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9-57:夢の終わり 上

「レム!」


 突如として現れた少年の姿を見て――首を絞められるように佇む妹の写し身を見て、大きな声でその名を叫んだ。彼女に肉体など無く、アレがホログラムであると分かっていても、その様子は痛ましさに叫ばずにいられなかった。


 実際、レムは苦し気に表情を歪めており――アレは首を絞められているせいではなく、恐らくは右京によるハッキングの影響だろうが――抵抗もできないのか、ただ空中で為されるがままになっている。対する少年は微笑のまま女神を見つめた後、自分の方へと向き直っていつもの笑みを浮かべた。


「外に出張る意味も本当は無いんだけれど……お礼を言いたくてね。ありがとう、アランさん。アナタがここに来てくれたおかげで、レムは自らの居室から意識を割いて、アナタの援護へ来た……そのおかげて、やっと捕まえることができたよ。

 ついでに、アナタにはキチンと説明しておいた方が良いと思ってさ。これからその身に降りかかる異常の原因について……」


 右京はそこで言葉を切り、急に姿をくらました。彼が立っていた場所には翡翠色の剣閃が走り、尖塔もろとも真っ二つになっている――そして再び現れた気配の方を見ると、また別の塔の上に少年は立ち、自分の近くにいるリーゼロッテは忌々し気にその姿を見つめていた。


「右京、邪魔をすれば殺すと言ったはずよ」

「ははは、君にも謝らなくっちゃ……でもね、全力で戦ったとしたら、勝つのはアランさんだよ」

「そんなの分からない……いいえ、別にそれだって構わない。私は、決着をつけにきただけなのだから」


 リーゼロッテは一度こちらを寂しげな瞳で一瞥した後、すぐに右京の方へと向き直り、少年の方へと殺気を向けた。ともかく、彼女の意識が――殺意が自分から外れてくれるのならありがたい。今はレムを助けなければ。


「おい、レムから手を離せ!」


 右京の方へ指先を向けながら叫ぶが、少年はこちらの声など無視してレムの方へと意識を向けている。レムを離す気が無いのなら、この場で決着をつけてやる――奥歯を噛んで加速し、幾つかそびえたつ塔の屋根を蹴り、跳びながら少年の元を目指す。


 本来なら音速でぶつかれば、その衝撃で味方もろとも吹き飛ばしてしまうだろうが、ホログラムを救うならば、そこまでスマートに努めなくても問題ないはずだ。同時に、右京に対しては遠慮することは無い――ただ全力で駆けつけるだけだ。


 虎の爪を握りながら、少年の姿を目掛けて突撃する。もちろん、右京がJaUNTするのは読んでいる。恐らく背後に来るであろうまで先読みし、空中で身を翻し、右京の消えた塔の屋根を蹴りながら、次に少年の姿が現れた塔に向けて一気に跳躍する。


 しかし、右京は加速した時の中でも微笑みを崩さず――自分が追撃する所まで相手も読んでいたのだろう、今度は思いっきり振り抜いた虎の爪は宙を切り――次の場所に右京が現れたタイミングで加速を切ると、先ほど蹴った塔が崩落を始めて巨大な音を立てた。


「くっ……!」

「言ったろう? 僕の攻撃もアナタに届かないし、同時にアナタの攻撃も僕には届かないんだ。やったところで時間の無駄だよ……それより、少しでも無茶を抑えることをお勧めするけどね」


 声のしたほうを振り返り、再度加速しようと顎を下げると、レムは制止のためなのか、こちらに向けて掌を向けてきた。


「アランさん、彼の言う通りです……変身を解いて、もうADAMsは使わないで」

「何を言ってるんだ! 待ってろ、俺が助けに……!?」


 言い切る前に、自分の体に異変が起き始めた。右京が腕に力を込めているのか、レムのホログラムにノイズが入り始めるのに合わせ、体中に激痛が走り始めたのだ。そのまま硬化した皮膚が剥がれ落ち始め――自分は体の痛みに対し、思わず屋根の上で膝をついてしまう。


「アラン・スミスの肉体は、ジャド・リッチーの屍に遺伝子情報をコピーして生成された……それは、屍肉しにくである他、他人の遺伝子を結合していることによる拒絶反応を、レムの加護によって再生能力を引き上げることで無理やりカバーしていることを意味する。

 レムが力を失えば、アナタの再生能力は失われて、今までの負荷と拒絶反応に耐えられなくなり……すぐに自壊を始めるだろう。」


 そう言いながら右京は一度こちらを見て、そしてすぐにレムに視線を戻した。


「そういう意味では……アナタは女神レムが見ていた夢に過ぎないんだよ、アランさん。レムがこの星の在り方を是正しようと、一縷いちるの望みを託した儚い夢……しかし……」


 右京の言葉が進むにつれ、レムの身体の周囲にノイズが増えていき――彼女は既に言葉を発することもできないのか、ただ申し訳なさそうに、泣きそうな眼でこちらを見つめ――。


「今、その夢は終わる」


 そして、少年が両手で彼女の首を握ると、その手の先で光が弾けて、女神の姿は消え去ってしまった。同時に、身体の痛みは鳴りを潜め――しかし、これは悪い兆候だ――気が付くと、自分の右腕の袖から、炭化した細胞がボロボロと落ち始めだした。

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