるかなんて、私には関係ない……」


 そこまで言って、女の体は突然バランスを失って倒れ込みそうになる。何とか残っている左腕でその身体を抱きとめると、どうやら意識を失ってしまっているようだった。要するに、彼女の目的は本当に自分と決着をつけることだけで、それ以外のことには興味が無く――その目的を失った今、もはや現世に未練もない、ということなのだろう。


 もしリーゼロッテがこの体を放棄したというのなら、エルは無事かもしれない。頬を叩いて反応を見ようとするが、如何せん左腕は塞がっており、右腕が無い状態だ。それならば、声を掛けるしかないか――そう思って彼女の名を呼ぼうと思った瞬間、どこからともなく鐘楼の音が辺りに鳴り響きだした。


 その音は、どこから来ているのだろうか。ヘイムダルの尖塔につけられている鐘達からだろうか? それだけでは、これだけの大きな音にはならないように思う――まるで、世界中の教会の鐘の音が一斉に鳴り響いているんじゃないかと錯覚するほどだった。


 そして鐘の音が終わると同時に、「惑星レムに生きる全ての生きとし生ける者よ」という声が聞こえ始めたのだった。


「聞こえているだろうか? 私はアルファルド……君たちが七柱の創造神として崇め奉る者の一柱だ」


 聞こえる声は少年の物でなく、機械音声であり、無機質で感情の抑揚もないものであった。人ならざる者の声で、人々の不安を駆り立てようとしているのか、それとも自分の声を人々に聞かせるのを好まないのか――恐らくどちらも正解であるが、アイツの性格的にはむしろ後者が正解のように思われる。


 演説が一度切れるのと同時に、空中にドローンのような機械が突如として現れ――空間転移でこちらへ飛ばして来たのだろう、付属のカメラでこちらを映し出してしているようだった。


 それらをナイフで落とす余力もなく――為されるがままにされていると、空中にスクリーンが現れる。


 そこには、腕に女性を抱え、膝をつきながら上を見上げる一人の男の姿があった。衣服は所々破れで、右腕はなく、顔の皮膚に亀裂まで走っている――もしアレが他人であったら、映し出された男を満身創痍と評しただろう。


「見えているだろうか……今にも朽ちてしまいそうな彼の姿が。彼は、第十代勇者アラン・スミス……その正体こそ、裏切りの女神レムが我々に向けて差し向けた邪神ティグリスである。 

 すでに邪神は戦う力を残していない。魔族諸君……君たちの希望は、今こうやって潰えたのだ。しかし邪神の敗北は、レムリアの民の勝利を意味しない。私はレムリアの民を滅ぼすため、敵対者たるティグリス神を倒したのだから」


 世界中に響き渡る言葉の真意を、最初は理解できなかった。邪神ティグリスが敗れたことになれば、レムリアの民は希望を取り戻すのではないか――しかし、続く言葉で右京の真意が分かってきた。恐らく、アイツは――。


「私は三千年間、君たちを見守り続けてきた。そして、絶望したのだ……世界の危機に対し、何も為さない者たち。余りに弱く、自らの力で何かを切り開くこともしない。ただ力のある者に頼り、責任を負わず、誰かが世界が良くなることを祈っているだけの無価値な存在……あまつさえ、奪い、罵り、傷つけあう。そんな君たちには、存在価値など無いと悟ったのだ。

 それ故に、私たちは君たちを滅ぼすと決めた。君たちを粛清するため、世界各地に目に見えない怪物……天使を放ったのは私だ。先の大災害を引き起こしたのはアルジャーノンの怒りだ。月の守護者であるルーナに既に慈悲はなく、ドワーフとエルフの長は絶望から統治を放棄した。

 そして……君たちに同情的だった海の女神レムは、先ほどこの手で粛清した。

 そもそも、諸君らに勇者が敗れたという詔を授けたのは、裏切りの女神レムをあぶり出すための偽装だ。彼女は古の神々と結託し、失敗作である君たちを護ろうと、我々に対して謀反を企てていたんだ。

 また、彼女は邪神ティグリスを秘密裏にこの惑星に招き入れており……私がアラン・スミスを十代勇者として任命したのは、敢えてその正体を知らないふりをして、彼を援助しようとする女神レムの行動を制限するためだったのだ。

 レムが亡き今、君たちに味方をする神は一柱として存在しない……どれ程祈っても無駄だ。既に我々は君たちに情けなど駆けようとは思っていないのだから」

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